2023年 09月 10日
9/11投票日を明日に控えて最後の選挙キャンペーン@ノルウェー・オスロ


2023年 09月 08日
速報「ノルウェー地方選:元ギャング団団長から犯罪・貧困対策を聞く@オスロ大討論会」







投票日11日までわずか5日となる9月6日午後6時。オスロの中心街にあるノルウェー学生協会の建物シャトー・ヌフで「選挙大討論会」があった。
現オスロ市政(日本の都政にあたる)を担う労働党、次期オスロ市政を奪還しそうな保守党。この2大政党と、主要政党の代表が顔をそろえた。主なプログラムは:
① オスロ市の二分化
② オスロ市の住宅危機
③ オスロ市議会の連立のゆくえ
のっけから度肝を抜かれた。最初に登壇したのは、「ノルウェーで最も恐ろしい男」と言われていた元ギャング団団長だった。彼は、貧富の差で二分化されているとされるオスロ市について、ボソボソと低い声で下を向いて話し始めた(写真3枚目)。
彼の名はグーラム・アバース(Ghulam Abbas、1977~)。パキスタン系ノルウェー人で、犯罪や暴力が多発すると言われるオスロ東地区で育った。子どもの頃いじめや暴力被害にあった。いくつかの犯罪で逮捕された。刑期を終えた後、大学に入学して社会福祉を専攻した。現在ソーシャルワーカーとして、主に若者の犯罪を防ぐために働く。作家でもある。
「ノルウェーは、犯罪者が立ち直れる社会」だと聞いていたが、まさしくグーラム・アバースこそノルウェー社会の申し子ではないだろうか。
彼は「刑務所は犯罪の学校」だと称し、刑務所は罪を犯した人たちの心身を回復させて新しい生活へと導くのではなく、重罪への道へ導くようになっていると述べた。
グーラム・アバースの体験話をもとに、彼を交えて労働党、左派社会党、進歩党、自由党の代表ら4人が、オスロ市のかかえる貧困、言語、家族、教育などについて、議論を交わした(写真4枚目)。
左派は、主に貧困や家族や周りの教育のなさ、疎外感などが犯罪の根底にあり、社会的環境を充実させるなど根源的問題の解決が大事だと語った。それに対し、進歩党など右派は、刑を厳しくすることが防止に役立つと主張した。犯罪撲滅にはどの党も賛成だが、どうすべきかで大きく分かれた。
住宅については、オスロの住宅高騰がテーマだった。学生、若者、看護師など中堅労働者がオスロに住めなくなる危機を回避しなくてはいけない、住宅市場の法的規制が必要ではないか、などが話された。
11日の選挙で、首都オスロを制するのはどの政党か。選挙後の連立の組み方で決まる。
現在オスロ市政を握っているのは、労働党だ。その労働党代表は「左派社会党、緑の党と組みたい」、対する保守党代表は「進歩党と自由党と組みたい」と、各党を壇上にさそった。左右両派からのけ者にされたのは極左とされる赤党。だが、赤党代表は、司会者にさそわれて登壇して、「学校のスポーツで、どのチームにも入れない生徒はいるものですよね」とユーモア交じりに討論に加わった(写真6枚目、右から2人目)。赤党支持者がたくさん参加していたのだろう。ほぼ満席の会場から大きな拍手がわいた。
対立する政策姿勢を話し合いながらも、どの政党も他の政党の存在を尊重している様子がうかがわれた。誰ひとりエラソーにふんぞりかえっている人も、マイクを離さず「我こそは」と声を荒げる人もいなかった。
また、長時間あきさせないプログラムは、主催者たちの用意周到な準備と協力によるのだろう。
ノルウェー語の解説や背景説明はベンテ・シェルヴァン(前NRK職員)。心から感謝する

■速報「ノルウェー地方選:投票所で選挙を直接学ぶ中学生@オーモット中学」: FEM-NEWS (exblog.jp)
■速報「ノルウェー地方選:重点政策は高齢者サービスの充実@エルブルム市」: FEM-NEWS (exblog.jp)
■速報「ノルウェー地方選:二大政党党首と市民とのTV政治討論会@トロムソ」: FEM-NEWS (exblog.jp)
■政治家の出発点は中高時代の政治的関心(ノルウェー): FEM-NEWS (exblog.jp)
■刑務所職員ストで予算反対(ノルウェー) : FEM-NEWS (exblog.jp)
■再犯率の最も少ない国の刑務所 : FEM-NEWS (exblog.jp)2023年 09月 06日
速報「ノルウェー地方選:投票所で選挙を直接学ぶ中学生@オーモット中学」

ちなみに、ノルウェーの高校生は、全政党の代表を学校に招いて、全校生徒の前で政策討論会を催す。その後、模擬投票をして、ノルウェー全高校の結果が出される。それによって高校生がどの政党を支持しているかなど傾向がわかる。「スクールエレクション」と呼ばれる民主主義の学習だ。国会、地方議会の選挙前に行われる。今年も11日の地方選前に、全国の高校で予定されている。
何度か高校の「スクールエレクション」を見て記事にしてきた私は、今回、中学生がどんな政治学習をしているかを、知りたいと思った。
へ―ドマルク県のオーモット市オーモット中学校の9年生(中2にあたる)は58人いる。全員、社会科クラスで選挙について学んできて、選挙前に実際の投票所に行く、と聞いた。そこで担任のアンドリーネ・ビョルクホーレン(Andrine Bjørkholen)の協力を得て、その様子を取材した。
9月5日(月)12時45分。生徒たちがオーモット市文化センター玄関先に設けられた市の投票所にやってきた。ノルウェーの地方選挙は今回投票日は11日だが、8月初めから投票ができる。つまり、5日は事前投票日だ。
市の職員(最上写真。妊娠中の女性)が、投票ブース前で生徒たちに説明をし始めた
「この棚に並ぶ市議会と県議会の政党候補者リストから1枚ずつ選びます。当選してほしい候補の空欄にクロスをつけると、その人の票が増えます。リストの中身が見えないように2つ折りにして、あちらの選挙担当のデスクに持参して、印鑑を押してもらって、投票箱に入れます」
説明が終わったら、もうひとりの職員が実際に投票ブースに入ってカーテンを閉めた。しばらくして彼女は、生徒たちが見守る中、リストを投票箱に入れた。生徒たちに見せるための真似事(実演)かと思ったら、「実際に投票しましたよ」と言った。
生徒たちが見聞きしている横を、市民がゾロゾロと事前投票にやってきた。一時、中学生たちと投票に来た市民たちが混然一体という光景となった。選挙管理委員たちに一挙手一投足を見張られているような日本の投票所の光景と、なんという違いだろう。
その後、全員、図書館に移動。図書館は同じ建物のすぐ横にある。
生徒たちは、心地よさそうな椅子に座った。さきほど、投票ブース前で妊娠中の女性職員の話を聞いていた男性が市長(保守党、日本の自民党にあたる)だった。市長は立ったまま、話はじめた。そういえば、先日のTV討論会でも首相と前首相は立ったままで、市民たちは椅子に座っていた。
オーモット市長は、「選挙の意義や必要性」「政党の数」「選挙後50%をとる政党がないため、いくつかの政党で連立を組んで理事会をつくる」「世界には政治的意見を言えない国もある」「ノルウェーも富裕層が選挙権を得てその後にすべての人に選挙権が広がった」・・・などと話した。
次に生徒から市長への質問時間になった。いくつか紹介すると・・・。
生徒「市長は、政治家になる前は何をしていたんですか」
市長「森林業について学び、森林業の仕事をしていました」
生徒「市長は保守党ですが、たくさんのたくさんの政党のなかで、保守党を選んだのはなぜですか」
市長「首相だったコーレ・ヴィロック(80年代首相だった保守党党首)を尊敬していたからです。みなさんのなかにヴィロックという名を聞いたことある人どのくらいいますか」
(手をあげた生徒は1人しかいなかったように見えた)
生徒「この市の市長であることに必要なことは?」
市長「幼稚園、学校、高齢者ホームなどを充実させることです」
生徒「市長となって、仕事のなかで一番おもしろいと思うことは何ですか」
市長「多くの市民と会って、直接話し合うことです」
生徒「議会では、どんな仕事をするんですか」
市長「いろいろな仕事がありますが、税金をどう使うかを決めることが大事な仕事です」
終了後、生徒2人に「今日の選挙学習はどうでしたか」と感想を聞いた。
ノールン・モー「これまでクラスで勉強した内容が、よくわかりました。とてもよかったです」
エッジ・アハムド「今、私は政治的な活動をしていませんが、政治に関心があります。将来、議員になりたいです」
オーモット中学の生徒たちのおかげで、民主主義の鍛え方をかいま見ることができた。
■世界一民主主義の国はノルウェー(2021 Democracy Index by EIU) :FEM-NEWS (exblog.jp)
■「子ども選挙」は労働党勝利で政権交代へ(ノルウェー国政選挙2021) : FEM-NEWS (exblog.jp)
■スクール・エレクション終わる(ノルウェー国政選挙2021) : FEM-NEWS (exblog.jp)
■民主主義度世界一はノルウェー(DemocracyIndex 2020) : FEM-NEWS(exblog.jp)
■「民主主義はあなたの声を必要としている」(ノルウェー): FEM-NEWS (exblog.jp)
■スクール・エレクションは民主主義の学校(ノルウェー): FEM-NEWS (exblog.jp)
2023年 09月 04日
速報「ノルウェー地方選:重点政策は高齢者サービスの充実@エルブルム市」






ノルウェー政権は、外務大臣(労働党)の夫が、政府と関係を持つ会社の株の売り買いをしていたことが明らかになって、大揺れだ。ただちにマスコミは、前政権の首相(保守党)の夫も似たような企業投資をしていたと、暴いている。
「政治家への信頼ががた落ちです」「まったく恥ずかしい」「ノルウェーの政治家も清廉潔白な人ばかりではないとわかっていいのかも」と、ノルウェー友人たちは言った。
そんなスキャンダル続きのオスロの政治を離れて、9月3日土曜日、へードマルク県のエルブルムの選挙運動を見に行った。
エルブルムは人口2万人ちょっとの中堅都市だ。主産業はサービス業にシフトしたが、長年、農林業とりわけ林業が盛んだった。
選挙テントが並ぶ、広場には、子連れ狼ならぬ「子連れ女性」の大きな銅像があった。「男たちが、何か月も森に住みこんで森林伐採や運搬に従事する間、家のことだけでなく地域のことすべてを一手に引き受けたのは女たちです。女性に敬意を表するために建てられました」と、案内役のマグ二・メルヴェールは言った。
私は、日本で、裸体の若い女性像が目立つ公共空間に怒ってきた。この銅像のように、公共空間は、女性の目で歴史的事象を掘り起こして、あたるべきではないか。
そんなエルブルムは、前回2019年の選挙で、定数35議席を、6政党で分けた。2万人の地方自治体が6つの政党から議員を出せることに、選挙制度の違いを見た。
内訳はというと、労働党13、中央党8、保守党4、左派社会党4,進歩党3,緑2。年金党1。国会に議席を持つ自由党とキリスト教民主党は1議席もとれなかった。上の写真からもなんとなく想像できる。
ノルウェーは地方選も比例代表制だ。候補者ではなく政党を選ぶ。首長選挙はなく、首長は地方議会の最大政党から選ばれる。国会の首相の選ばれ方と似ている。エルブルムの市長は、現在、最大与党である労働党の女性Lillian Skjærvikだ。
ほぼ全政党の選挙テントがズラリと並び、その前で党員たちが、チラシを配布したり、話あったり。テント前のテーブルには、政策チラシのほかコーヒーとケーキ、キャンデー、ボールペンなど小物が並ぶ。政党を選ぶ選挙なので、候補者個人は選挙事務所も宣伝カーもマイクも必要なく、お金を1円も使わない。日本の自民党にあたる保守党の候補者であろうと、選挙費用はゼロだ。
「エルブルム市にもっとも大切な政治課題は何ですか」と、各党に聞いて回った。高齢者ケアの充実がメイン政策だと答えた政党が多いようだったが、それぞれの特色が出ていておもしろかった。
保守党「市民が広い選択肢を持てるようにすることです。とくに学校や私企業にもっと柔軟性を持たせたい」
労働党「看護や福祉サービス、とりわけ高齢者ケアに携わる人たちの待遇をあげることです」
左派社会党「自然破壊を招く企業優先を考えなおすこと、環境問題です」
キリスト教民主党「家族を大切にするという価値観です」(テントはなく党員1人だけ)
赤党「富裕層と貧困層の格差は広がっている。富裕層の税金を上げて弱者に回すことです」
自由党「社会的活動に参加するボランティアを増やすことです」
中央党「病院を合併して巨大化することに反対。特に小児科病院は地元で充実させたい」
進歩党「高齢者ケアを私企業と連携して充実させることです」
緑の党(テントもなく、党員もいなかった)
ノルウェー内閣は、現在、労働党と中央党による連立政権だ。しかし地方議会は、中央政府とかならずしも同じではない。労働党と左派社会党が連立を組んだり、中央党が進歩党と組んだり、地域の事情でさまざまだ。エルブルムは、労働党・中央党・左派社会党が与党だという。
世論調査によると、保守党の支持が伸びており11日の選挙で体制が変わりそうだ。

■速報「ノルウェー地方選:二大政党党首と市民とのTV政治討論会@トロムソ」 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■トイレから教会へと続いた静かなる女性パワー@ノルウェー・オーモット市 : FEM-NEWS (exblog.jp)
2023年 08月 31日
トイレから教会へと続いた静かなる女性パワー@ノルウェー・オーモット市


2023年8月27日、ノルウェー・オーモット市のオーセン教会は、荘厳な賛美歌につつまれた。教会設立100周年を記念する特別な日曜日だった。
教会には縁のない私がなぜ礼拝に? アンネ・ブリット・リリホルムAnne Britt Lilleholm(写真左下)と再会したからだ。まったくの偶然だった。
スーパーマーケットのトイレ前で、一人の女性とすれ違った。なんとなく見覚えのあるように感じた私は、「ずいぶん前、オスロの外国人プレスセンターで働いてませんでしたか?」と声をかけた。すると「オー、なんという運命的出会いでしょう」と私を強く抱きしめた。 運命(skjebneシェーブナ)という強い言葉が出たのも、無理はない。実に20年ぶりだった。
アンネ・ブリット・リリホルムは、オスロの外国人プレスセンターで働く外務省職員だった。そこに初めて出入りを許された私は、右も左もわからないことだらけ。どれだけ彼女に助けられたことだろう。
アンネ・ブリットは、定年退職。数年前、オスロのアパートを売りはらって故郷オーセンに戻った。故郷のために自分の財産を生かしたいと考えた彼女は、教区の評議会委員長に相談した。話し合いの結果、歴史あるオーセン教会の改修費に充てることに決まったという。
地方紙によると、寄付金額は、400万ノルウェークローネ。日本円にして約5500万円! 改修はこれからだ。
というわけで、なつかしいアンネ・ブリットに誘われるままに、私は初めてオーセン教会内に足を踏み入れた。
8月27日、その特別な礼拝をつかさどった牧師は、男女2人。うちメインの演説は、女性の牧師だった。その女性はスーヌヴェ・サクラ・ヘッゲムSynnøve Sakura Heggem。最近、増えてきた女性牧師だが、彼女はその先駆者のひとりだ。自らもシングルマザーとして苦労したからか、教会に同性婚を認可させる運動にも尽力した。生協の生みの親「賀川豊彦」の研究者でもあり、たびたび日本を訪れている。
次に演説をしたのは、教区評議会の委員長ヘーゲ・ヴァングリHege Vangli。彼女こそ、アンネ・ブリットが「自分の財産を故郷に役立てる方法はないか」と相談した相手だ。外務省職員として働き続けたアンネ・ブリットの長いキャリア。悔しい思いもあっただろう。その労働の対価の使い道を一緒に考えてくれた女性だという。
ノルウェーの教会は、日本のお寺とは異なって、それぞれの教会やその周りの広い土地を所有してはいない。所有者は教区である。教区の決定機関は評議会。ここが、洗礼、結婚、葬儀、教育、土地の問題など、教会に関わるさまざまなことを話し合う場であり、決める場だ。教会評議会委員は、前もって提出された候補者から、地方選の日に、地方選と同じ投票所で、投票によって民主的に選ばれる。
この教会評議会という決定機関の存在が、アンネ・ブリットの思いの受け止め先となった。
評議会委員長ヘーゲの27日の演説から、ひとつだけ紹介したい。
教会100年と関連づけてだと思われるが、こんな話をした。
「ご存じグッドルン・ニーモーエン Gudrun Nymoen (注)は、104歳だったとき、『以前より体を動かすことが難しくなった』と私に言ったんです。それで『以前って、いつですか』と聞いたら、『100歳のときね』と」
グッドルンは、100歳までオーセンで一人暮らしをして、その後、高齢者センターに移ったのだという。高齢者センターでケアワーカーとして働いていたヘーゲだからこそのユーモアあふれる話に、参列者たちの顔がほころんだ。
教会の祭壇に掲げられた絵画「受胎告知」も注目にあたいする。彫刻家で画家マリア・ヴィ―ゲラン、弱冠18歳の時の作品だという。彼女はオスロのフログネル公園の彫刻群をつくったグスタフ・ヴィーゲランの姪にあたる。当時、ノルウェー教会の祭壇の絵のほとんどはキリストだったらしい。その慣行を打ち破って、母マリアを描いた。
アンネ・ブリット・リリホルム、スーヌヴェ・サクラ・ヘッゲム、ヘーゲ・ヴァングリ、グッドルン・ニーモーエン、マリア・ヴィ―ゲラン。女性の影が薄いと考えていた教会という世界で、私は並々ならぬ女性パワーを感じた。その世界にいざなってくれた20年前の知人との「運命の力」に感謝!

【注:Gudrun Nymoenは2021年、110歳で天寿をまっとうした。こちらでの一人暮らしとは、一人で雪かき、薪運びなどの労働をこなすことを意味する。100歳の女性がそれを成し遂げたことは驚嘆に値する。彼女の支持政党は労働党。最も長生きしたノルウェー人だそうだ】
【更新 20230902 ミスを訂正し脚注を加えた】