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ノルウェー国政選挙2025:非白人の移民系当選者のひとりマリアン・フセインに聞く

暑い日だった。さまざまな民族の人たちが、所せましと連なる露店のあちこちで果物や野菜を買い求めていた。ベビーカーを押す女性や歓談する若者たち。インド・レストラン前では、飲み物を楽しむグループが外のテーブルを囲み、その前の広場では子どもたちが遊んでいた。平和で楽しそうな光景の中、私も冷たいジュースを飲んだ。



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ノルウェーのグルンラン(Grønland)。オスロ中心部にある移民系住民の多い地区。私が訪ねたのは、9月の国政選挙の数日前だった。


そこは、半月ほど前、ドイツの極右政党AfDがやってきた場所だった。なぜ、AfDがこの場所に? 移民排斥を掲げるAfDが、「リミグレーション(移民強制送還)」の示威行為をねらって「もっとも危険な所」と攻撃の的に選んだからだった。国政選挙を意識して、ノルウェー民主党(Norway Democrats、極右政党で国会議員ゼロ)が仕掛けた。


ところが、AfDの動きに反対するグルンランの住民たちや団体、そしてオスロ市長までやってきて「ナチズム反対」「ファシストの来る場所ではない」と抗議の声を上げた。AfDの政治家たちは、警官に「警備上の理由」で押し返されたのだという。ノルウェーらしいなと思った。


このノルウェーらしさは、市民の粘り強い闘いと、移民の権利擁護に努める政治家の存在なしには考えられない。この9月の国政選挙では、非白人の移民系の当選者は12人。これまでで最多となった。


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その一人、マリアン・フセイン(Marian Hussein、上の写真)に、国会で話を聞いた。「移民難民差別反対」を掲げる政党のひとつ左派社会党SVの国会議員だ。


マリアン・フセイン1986年ソマリア生まれ。10歳で内戦の続く祖国ソマリアから亡命してきた。国会で初登壇した際、「ノルウェー史上初のヒジャブ議員」と報道されたが、それどころではない。彼女は「初のソマリア系国会議員」であり、「初のアフリカ系国会議員」なのである。


ちなみに、ノルウェー国会初の女性はアンナ・ログスタ(Anna Rogstad)である1911年のことだった。その110年後、2021年、マリアンはノルウェー国会初のアフリカ系国会議員となった。4年後の今回、マリアンヌは、オスロ左派社会党がつくる候補者リストの1番に登載されたのである。もちろん、党の顔として、当選した。


選挙直後でさぞかし疲れていたに違いないが、インタビューを引き受けてくれた。国会議事堂内の会議室で、マリアンは政党に入党したきっかけをこう言った。


2013年、中道左派陣営が選挙に敗れて、進歩党(極右といわれる政党)を含む中道右派政権に変わりました。その時、私は強い恐怖を抱きました。移民や障碍者など社会的ハンディを持つ人たちへの政策から左派社会党を支持していましたが、党員ではありませんでした。ソーシャルワーカーとして働いていた私は、政治家は別の人間だと思っていました。が、同職の友人が『政治や法律を専門としている人でなくていいの』と党に誘ってくれました。それで2014年、党員になりました」


2015年から、彼女は地方議員として活躍する。ノルウェーの地方議員は仕事や学業を続けながらのボランティアだ。ほぼ無給の奉仕活動であり、使命感が支えている。


2年後の2017年、オスロ左派社会党の候補者リストの5番目に登載された。ノルウェーは比例代表制の選挙だ。投票の結果、オスロ選挙区の左派社会党から国会議員当選者は2人。加算票(注1)を多くとったためだろうが、5番目だったマリアンは上から3番目にあがったと報道されている。つまり、彼女は代理議員第1番目になった。党内のだれかが免職になると、ただちに彼女に出番が回ってくる。


案の定、休暇をとった左派社会党の国会議員の代わりに、マリアンは代理国会議員となった。この時のことが、「初のヒジャブ議員」と、日本にいる私のところまで届いた。ノルウェーでは、国会議員が大臣に就任すると、その議員の代わりに、同じ政党の同じ選挙区の代理議員が議員となる。権力の集中を避けるため、大臣と国会議員は兼務できないとされているからだ。ほか病気休暇、育児休暇、教育休暇などをとる国会議員も珍しくないため、代理議員の登場は少なくない。


2021年の国政選挙ではオスロ左派社会党リストの2番目に登載され、マリアンは正真正銘の国会議員となった。


マリアン自身は、ノルウェー亡命後、初めて小学校に通った地ルーロス(Røros)近くのオス(Os)でも、その後引っ越したオスロの小学校最終学年、中学校、高校でも、差別や嫌な経験を受けたことはないと言った。しかし・・・と、こう続けた。


20011月の事件です。オスロでベンジャミンという少年がネオ・ナチに殺害され、安心できると思っていたオスロが、一変しました。そして2011年のウトヤ島。この選挙中も、タミマという女性が殺害された(注2)。私と同じソーシャルワーカー、オスロで働く女性、しかもアフリカからの移民という共通項もありました。自分のことのように深刻に考えました。私は左派社会党の代表であると同時に、ノルウェーの移民・難民を代表でもあるのです。一層、政策を研ぎ澄ましたい、と考えています」


彼女が国会議員に当選したのは、彼女の使命感や政治姿勢だけではない。土台には、地方議会・国会ともに比例代表制をとってきた100年以上の歴史がある。さらには、1970年代から始まった候補者の4割を女性にする政党のクオータ制。そして、長い月日をかけて候補者リストの順番を決める党内論争、党員の人数の多さや層の厚さ・・・。まだまだノルウェー政治の話は続く。後編をお楽しみに。


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  ▲ノルウェー初の女性の国会議員アンナ・ログスタの写真を指差すフセイン国会議員



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【注1:加算票のシステムは、今回の選挙からなくなった】

【注2:報道によると、被害者は児童若者福祉施設に働く女性で、加害者はイスラムを嫌悪する10代のテロリスト】


by bekokuma321 | 2025-09-29 22:47 | ノルウェー