2025年 09月 15日
ノルウェー国王との「袖の下」談義
2025年9月12日(金)ノルウェー国王と謁見することができました。ノルウェーの「強い女性」のことから日本の選挙にいたるまで、ほぼ途切れることなく対話が続き、あっという間の30分でした。
世界一の民主主義の国といわれる国の国王が、いかに、男女平等を大切に考えているか、が伝わってきました。写真撮影や記録をとることは禁止されていましたので、貴重な対話を、思い出しながら報告します。

そこは、Protocol roomと呼ばれる部屋でした。たくさんの蔵書に囲まれた部屋の中央奥に、初代国王であるホーコン7世の肖像画が掲げてありました。現国王の祖父にあたります。
映画『ヒトラーに屈しなかった国王』を思い出しました。ナチスドイツに屈服せず、ドイツの襲撃を逃れて国内を転々とした末、イギリスに亡命。ドイツ敗戦まで国民を激励し続けたと言われる国王です。
窓のそばに署名テーブルがあり、そこで署名をして、窓から外に目を向けると、私も散歩したことのある王宮公園が広がっていました。
今回は、「女性の権利獲得と女性の政治参加推進の功績」でノルウェー国王功労賞の勲章を頂戴したことの御礼を申し上げる会見でした。イプセン研究家・翻訳家のアンネ・ランデ・ペータス(Anne Lande Peters)さんが、ノルウェー語の通訳として、私をサポートしてくださいました。アンネさんも、功労賞の受章者です。
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国王:はじめまして、ようこそ。
(私たちが部屋にはいると、国王はテーブルの席を指して)
どうぞ、こちらにおかけください。
(国王の右に私、左にアンネさんが座る)
私:このたびは功労賞をいただき、本当にありがとうございます。
国王:あなたの履歴書であなたの何冊かの著作を見ました。中身は読めませんが、英語のタイトルは分かります。みな、おもしろそうですね。
私:長年、私はノルウェーの女性たち、とくに強い女性たちから刺激を受けてきました。エヴァ・コースタ、男女平等オンブッド、女性政治家、ベリット・オースなど、日本に招いて講演をしていただき、多くの日本女性たちが励まされました。とくに、ベリット・オースの「支配者の5つの抑圧テクニック」は、女性への抑圧構造を知らせてくれました。
国王:ベリット・オース・・・彼女は偉大なおばあさんになって・・・実は、この私も、そういう(強い女性の)一人と結婚しました。
(笑い)
国王:私はソニア(王妃)といっしょになってとても幸運でしたね。
(私たち2人は、強くうなずく)
私: アンネさんは、イプセン研究家・翻訳家です。じき、新しい本が出るそうです。
国王:ヨン・フォッセやイプセンを日本語に訳すのは大変なことでしょうね。
アンネ:はい。大変です。でもとても楽しい作業です。このたびは勲章を翻訳家である私にくださいまして、心から感謝を申し上げます。翻訳家の同僚たちも国王が翻訳することの価値をここまで認めてくださったことにみんな喜んでおります。普通はあまり目立たない職ですので。
国王:(微笑み、うなずく)
アンネ:国王の初めての訪日はオリンピック選手だったと思いますが。
国王:ええ、東京オリンピックがあったとき、ヨットの選手として参加しました。江の島まで電車に乗って行ったのですが、電車の中には私たちしかいなかったのです。13時32分に到着ということは聞いてましたが、これでいいのだろうか、と不安でした。その時間になって、到着したら、そこにはたくさんの日本人が待っていてほっとしました。
アンネ:江の島では、それを機に、日本とノルウェーの記念ヨットレースが毎年行われていますね。
私:国王一家は、スポーツ一家なのですね。父上でしょうか、ホルメンコーレンのスキー場にスキーをなさっている銅像を拝見したことがあります。
国王:そうです。あれは私の父ですね。
私:私の心に強く残っているのは、2016年の国王のスピーチです。強く感銘を受けました。NRK(ノルウェー公共放送)で英語字幕つきで放映され、私はそれを日本語に訳して紹介しました。
国王:(ほほえみながら)あーあれ、また、あれですか。
私:今、この混迷の時代に、あのような話はなお一層必要とされていると思います。

国王:いや、いや、私は、ほんの小さな点のようなものにすぎませんけどね(Just a little speck)。ところで、素敵なお召し物ですね。
私:実はこの着物は借りものなのです。この着物の柄のパターンは、日本の書道家・篠田桃紅の書のタッチとよく似ているのです。彼女は若い頃、日本の書道界に受け入れられず、渡米。そしてアメリカで受賞して名をあげて帰国したのです。彼女のパワーを身にまとっているつもりで、着て参りました。
国王:ところで、ノルウェーのいろいろなところを見てきたのですか?
私:いえ、私は、選挙や女性政治家に強い興味がありまして、それ以外のことは、見る暇もなくて・・・。今回も、国政選挙を取材したくてやってきました。先日は、労働党や左派社会党の戸別訪問に同行しました。実は私たちの日本では、選挙期間に戸別訪問をすることは法律で禁止されているので、他国の制度が気になるのです。
国王:ほー、禁止されているのですか。
アンネ:なぜ禁止されているのですか?
私:日本では、戸別訪問の際、わいろが横行した、という歴史があったようなのです。今日、私は着物を着てますが、これが袖で、袋になっていまして、袖口にお金を入れておいて、有権者の袖の中にそっと差し入れたと言うことがあったようです。だから、日本では、わいろのことを「袖の下」と呼ぶんですよ。
国王:今日は、何も入れてませんよね、わっはっは。
(と言うことで、爆笑でお開きとなりました)
【会話は英語で行われた】
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