2024年 06月 29日
先住民の権利と台湾における先住民枠について by 王貞月
2024年6月21日、「楽しく比例制をめざす会(GPR)」主催のトーク「アイヌ女性への複合差別」があった。講師多原良子さんの話を聞き、アイヌ民族の歴史やアイヌ女性の複合差別についての認識を深めた。詳細は「報告『多原良子:アイヌ女性への複合差別と政治参画』by 渡辺順子」を。
アイヌ民族の人権・自己決定権が尊重されるためには、まずアイヌ民族の政治参加を確保する必要があると思われる。そこで、参考までに台湾立法委員(国会をさす)における先住民枠について述べる。
台湾の先住民は、清朝統治期に「蕃族」、日本統治期に「高山族」などと差別的に呼ばれた。1980年代に先住民意識が高まり、土地返還運動が起こった。1994年「台湾に元々居住している民族」という意味の「原住民」に改正されて公式名称となった。
日本統治期には9先住民族しか認められていなかったが、民主化を経て16に増えた。台湾内政部(総務省をさす)の2024年5月の統計によると、16の先住民の人口は約60万人(女約31万、男約29万)で、総人口の約2.6%である。
▲台湾の先住民は先住民枠によって国会のみならず地方議会にも進出。県会議員の左から1人目、2人目、5人目が先住民(2023/3 台湾東部の花蓮県議会議事堂)
台湾では、憲法改正により、国会に相当する立法院立法委員(国会議員をさす)の定数は2008年から113議席となった。選挙制度は、日本の衆議院選挙に類似する「小選挙区比例代表並立制」に改正された。しかし、日本とは異なり、小選挙区と比例代表の重複立候補制度がなく、さらに比例代表名簿には女性を半数以上含むことが求められている。
また、憲法は、全113議席を、小選挙区73議席、比例代表34議席、先住民枠6議席と規定している。その先住民枠は、平地先住民と山地先住民の2選挙区から3議席ずつ選出される。ちなみに先住民枠が台湾に歴史上初めて導入されたのは、先住民意識が高まった1980年のことだった。
先住民枠という特別枠の存在しない日本からすると台湾の先住民枠の存在は民主主義としてすぐれているようだが、次のような問題も多い。
①選挙区が広大であるため代表性が薄い ②平地先住民と山地先住民の2区分のため都市部先住民の利益が尊重されない ③低投票率 ④選挙ルールは先住民自身による決定ではない ⑤議席数が少なく国家政策に対する影響力が小さい ⑥非先住民の立法委員の支持を得なければ議案提出が困難である。
以上のような問題にもかかわらず、先住民立法委員は先住民の権益に関連する法案を推進するため、重要な役割を果たしており、立法院になくてはならない存在である。それに議席数が少ないとはいえ総議席の5%であり、総人口の約2.6%の倍近い。
アイヌ民族の権利のためには、日本の国会にも、台湾の先住民枠のように、アイヌ民族の特別枠を設けて、政治参加を推し進めることが最重要課題だと考える。そうして初めて、アイヌ民族自身が、選挙ルール決定に関与でき、さらには教育政策、経済支援策、アイヌ女性の権利拡充政策を進めることができるようになる。
とはいえ、特別枠の制度設計は法改正によるしかない。現在の小選挙区制中心の選挙を比例代表中心の選挙に変える運動がますます重要となる。
王 貞月(大学非常勤講師、楽しく比例制をめざす会世話人)写真も
参考資料
黃智惠. 原住民族還我土地運動. 臺灣大百科全書. 文化部. [2021-01-18]https://web.archive.org/web/20210509020547/http://nrch.culture.tw/twpedia.aspx?id=100253. (2024年6月23日取得)
「1050624原住民立法委員選舉制度北區公聽會會議紀錄」2016.06.24
少年報導者「山地、平地傻傻分不清楚,原住民投票選自己的代表有多難?」2024.03.29 https://kids.twreporter.org/article/taiwan-aborigines-election(2024年6月23日取得)
■アイヌ女性の複合差別と改正政治資金規正法 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■政治改革特別委に「衆院選における“重複立候補”の廃止を求める要望書 その2」提出 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■国連会議「先住民の土地と自己決定権の尊重と促進」に日本参加なし : FEM-NEWS (exblog.jp)
■afb4085a070c5945387dab348d2e7f55.pdf (imadr.net) (「マイノリティ女性の現状と課題」2016)