2024年 06月 25日
報告「多原良子:アイヌ女性への複合差別と政治参画」by 渡辺順子
6月21日(金)、楽しく比例制をめざす会GPRは、多原良子さんをゲスト迎え、「アイヌ女性への複合差別」についてのトークを聞いた。アイヌ女性への複合差別とは、民族として受けてきた差別に加え、女性として受けてきた差別を指す。
多原さんは、アイヌ女性会議「メノコモㇱモㇱ(アイヌ語でメノコ=女性、モㇱモㇱ=目覚め)」「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」の代表である。アイヌ女性が、誇りをもって生きることを実現するために、活動を続けている。
21日の参加者からは「あまりの差別の酷さに心が折れそうになった」など、感激と励ましの声があがった。以下、当日の要約。
アイヌ民族が受けた差別は、江戸幕府から蝦夷の統治を命じられた松前藩で、漁場の労働者として男女を問わず奴隷のように働かされた。女性は既婚・未婚の区別なく、出稼ぎ和人の一定期間中の「妻・妾」とされたことから始まった。既婚女性にとっては悲惨な家庭崩壊を招き、男性にとっては慣れない場所での過酷な労働と貧困で多くの命が失われた。
アイヌ民族は明治の新政府によってより酷い差別を受けることになる。明治政府は、一方的に蝦夷地を北海道として日本の一部とし、アイヌ民族の土地を奪い取り、民間に売り渡した。また、アイヌを強制的に北海道や色丹島に移住させた。また、明治政府は、鮭漁、鹿猟を禁止し、狭い土地で農業に従事させ、アイヌ民族は食料にも困窮し、飢餓状態に陥ることになった。さらにアイヌ名を和名に改名させ、アイヌ語や生活習慣を禁止し和風化した。同化政策によって、子どもには十分ではないものの日本的教育をうけさせた。しかしアイヌ成人は教育を受ける機会すらなく、非識字率は高いままだった。
この様なアイヌ民族としての差別に加え、女性は、女性であることによって、アイヌの家庭に浸透した和人社会の家父長制度や男尊女卑に苦しめられた。シヌイエ(文身、いれずみ)も差別の対象だった。差別を回避するために和人と結婚するアイヌ女性が多かったが、和人男性はアイヌ女性を一人の人間と認めず、「一度も名前を呼ばれたことのない」妻や、暴力を受ける妻など、多くのアイヌ女性は、差別と貧困のスパイラルから抜け出せなかった。
この様な実態をどうにかして変えたいと活動していた多原さんは、2000年、「人種差別ジェンダーに関する一般的な性格を有する勧告25」に出会った。この勧告は、国連の人種差別撤廃委員会が、「複合差別」の視点を導入した文書だった。
「人種差別が女性にのみ、もしくは主として女性に、男性とは異なる態様・程度で影響を及ぼす状況があること」「そうした情報収集・分析と活動・措置が必要である」ーーーまさにこれは私たち自身にあてはまる、と多原さんは確信した。

多原さんは、2003年7月8日、ニューヨークで開かれる国連女性差別撤廃委員会CEDAWの審査委員会に行った。ブリーフィングをしたりロビイングをしたり・・・そして、多原さんは、アイヌ女性として初めて国連本部審査会議場で、アイヌ女性の実態を訴えた。
その結果、国連女性差別撤廃委員会のアカ―議長は、最後に、日本政府に対して、次のような勧告をした。
「非常に重要である問題として強調しておきたいのは、先住民族女性を含むマイノリティ女性がこうむっている複合差別の問題である。年齢・人種・民族的出自が女性に与える影響についての体系的な情報とデータが必要である。次回、報告をするように」
多原さんたちは、アイヌ女性の訴えが認められたと涙が出るほど喜んだ。しかし日本政府は、国連から勧告されたにもかかわらず、情報収集もデータも取ろうとせず、何も動かなかった。
多原さんたちは、仕方なく、自分たちでアイヌ女性の実態調査を行い、報告書を作り上げた。その結果、学歴、収入、雇用、教育などあらゆる分野で非常に過酷な環境に置かれている姿があきらかになった。
この実態調査を発表し、差別をなくす制度をつくるために、日夜、日本政府や北海道アイヌ協会などあらゆる機関に働きかけるなど必死に努力した。こうした運動が実って、やっと2016年5月、衆議院議員会館で開かれた超党派国会議員による会ーー「アイヌ政策を推進する議員の会」ーーで、アイヌ女性の権利について発言する機会を得た。実態調査から12年後のことだった。
2019年、アイヌ民族を先住民族として規定した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が制定された。
しかしながら、この推進法は、アイヌ文化の振興のためであり、「先住民族の権利に関する国際連合宣言の8つの趣旨を全く踏まえていません」と多原さんは強く批判した。つづけて多原さんは、「政府に働きかけ、アイヌ民族の人権が擁護される法的制度を実現しなくてはいけない」と次なる覚悟を語った。
生涯アイヌ衣装アミプを着てアイヌを誇りとして生きた祖母の意思に倣って、多原さんは、会議にはアイヌ衣装アミプをまとい出席するそうである。6月21日の楽しく比例制をめざす会の会合にも、豪華な刺繍がほどこされたアミプを着て現れた。
アイヌ民族に対する差別が撤廃されるためには、多様な声が反映される政治が必要であり、そのためには選挙制度を変える働きをしていかなくてはならない・・・10時半まで会合は続いた。司会は金子加代飯塚市議。
次回のGPRは、8月18日(日)午後8時半。ゲストは時永裕子さん(ワーキング・ウィメンズ・ヴォイス代表)。女性の自由への歩みと選挙制度について。

渡辺 順子(神奈川県大磯町元議員、楽しく比例制をめざす会世話人)
■アイヌ女性の複合差別と改正政治資金規正法 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■政治改革特別委に「衆院選における“重複立候補”の廃止を求める要望書 その2」提出 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■国連会議「先住民の土地と自己決定権の尊重と促進」に日本参加なし : FEM-NEWS (exblog.jp)
■afb4085a070c5945387dab348d2e7f55.pdf (imadr.net) (「マイノリティ女性の現状と課題」2016)

