2024年 05月 14日
イプセン『人形の家』から平等社会への道のり by 田中まどか
30分という短い時間で、こんなにも面白い!お話が聴けたこと、何ともトクした気分でした。
5月11日、自由学園明日館で行われたノルウェーのナショナルデー(憲法記念日)を祝う「マイ祭MaiSai」に参加したのですが、その中のスペシャルプログラムの一つ、翻訳者・アンネ・ランデ・ペータースさんと女性政策研究家・三井マリ子さんによる、イプセンの『人形の家』についてのトークのことです。
イプセンはノルウェーの劇作家で、1879年、女性解放をテーマとした『人形の家』を発表し世界的な名声を得た、と言われています。
まずアンネさんから。イプセンが最初に書いたラストシーンは、ノラは家を出て行かない設定だったが、原稿を読んだ妻のスザンナが「ノラは出ていく」と主張し、夫婦は2週間に及ぶ論争をしたそうです。「ノラが出て行かないなら私が出ていく!」と妻が啖呵を切ったことから、イプセンは家を出て行くノラに書き変えたのではないかーーこんな刺激的なエピソードが紹介されました。
現在、ジェンダー平等ランキングが常に上位のノルウェーでさえ、当時、女性は父や夫の所有物のように扱われていました。そんな時代に、女性解放運動に大きな一石を投じた作品が、夫への妻の抵抗によって生み出されたらしいことに、私は驚くと同時に心の中で快哉を叫びました。
アンネさんのお話を受けての三井さんのお話がまた興味深く、めちゃくちゃおもしろかったです。『人形の家』の日本初演と女性の覚醒をうたった『青鞜』の創刊が同じ1911年9月である奇遇や、『青鞜』が翌年の新年号で『人形の家』特集を組んだことによって、「ノラ=覚醒した女=新しい女=奔放でふしだらな女」という図式がつくられて誹謗中傷の的となってしまったことが話されました。
女性であるというだけで受け入れられず、女性が声を上げればつぶされてしまう女性史の一端を知ることができました。
さらに三井さんは、会場となった自由学園を創設した羽仁もと子さんもノラに共感し、影響を受けた一人だと続けました。羽仁さんは、日本初の女性ジャーナリストで、「意思の自由」を求め、「真の自由人」を育てるために自由学園をつくりました。ノラの「人間でありたい」という願いが「意思の自由」への飢渇だったとしたら、通じるものを感じます。
ノラの家出から140年以上が過ぎ、日本にも家を出たノラはおそらく何千万人もいました。それなのに、いまだ日本のジェンダー・ギャップ指数は146か国中125位。
それを嘆いてはいても、家父長制の呪縛から完全には逃れられない女性(男性)がたくさんいます。私もその一人です。だからこそ、呪縛と闘ってきた先人たちの歴史を無にしないよう、その呪縛から完全に解き放たれるために私も闘っていこうと思います。
私は、この日初めて自由学園明日館を訪れました。その造形の素晴らしさに囲まれて、ノルウェーと日本の「平等社会への道のり」を考えさせてくれた一日は、末長く私の記憶に残るはずです。
田中 まどか(前埼玉県日高市議会議員、2024年市長選挑戦者)
【写真上:FEM-NEWS撮影】
【写真下:筆者・田中まどか提供】
【注:録画をご覧になりたいかたは「持続可能な幸せにつながる平等社会への道のり」2024年5月11日(土)マイ祭@自由学園明日館 (youtube.com) 】