2024年 01月 18日
FEM-NEWS 2024年を迎えて
新しい年が明けました。2024年のFEM-NEWSロゴ写真はこれです。渡し船の足場を写した写真で、右側の茶色のスニーカーは私です。
白い文字はノルウェー語です。
「ヘイ、ヘイ、目を覚ませ、世界を変えるんだ」と叫んでいます。
ノルウェーの詩人フローダ・グルッテン(Frode Grytten)が、「ウトヤの惨劇」に捧げた詩の一節だそうです。
「ウトヤの惨劇」とは、2011年7月22日、ウトヤ島で起きたノルウェー史上最悪のテロ事件。犯人は、極右思想の持主で、「第三世界の子孫はノルウェーを破滅させる」などと考え、移民政策に寛容な労働党を忌み嫌っていたとされています。彼は、オスロ官庁街で8人を殺害した後、ウトヤ島に向かいます。島を往復するには、私の乗った船しかありませんので、犯人も、この船で島に侵入したはずです。そして、彼は若者たちを次々に殺害していきます。死者は69人。
ウトヤ島は、ノルウェー労働党青年部が所有している小さな島です。夏には大自然のなかで若者たちがテント生活を楽しみながら政治・選挙を学んできました。2011年のあの日も、10代を中心に700人が5泊6日の合宿をしていました。詳しくは、拙著『さよなら!一強政治』 p118~126を参考にしてください。
2023年秋、冷たい雨の中、私はオスロからバスに乗ってウトヤ島、つまり「ウトヤの惨劇」の現場に足を踏み入れました。
期待は裏切られませんでした。そこには、決して忘れてはならない残虐さの痕跡が残され、同時に、明日に向かおうとする若者たちのエネルギーの源泉がつくられていました。一見相反する2つです。事件以降、サバイバー、被害者の縁者、救急対応にあたった近所の人たち、他政党の人たちなど一人一人と長年対話を続け、そこから新生ウトヤのイメージがかたちづくられていったのだそうです。
私は、20年前、大阪府豊中市の男女共同参画推進センターすてっぷ館長の職を追われました。理不尽さをいくら訴えてもラチがあかず、私は、解決を法廷に求めました。その後7年間闘って、最高裁で勝利しました(2011年1月)。
私が突如首にされた背後には、極右勢力・バックラッシュ勢力がうごめいていました。彼・彼女らは――「フェミニズムは共産主義である。ソ連で失敗したマルクスレーニン思想だ。日本の家族を崩壊させ、日本国家を滅亡させる」と言ってました。「ウトヤの惨劇」犯の妄想と似ているではありませんか。こうした根も葉もないデマが日本を覆い始めたのは、2000年ごろ。この人たちは、議会質問の名の下に男女平等を執拗に攻撃し、フェミニズム関連の図書を閲覧禁止にし、意にそわない講師をはずしては、快哉を叫んでいました。
最高裁で明快に判示されても、極右勢力は、反省するどころか、その牙を隠そうとしません。豊中市当局が最高裁結果を周知徹底させず、むしろ葬り去ろうとしてきたからでしょう(注)。いや豊中だけでなく日本の政治体制の多くは、残念ながら極右・バックラッシュ勢力に忖度したままのようです。
ウトヤ島のガイドは、島を案内しながら熱心に民主主義の大切さを訴えました。「ここは、民主主義、人権、平和、和解を願う若者たちが、国境を越えて出会う場なのです。暴力、ヘイトスピーチが燃えさかる今だからこそ必要なのです」と。まるで私への励ましのようでした。
民主主義の砦ともいえるウトヤ島を去ろうと渡し舟に乗った私の足もとに、「ヘイ、ヘイ、目を覚ませ、世界を変えるんだ」が飛び込んできました。力強い応援歌でした。
FEM-NEWSを主宰する私三井マリ子は、高校教員を経て都議会議員(2期)。法政大学講師から大阪府豊中市男女共同参画推進センター初代館長、福井県武生市初代男女平等オンブッド(オンブズマンのこと)などの職を経てきました。かたわら、NGO「全国フェミニスト議員連盟」を創設し、女性運動を続けてきました。ノルウェー大使館から「ノルウェー王国功労勲章を受けていただけますか」と聞かれてビックリ仰天。女性議員増推進に貢献したからと言われて二度仰天しました(2021)。NYコロンビア大学MA修了(フルブライト奨学生)。
都議時代、都にセクシャルハラスメント防止施策を開始させるなど女性政策を少しだけ前に進めることができました。ILO発行セクシャルハラスメントをなくす政策についての国際調査報告書によると、都のセクシャルハラスメント政策は、日本で初めて、当時、唯一の公的制度でした。
著書は
『さよなら!一強政治――小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』(旬報社)
『バックラッシュの生贄――フェミニスト館長解雇事件』(共編著、旬報社)
『ノルウェーを変えた髭のノラーー男女平等社会はこうしてできた』(明石書店)
『女たちのパワーブック』(ノルウェー労働党女性局編)(共訳、かもがわ出版)
『ママは大臣 パパ育児ーーヨーロッパを揺るがす男女平等の政治』(明石書店)
『男を消せ!--ノルウェーを変えた女のクーデター』(毎日新聞社)
『セクハラ110番』(集英社) などなど多数。
2024年、FEM-NEWSは、多くの仲間に支えられながら、マスメディアにカバーされにくい世界の女たちのニュースを発行し続けます。問合せは三井マリ子(問合せはmariko-m●qa2.so-net.ne.jp ●を@に変えてください)。
読者の皆様にとって、実りある1年でありますように!
【注】木村真豊中市議の議会質問から、最高裁決定を尊重してない豊中市の政策が垣間見られる