2024年 01月 07日
子どもの国際学力調査PISAの結果に見る北欧
2024年のお正月は、目をそむけたくなることばかりだった。その背後にひそむものを見なければ、と目を見開こうとしたが、私的にもさまざまなことが襲ってきて、思うようにはいかなかった。かろうじて安堵したのは、あの大地震の後、新潟県、石川県、富山県の友人知人たちが無事だったことだ。
そんな2024年。FEM-NEWS第1回目は、学校教育についてお届けする。
世界の学力を測る「国際学力調査」が、昨年12月、公表された。通称PISA(Programme for International Student Assessment)。国際学習到達度調査とも訳される。
調査したのはOECD。参加したのは、OECD加盟国37 カ国(注1)を含む81カ国の15歳の生徒69万人。読解力、数学、科学の3分野。世界最大級の調査といわれている。
全体として前回より低下し、数学は15ポイント低下、読解力は10ポイント低下した。なかでもヨーロッパ諸国はかつてないほどポイントを下げた。一方、上位を独占したのはアジア諸国だ。3分野ともトップはシンガポール。台湾も3分野とも5位内に入った。日本は、「世界トップレベル」に上昇した。
▲Summary | PISA 2022results (oecd.org)を元に作図
調査は3年ごとで、前回2018年の後は2021年だったが、コロナ禍のため1年延期された。コロナ禍で3カ月以上休校だったと答えた生徒は、全体で51%に上った。だが、日本はわずか16%だった。日本の好成績は、コロナ禍による休校期間が他国に比べて短かったことが原因のひとつではないかとされている。
国際統計というと、北欧諸国が上位を占めることが多い。FEM-NEWSは、ジェンダー・ギャップ調査で上位を占める北欧をとりあげてきた。そういえば、「世界一の教育」と称賛されたフィンランドに視察に行く人が増えて、「フィンランド詣で」という言葉が飛び交ったこともあった。ところが、PISA2022は、上の表の通りで、北欧は軒並みダウンした。
では、その北欧諸国は、PISA2022をどう報道しているだろうか。まず新聞の見出しはこんなぐあいだ。
スウェーデン「PISA:スウェーデンは数学と読解力で急降下」
ノルウェー「15 歳の生徒の数学の成績は過去最悪」
フィンランド
数学がこれほど悪かったことは過去なかった」
アイスランド「アイスランドほど成績が下がった国はほかにない」
一様に「PISAショック」を隠せない。詳しくはそれぞれリンクで読んでほしいが、当然ながら、どの国も危機意識を持ち、自国の教育のマイナス点を指摘し、改善策をさぐっている。解決策を話し合うために、ただちに当事者を含む関係者代表会議を設けた国もある。
とはいえ、ひどい落ち込みようにも関わらず、北欧諸国の報道からは、日本の学校教育とは異なる北欧らしい特徴が浮かび上がってきて、おもしろい。その中から、アトランダムにいくつか紹介する。
スウェーデン
「生徒の社会経済的背景は教育に多大な影響を与えている。近年、移民の影響で、スウェーデン語に慣れない生徒や、低学歴の親を持つ生徒がスウェーデンの学校に増えている」
「生徒のさまざまな違いを把握できるような学校にする必要がある。(学校改革をした)30年前とは困難さが異なる」
PISA:Sweden falls sharply in mathematics and reading | News (vilarare.se)
ノルウェー
「生徒たちの多くは学校への意欲を失っている。 デジタル化は読書習慣を変え、集中力と注意力に何らかの影響をもたらした、と教育大臣は述べた」
「長年、各政党は、PISA調査結果について議論してきた。中にはPISAは、地方自治体の違いを明らかにしていないため、学校教育の改善に建設的な情報はほとんどない、という批判があった(注2)。さらに、PISA調査はあまりにも成績重視であり、ノルウェーの学校も成績重視になってしまうのではないかと危惧する教育学者もいた」
Pisa-undersøkingafor 2022 viser at norske 15-åringar har aldri vore dårlegare i matte – NRKVestland
デンマーク
「デンマーク語と数学に最も苦労している生徒には、週に数時間、少人数のクラスで指導を受けられるようにすることを提案する、と教育大臣は語った」
「デンマークは他の点でも残念な点が目立った。 OECDでは、生徒が失読症なら、サンプルの5パーセントが受験を免除されるのだが、デンマークの場合は11.6%だった。デンマークでは、生徒が失読症と診断されると、日常生活と試験の両分野で、特別なIT補助具を使用する権利を持つ。しかし、このIT補助具は、PISAのテストでは使用できなかった」
Pisaleader: Compared to the other Nordic countries, we are in a very good position(folkeskolen.dk)
Pisa:Never have Danish students performed worse in mathematics (folkeskolen.dk)
フィンランド
「フィンランドは数学において女子の成績が男子よりも優れた唯一の国である」
「科学では女子522点、男子500点。 女子が男子より22ポイントも上回ったのは、OECDでフィンランドのみ」
「数学は、移民1世は413点、2世は442点。 ネイティブのフィンランド人491 点。 移民1世とネイティブ・フィンランド人の格差は78点だった。読解力では、移民1世・2世に比べて、ネイティブ・フィンランド人が著しく高かった。科学においては、ネイティブ・フィンランド人の平均スコア(519)は、移民の第1世代(410)と第2世代(453)に比べて高かった」
HowFinland's school miracle collapsed – Desolate PISA results published(iltalehti.fi)
アイスランド
「専門家は、アイスランドの言語環境における英語の影響力の増大が読解力に影響を与えている可能性があると考えている」(注3)
「全体的な(かんばしくない)成績にもかかわらず、PISA結果は、アイスランドの生徒は、他のヨーロッパ諸国の生徒よりも学校に幸福感と帰属意識を感じていることを示している。生徒たちはほとんどいじめを経験せず、教師に対してはポジティブな経験を有する」
PISA:Icelandic Students Lagging Behind Nordic Peers (icelandreview.com)
なお日本は国立教育政策研究所が担当事務局で、結果も同ホームページで公表されている。
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
【注1】OECD加盟国は38カ国だが、PISA参加は37か国だった
【注2】ノルウェーの学校教育は地域格差解消に力を入れてきたと言われている
【注3】PISAは原語の英語・フランス語を各国の言語に翻訳されて使用される。本テストはアイスランド語による
【2024/1/9 注釈を欄外に更新した】