2023年 07月 21日
ファリダ・アフマディ著『声なき叫び』(石谷尚子訳)を読んで
最近の調査によると、難民・移民はもっと楽に居住権を得られるべきだと答えたノルウェー人は全体の22%に上った。2000年代初めは、わずか5%だったという。この20年間で「移民を肯定する人がしだいに増えてきている」とノルウェー政府はコメントしている。
ノルウェーの移民・難民政策の寛容さはよく知られている。ドイツ,フランス,オランダ,デンマーク,イギリスの調査を経て、ノルウェーを調査した日本の学者河野健一は、「ノルウェーほど移民・難民に寛大な国はないとの結論に至った」と書く。
しかし、ファリダ・アフマディ著『声なき叫びーー「痛み」を抱えて生きるノルウェーの移民・難民女性たち』(石谷尚子訳)は、違う景色を見せてくれた。
著者はアフガニスタンに生まれ、医学を学んだ女性。カブールで投獄され4か月間拷問を受けた。1982年釈放後、パリのソルボンヌでラッセル平和財団の活動に従事。1983年、世界中を旅してアフガニスタン民主化運動への支援を訴え続けた。1991年、娘とノルウェーに亡命。難民生活を続けながらオスロ大学で人類学を学び、修士を修了した。
本書は、ノルウェーに住むマイノリティ女性へのインタビューを下に、「痛み」を抱えた移民・難民女性たちの暮らしを克明に描写し、複雑にからみあった要因を明らかにし、解決への糸口を提案する。
ノルウェーにやってきたマイノリティ女性の多くは、保守的なマイノリティ家族が多く住む、狭くて不衛生な居住区で暮らす。家父長制の支配する夫や義父母たちに少しは反抗しても、ノルウェー語ができないためーー夫は妻が外で学ぶことを許さないーー福祉制度の知識すらなく、自分の権利に無知だ。「アフガニスタンの女性と同じく、自分以外の人たちへの責任が大きすぎて、自分のことなど考える余裕もない」。
テレビは、出身地での戦争によって負った心の傷や記憶をよみがえさせる。他国での紛争ニュースが、紛争を振り切って命からがらたどり着いた新生活の場で暮らす女性たちに入り込んでくる。体に異常をきたすほどの強い「痛み」に襲われる。それを治す医師の処方箋はない。
メディアは移民を「非難と物珍しさを織り交ぜた」トーンで報道し、ノルウェー人である「私たち」と「彼ら(よそ者)」とに分ける。なかでも移民女性は「画一的イメージ」でひとくくりにされて、女性たちを苦しめる。一人の人間である本当の自分が承認されることはない。「痛み」はさらに強まる。
そんな女たちは宗教組織のいいカモだ。ムッラーはノルウェー社会でもイスラム教価値観を保つことは大事だと言い含める。こうした男性優位のイスラム教的教えが許されている危険性を筆者は説き、そうした多文化主義を「ナショナリズムの縮小版」と批判する。
手を打つには? 「個人レベルで解決できるものはなく、これは社会の仕組みの問題」であり、平等と承認を伴う融合による社会をめざすしかない、という。多文化主義から、個人に根差した普遍的多元主義への転換を唱える。最優先すべきは、「職場でのマイノリティ女性への差別をなくすことだ」と明快だ。いかなる女性にとっても仕事ほど大切なことはない、と筆者は何度も指摘する。忘れられないのはソマリアのタジェバ(42)の言葉だーー「無職の痛みは女性器切除の痛みどころじゃありません」
本書の最初の出版は2008年。「ウトヤの惨劇」の前であり、難民・移民へのノルウェー人の目が厳しかったころの話だ。いま、オスロ市議会には移民系議員が増え、国会議長はイラン移民、文化・平等大臣は2人目のパキスタン移民だ。福祉・教育制度のたまものだろう。とはいえ、こうした成功物語の陰には、「声なき叫び」をあげるおびただしい数の移民・難民女性たちがいる。
移民・難民問題に関心を寄せても、女性をとりまく複雑な問題をスルーしがちな日本の多くの人に、この本が届くことを!
■Norwegians are becoming increasingly positive towards immigrants (sciencenorway.no)
■The Asylum Process in Norway (eng) - NOAS
■UDI will establish up to 50 new refugee reception centres – Dagsavisen
■Skills and Labour Market Integration of Immigrants and their Children in Norway | en | OECD
■ノルウェーの移民政策 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■ソマリア移民女性「男女平等賞」受賞(ノルウェー) : FEM-NEWS (exblog.jp)
■移民女性のための移民女性による選挙キャンペーン : FEM-NEWS (exblog.jp)
■ノルウェー移民政策を揺るがすマリア・アメリエ : FEM-NEWS (exblog.jp)
【更新 2023/07/22】

