2023年 05月 14日
『さよなら! 一強政治』が描く歪んだ日本の選挙と5月の風のようなノルウェーの選挙(熊谷さちこ)
私はこの本(『さよなら!一強政治~小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』)を二度読みました。
一度目は、「一強政治になっているのは、小選挙区制という選挙制度が悪いからだ、とわかった。でも、比例代表制に変えようったってねェ」でした。
ところが、二度目は、なるほどと納得することばかり。選挙制度を変えようという「難しさ」より、選挙制度を変えなくてはいけないという、とてつもない「正しさ」が伝わってきました。難しさにめげず一人で研究を続け、このどうしようもない日本の中で訴え続ける著者マリ子さんに心打たれました。
本書は、「小選挙区制の日本」「比例代表制のノルウェー」の2部構成です。第Ⅰ部では、マックロケの日本の選挙、悪徳政治家、制度のゆがみが書かれています。第II部では、パーッと暗雲が除かれ、5月の風が吹き渡っているようなノルウェーの選挙制度や選挙運動が書かれています。
第Ⅰ部第一章では、私もすでに6回も経験した日本のドブ板選挙のおかしさが紹介されています。想田和宏監督のドキュメンタリ映画『選挙』を観たノルウェー人が笑い転げた末、驚き呆れ果てた感想を通して、いかに日本の選挙がおかしいかを説明するというスタイルゆえか、とてもわかりやすいです。
第二章は、国会議員のスキャンダルのオンパレード。
第三章は、政党交付金の信じられない使われ方。自身が衆院候補になって政党交付金を受ける身となり、その詐欺的使われ方を目の当たりした著者でなければ書けない、実に具体的な内容です。小選挙区比例代表並立制と併用性は違う、ということも本書を読むまで知らなかった!!
小選挙区制は、候補者個人がドブ板で戦う多数代表制で、選挙費用の個人負担が非常に多い上、死に票があまりにも多い。死に票となった候補者に入れた有権者は、まるで存在しないかのようです。
対して、比例代表制は、政党を選ぶ選挙で、候補者の個人的負担はありません。政党が獲得した選挙結果に比例して政党ごとの当選者が決まるので、多様な有権者の票が捨てられることなく、議席に反映されます。
ちょうど30年前、政治改革の必要性が叫ばれました。改革とは名ばかりで、比例代表制が中心の併用制でなく、それまで通りの多数代表制中心の選挙(中選挙から小選挙になってさらに公平性がなくなった)にされてしまった国会の内情にはあらためてあきれかえりました。
この小選挙区比例代表並立制は、革新社会党と保守自民党の密談によって成立してしまったのです。この時から、日本の一強政治が続いています。日本の凋落を嘆きつつ読みました。
第II部では、ノルウェーの比例代表制ゆえの、平等に満ちた社会、選挙運動風景、そこに至る歴史が、著者マリ子さんの現地調査とインタビューによってこれまた綿密に書かれています。
ノルウェーでは、候補者を選ぶとき、政党で会議をして、男女、職業、世代、地区、民族、少数者に偏りがないように決めるのだそうです。だから、移民や障がい者、高校生など、社会の隅に追いやられそうな人も、政治的発言権を持てるようになるというのです。
本を閉じた私に、この本は「では、自分は今後どうするの? マリ子さんの主張に賛同して日本のこの選挙制度を変える闘いに組むの?」と迫ってきます。私だけでなく、読んだ人の多くは私の様に自問しているのではないでしょうか。それほどまでに、著者の迫力あふれる真剣さの匂いたつ『さよなら!一強政治』であります。
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