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ドイツで男女賃金格差7%は違法の判決

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3月8日は国際女性デー。渋谷を歩いて帰宅したわたしを、各国からのデモやマーチのSNSや、女性デーにあわせた女性の権利にかかわるたくさんのニュースが待っていた。


ドイツからは「画期的判決」という見出しのニュースが飛び込んできた。7%の男女賃金格差を争っていた女性が全面勝利したというのだ。


女性の名はスザンナ・デュマ。ザクセン金属会社の営業担当だった。


4年前、偶然に「全く同じ仕事をしている男性同僚の給料が自分より月1000ユーロ、つまり7%多い」ことを知った。「男女同一価値労働同一賃金に反する」と考えた。上司に訴えてもらちがあかなかった。そこで彼女はドレスデンの労働裁判所に提訴した。日本にはないが、労働紛争だけを扱う裁判所だ。


1審、2審とも敗訴。賃金格差は性差別ではなく、賃金交渉力の差によるという判決だった。スザンナは離婚後3人の子を育てる40代シングルマザー。裁判をしながら同じ会社の同じ部署で働いていた。ストレスや不信感で背中に痛みが続き、片頭痛にも悩まされた。2021年、GFFの支援を受け、一縷の望みをかけてエアフルトにある連邦最高労働裁判所(上の写真)に上告した。


スザンナ側の弁護士は、「交渉力しだいで賃金格差が決まるのはおかしい」と主張した。「男性のほうが女性より交渉に慣れており、得意な人が多いことは証明されている。女性は交渉頻度が少なく、成功率も低いが、それは相手の心理を思う傾向のせいです。男性のように交渉すると『なんだ女のくせに、あんな女はいらない』と見られるとわかっている。それこそ古臭いロールモデルに他なりません」


2023年2月16日、連邦最高労働裁判所は、「男性が女性より交渉がうまかったことで、男女賃金格差を合理づけることはできない。むしろ性による差別である」。会社に対してスザンナへ約17000ユーロ(250万円)の支払いを命じた。


これまでも似たような裁判があったが、全面勝利は初めてだった。根拠となったのはEUの男女同一価値労働同一賃金の原則と、それを国内で守らせるドイツEU機能条約157条。


スザンナ・デュマは「この勝利は2人の娘、そしてドイツ全女性のもの」と歓喜の声をあげた。「勇敢であれ、声高であれ。誰にもあなたのパンについているバターを奪いとらせるな!」と女性たちを鼓舞した。なんてすばらしい!


ドイツのニュースは、私の勝訴した裁判を思いおこさせた。


豊中市の全国公募に応募した60人以上から選ばれた私は、2000年、すてっぷ初代館長に就任した。すてっぷは男女共同参画推進センターの愛称だ。3年半後、その座を追われた私は、宮地光子弁護士事務所の呼び鈴を押した。



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調査を進めると、3年目ごろから、館長の知っておくべき重要な情報を徹底して隠され、豊中市から派遣された事務局長に「次期館長は第一義的には三井さんです」と騙され、一方で「三井は辞める」との嘘を流されて、その揚句に豊中市から排除された、ということがわかった。


私の訴えは2つだった。ひとつは、男女平等推進を嫌う右翼的政治勢力による圧力(バックラッシュ)に屈した行政が、館長を解雇したのは不当だ、ということ。もう一つは、「少なくとも4年は頑張ってほしい」と言われており、また恒常的職務なのだから正当な理由なく解雇はできない、ということ。


最高裁は、「(バックラッシュ)攻撃に屈して財団から排除したことは人格権侵害で不法行為にあたる」として、豊中市に三井への賠償支払いを命じた。三井がバックラッシュ勢力の攻撃にさらされてきたことを詳細に認定した。


行政相手に勝訴することがまれな日本では、奇跡に近く、弁護団や支援者たちみんなで歓声をあげた。足かけ7年の裁判所通いが終わった。


しかし、解雇自体の違法性は認めなかった。館長職は「特別職の非常勤公務員の地位に準ずる」とにべもなかった。


裁判所は認めなかったものの、高裁に提出した脇田滋意見書は秀逸だった。脇田教授はドイツの例をひき、使用者は労働者を簡単に首を切れないと言った。有期が認められるのは次の場合のみ。①労働者の希望、②試用期間、③臨時手伝いや病気になった人の代替や季節労働など、④解雇の有効性を争う訴訟を終了させる裁判上の和解の場合、の4つだ。それ以外は有期であってはいけない、のだ。まして恒常的業務の場合、無期の契約が基本であり、有期だとするには、使用者側が合理的客観的な理由を示さなくてはならない、と言った。


脇田教授は、日本でも労働基準法182項は同じように解釈できる。そもそも館長職を有期としたこと自体、解雇制限違反である疑いが強い、とも言った。要は、「これは解雇事件である」と強調し、豊中市が言う契約期間満了うんぬんではないと言ったのだ。


この主張は当然だと私は思った。もし認められたら、まさに「画期的判決」だっただろう。悔しかった。


日本の女性労働者の多くは、非正規だ。低賃金は言うに及ばず、「いつやめさせられるかわからない」。私と同じ非正規公務員は、3年で首を切られる人も多い。これでは賃金格差があっても、セクハラされても、我慢を選ぶ人は減らないだろう。絶対おかしい! この21世紀の奴隷制を根絶しようという闘いに挑んでいるのは、瀬山紀子さんたち公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)だ。




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by bekokuma321 | 2023-03-13 23:20 | ヨーロッパ