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国際売買春組織の首謀者ノルウェーで逮捕される

少々前になるが、202238日、国際女性デー。オスロの広場を埋め尽くした女たちの画像とともに「なんてすばらしい女たちの海、海」と喜ぶ声がフェイスブックに届いた。


だが、この日を迎えるまでには実行委員会内で激しい論争があったようだ。ノルウェーは、性を買う側(ほとんど男)は処罰されるが、買われる側(ほとんど女)は処罰されないとする法を持つ(注1)。その法に反対するグループが「セックスワーカーの権利を」をスローガンにと要求してきたからだ。結局「カネで性を買う行為の禁止は、女性デーの最重要課題」という主張が通ったという。


同じ日の夜、同じオスロで、性を買う行為をめぐって国ぐるみともいえる秘密捜査が行われていた。女性デーを祝った女たちは知る由もなかった。


女性デーから4か月後の78日、NRK(ノルウェー公共放送)が、その衝撃的事件を明らかにした。以下、要約する。


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38日、オスロ警察署人身売買担当の警察官90 人以上が、オスロをはじめノルウェー各地で、売買春宿と疑われる住居への一斉捜査を決行した。あえて女性デーを選んだのは、その日、ノルウェーでは、メディアは女性の権利に関する特集記事を組み、政治家・行政は女性が歓迎する新政策を発表する習わしがあるからだ。


事のおこりは、スウェーデン警察から届いた国際売買春組織の情報だったという。ノルウェー組織犯罪特別捜査班は、極秘捜査を始めた。コードネーム「オデッサ作戦」。オデッサはウクライナの都市名だ。


スウェーデンとノルウェーとの国境には深い森が続く。夜は真っ暗闇。そこの宿泊施設(スウェーデン側)に、スウェーデンから多くの女性(東欧系)を乗せた車が毎週のように乗りつけた。翌朝、別の車が来て、ノルウェー方面に行った。ストックホルム中央駅の貸金庫から定期的にカネをおろす人物がいた。首謀者と思われる人物と別の人物が会ったとき隠し撮りした画像には、たくさんのビニール袋に詰め込まれた札束の山があった。


38日、オスロ警察は、アパートに強制捜査に入った。アパートの26室すべてが24時間営業の買売春に使われていた。驚くべきは、そのビルは数百メートル先には王宮や国会があるオスロの繁華街にあった(上の写真)。


1年半の間に、主にウクライナから200人の女性がノルウェーに移送され、100人はオスロで、他はオスロ以外に住んでいた。買った男たちは法に従って罰金を科された。任意聴取に応じた女たちの話はこうだ。


(つづきは左下Moreをクリック)






「家族や小さな子ども連れもいる」「ノルウェーへの旅費は不要で、経費は働いて得た収入から差し引くと言われた」「契約書にサインした。3週間の業務、休日、労働時間12時から午前3時まで。客と客の間は5分間休憩。夜眠っていてもすぐ客を受け入れる体制をとる」 「客は14人から5人、 中には14人の女性も」「実際は自由がなく、ストレスが多く不快なこともしなければならなかった」「セックスの最中隠し撮りされた動画が送られてきて言うことをきかないとばらまくぞと脅された」「恐怖を感じた」


一方、国際売買春組織で逮捕されたのは8人。罪状は組織売買春あっせん。うち4人は人身売買の罪状でも起訴された。


主犯はノルウェー在住の50代のウクライナ女性。准主犯は彼女の夫で30代のノルウェー男性。娘は、モルドバで逮捕されて拘留中。運転手で売買春宿の管理とカネの取り立てもしていたウクライナ男性。売買春宿にまた貸しされると知っていてアパート契約をしたノルウェー男性2人。東欧からスウェーデンに女性を移送していたウクライナ男性(ポーランドで逮捕)。BMWを運転しスウェーデンからノルウェーに女性を移送していたリトアニア男性。そのほか何人もの助っ人がいるという。


客は、ネットのサイト(宣伝サイトと売買春サイト)を見て、女性を選び、性行為の種類と価格を決めたら契約を交わす。その後「オペレーター」につながる。オペレーターは世界中にいてメキシコで働く人もいたとか。


客が支払うカネは50%が組織に、5%がオペレーターに 残りは女性に行くものの家賃1日500クローネが引かれる。売買春組織側は、巨額の現金、高級車、郊外に瀟洒な邸宅、贅沢な調度品、素晴らしいフィヨルド海岸の別荘・・・を所有していたという。


携わってきたノルウェーの検察官の言葉は、考えさせられる。


「女たちは、祖国では劣悪な仕事しかなく低賃金で、ノルウェーに行ったら稼げると考えて自主的にノルウェーへの旅を選んだのです。 しかし売買春組織は、女たちを無力にします。我々の捜査によって東欧の女たちがノルウェーに来なくなると考えるのはナイーブすぎます。幻想ですね。より大がかりな予算と人員がなければ、我々は、目標に到達できないでしょう」


以上、関心のある人はNRKの記事をクリックしてみてほしい。ノルウェーのような法律を持たず売買春が野放しに近い日本はこれからどうなるのか、長引くロシアの軍事侵攻によるウクライナ(注2)の女たちはどうなるのか・・・頭に浮かんでは消え、今夜は眠れそうにない。



【注1】スウェーデンが世界で初めて制定した買春する側を処罰する法。ノルウェーはスウェーデンに次いで2009年制定した。「北欧モデル」セックスを買う側は処罰され買われる側は罪に問われず支援される: FEM-NEWS (exblog.jp)

【注2】世界を震撼させたウクライナへのロシアの軍事侵攻は2022年2月24日だ。しかし、長い歴史がある。喜田尚記者の迫真のルポ「プーチン 戦争への道」が参考になる。


【写真】オスロのメインストリート。中央の奥に王宮が見える。2019年夏



戦争は女・子どもを人身売買・性産業のえじきにする : FEM-NEWS (exblog.jp)

A new Anti-Trafficking Plan to protect people fleeing the war in Ukraine (europa.eu)

国際女性デーにお薦めの本(2020.3.8) : FEM-NEWS (exblog.jp)


by bekokuma321 | 2022-09-03 20:03 | ノルウェー