2022年 02月 06日
ミシガン大学学長解雇と「上司と部下との関係に関わる指針」
1月18日、ニューヨークタイムズなど米紙によると、アメリカの名門ミシガン大学の学長が、解雇を言い渡された。
公表したのはミシガン大学理事会。「部下との不適切な関係」を持ったことが主因とされている。学長が大学のEメールで交信をしていたことが証拠となったようだ。
この件に関して、匿名者が大学に苦情を寄せたのは昨年12月初めだという。大学が内部調査して学長解雇に至ったのは1月15日。わずか1ヶ月だ。学長が解雇されるというニュースに仰天したが、もっと仰天したのは解雇までのスピードの速さだ。
学長解雇の理由は、ミシガン大学の「管理者と被雇用者の関係にかかわる指針」に違反したことだ。
指針のポイントは2つ。管理的立場にある者は、自分のほうから部下と親密な関係をつくってはならないこと。もし2人が親密な関係におちいったり、親密な関係になりそうだったら、そのことを管理的立場にある側は、公にしなければならないことだ。
日本でも、力のある側が、その力を背景に関係をせまったりする事件は後を絶たたない。力のない側は、苦しみ悩んだ末、相談窓口に訴えることもある。ところがらちがあかないことが多い。意を決して裁判に訴えても、「あなたにも非があった」などと逆襲にあう。しかも結審まで何年もかかるうえ、裁判費用・弁護士費用もバカにならない。
そこで、ミシガン大学指針を全文和訳した。日本においても、大学はむろん、公的機関、会社、諸団体、労働組合などすべての組織の参考になると思われるので、全文を掲げる。
和訳の労をとった山﨑羽衣子さん(「一票で変える土佐の女たち」会員)は、次のように語る。
「日本では、セクハラに遭ってもまともに聞いてもらえなかったり、被害者側の身の振り方に問題があるかのように責められたりなどがあまりにも多くあり、相談することすらあきらめている女性が多いです。アメリカでの救済の方法を学ぶことは、過去の自分を救済するだけでなく、日本の多くの女性たちの救済につながります」
■PDF ミシガン大学管理者と被管理者の関係に関する指針(和訳)
【写真:スウェーデンが1998年ごろ中学高校の教職員や生徒向けに行ったセクハラ防止キャンペーン・ポスター】
左下Moreをクリックしても同文が読める。
ミシガン大学 標準実践ガイドの指針
管理的職員と被管理者の関係について
対象:全教職員、正規・非正規職員、雇用されている学生、ボランティア
Ⅰ. 指針
この指針は、管理的職員と被管理的職員の間における親密な関係について適用される。
ミシガン大学は、大きな複合的組織であり、きわめて貴重な何万人もの教職員およびスタッフを雇用している。
親密な人間関係は、職員間において、雇用される前にも、雇用された後にも生まれうる。管理者と被管理者との間に、その親密な関係が生まれる場合、ことは単純ではない。
当大学は、職場環境における親密な関係に対処するにあたって、基本的価値観・原則を設けている。当大学にとって最も重要なことは、インクルーシブ(包摂的)な職場、権力の濫用、抑圧、セクシャルハラスメント、えこひいきの存在しない職場を保持していくことである。そうした行為は許されない。
これらの原則を念頭に、以下の基準は、すべての働く人に適用される。
1.管理者は、管理者が持つ権限(セクションIIIA項に定義する)を及ぼし得る被管理者との間に、暗黙的であろうと明示的であろうと、親密な関係をみずから主導、主導しようとしてはならない。
2. 職場で、親密な関係が存在すること、または親密な関係に発展しつつあることが、管理者によって始められたものではなく、抑圧や権力の濫用も存在しないことを識別するため、管理者は、そのことをただちに開示しなければならない。管理者が親密な関係を開示しないことは、重大な違反行為であり、解雇を含む懲戒処分の要因となる。
3.開示された場合、管理計画が開始・実行され、当指針のセクションVに従って継続的に監視されることになる。
II.背景
力の差を考慮するならば、管理者が、親密な関係を主導する場合、被管理者側にとっては、歓迎されない、セクシャルハラスメントとなる危険性を持つ。このことは、性およびジェンダーに基づく不正行為指針に記載されている。従って管理者は、自らの言動を、自らと同じ程度の権力を持たない人たちが、どのように常識的に解釈するのかを理解しておく責任がある。そして、この指針の対象となる関係性において疑わしい点があれば、管理者は事実を公表して指導を求めねばならない。被管理者は、たとえ公表を促されたとしても、公表する義務はない。
Ⅲ. 当指針における用語の定義
A. 管理者
「管理者」とは、直接または間接的に、職務として、採用、解雇、監督、被管理者の仕事に対し指導または評価を行う、大学内の全ての教職員をいう。役員、業務管理責任者、理事、監督者、研究責任者、医師、学部長、議長、監督責任を持つ教職員が含まれるが、これらに限るものではない。また「管理者」という用語には、職員を監督する立場にある教職員、教授または大学運営委員会のメンバー、他の教職員のキャリアに影響を与える決定を下す立場にある者を指す場合、あるいは、管理もしくは患者のケアや研修の場において、監督する医師も指す。管理者とは、被管理者のキャリアまたは就労環境に対し影響を及ぼす権限を有する者のことである。
B. 被管理者
「被管理者」とは、当大学に雇用されているすべての者を指す。当大学における、フルタイムならびにパートタイムの教職員、スタッフ、個々人であり、その仕事は、管理者(本指針セクションⅢ Aに定義されている)からの監督、指揮、評価の下で業務をする人々である。ボランティア、臨時職員、雇用されている学生も含まれる。
C. 親密な関係
「親密な関係」とは、性的、恋愛、情愛の関係、また、それらを伴う場合も伴わない場合もあるが、デートをすることを含むすべての関係をさす。この関係に身体的接触は必要条件ではない。親密な関係は、たった1回の交際においても存在する。
D.「大学」とは、ミシガン大学のあらゆるキャンパス、ミシガン大学病院、また大学出資による全てのプログラム、活動、事業を網羅する。
Ⅳ. 開示義務
管理者は、管理者・被管理者間におけるあらゆる親密な関係について:
A.親密な関係にあることを、上位の適切な監督組織(例:執行役員、学部長、監督、またはその代理人)に通告義務を有する直接の上司に、ただちに報告しなければならない。
B.管理計画の執行に協力すること、それに従うことに同意しなければならない。
もし、就労環境もしくは大学環境の変化によって、すでに存在していた親密な関係が、この指針に抵触することになった場合、管理者は速やかに、上記IV.A項に従って、直接上司にその状況を開示しなければならない。
Ⅴ. 管理および監視計画について
「管理計画」とは、親密な関係が存在する際、被管理者に対する管理者の管理やその影響がなくなるよう、個々の状況に沿って作成される計画である。(a)当事者のうち一人を大学内のいずれかに配置換えの支援をする;(b)監督、アドバイス、評価に関して他の代理人を配置することによって、管理者から被管理者に対する権限の行使を排除する;(c)委員会、または慎重さが求められる決定からの除外;(d)その他管理計画の目的を達成できる環境を作るためのあらゆる采配が含まれる。書面の管理計画は、実行可能となり次第、執行される。
管理計画は:
1.被管理者が受ける管理、監督、評価、アドバイスに、これまでとは別の選択肢を与えることで、被管理者が、搾取される可能性があること、搾取されること、えこひいき、またはえこひいきされること、または、その他の利害対立を軽減する。
2.被管理者の利害を優先する。
3.関係者たる両者によって書面にされ、署名されなければならない。
4.両者および適切な部署により、1年ごとに(または、できるなら、それより短い期 間で)再評価がなされ、そして必要な修正が行われなければならない。
上位の監督当局は、最も重い責任を負い、管理計画を準備し監視しなければならない。そして少なくとも年に一度は、見直しと再評価をしなければならない。その目的は、計画が、管理者の権限を効果的に取り除いているか、客観的な評価・監督を提供しているか、搾取の可能性と搾取の出現、えこひいきの存在と出現、その他の利害対立を避けるために、効果を発揮できているか、を確実に継続するためである。
もし、搾取やえこひいき、その他利害対立の可能性が有効に軽減・管理できていない場合、当該の親密な関係は禁止されるか、もしくは管理者をそのポジションから異動させるか辞めさせるために転属の計画が必要とされる。
Ⅵ. 違反
親密な関係について報告する義務は、管理者にのみ課される。管理計画を準備し、継続監視する義務は上位の監督組織に課される。この指針を遵守することができなかった場合には、適切な手順に従って解雇を含む制裁が科される。
VII. 報告、および報復からの保護
合理的理由から、管理者がこの指針に違反していると考える者は、当該管理者の部長もしくは学部の長、該当する人事部へ、またはU-Mコンプライアンスホットライン(希望するなら匿名による報告が可能)への電話1(866)990-0111、またはオンラインレポートの提出にてその懸念を報告することが推奨される。
当指針に違反したと思われることを報告した人、報告しようとする人を助けた人、または当指針で作成される報告に対処するための調査・決定に何らかのかたちで参加している者への報復行為は厳に禁じられる。
報復行為とは、脅し、威圧、仕返し、個人の雇用・教育課程に対して不利益をもたらす行為であるが、それらの行為に限らない。不利益をもたらす行為とは、親密な関係の結果、その他の人に対して不適切に不利に扱うことを含む。当大学は、信念を持って報告する者、当指針に従って行われる調査に参加する者が報復行為の対象とならないよう、適切な措置をとる。
報復されていると考えられる場合は、当該の人事部へ、またはU-Mコンプライアンスホットライン(希望するなら匿名で報告できる)への電話1(866)990-0111またはオンラインレポートの提出にて申し立てを提出することを強く推奨する。
Ⅷ. 関連する指針
当指針のいかなる記述も、当大学における以下の指針に対し、取って代わったり、あるいは影響を与えたりするものではない。 差別とハラスメントに関する指針/標準実践ガイド201.89-1/性とジェンダーにおける不正行為に関する暫定指針/標準実践ガイド601.89/全教職員のための職務基準/標準実践ガイド201.96 /教員と生徒間の性愛、恋愛、情愛関係、またデート行為に関する禁止事項/標準実践ガイド601.22 学生と職員の関係性ポリシー/ス標準実践ガイド601.22-1 縁故者登用に関する指針/標準実践ガイド201.23または利害および登用における軋轢に関して/標準実践ガイド201.65-1
付属文書(略)
2021年7月15日
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以上は、ミシガン大学ホームページで公開されているhttps://drive.google.com/file/d/11w-atxJldGkYfFmIRmOjtIaVoMNxmGnL/view を和訳したものである。
訳者 山﨑羽衣子(連絡先 pecoran1986@gmail.com )
監修 三井マリ子(連絡先 mariko-m@qa2.so-net.ne.jp )
2022年2月5日