2022年 02月 05日
「比例代表制に」と烈しく欲求することから始めよう!――三井著『さよなら!一強政治』を読んで(正井禮子)
阪神淡路大震災を契機に、私は30年近くDV被害女性の支援や災害時の女性問題に取り組んできた。
「防災と女性」に関わる仲間が集まると「なぜ、毎回同じような問題が女性たちに起きるのか?」と嘆き、「日本社会のジェンダー不平等が変わらないからだ」という結論に至る。
どうすればこの状況を変えられるのか? 女性の支援を続けながら、こんな疑問がいつも頭の隅にわきあがる。
未来を変えようと、若い世代を対象に、デートDV防止教育、ジェンダー教育等にも取り組んでいるが、行政からの予算は乏しく、実施できる学校は限られる。パブコメ等で意見を述べたところで、行政にどこまで反映されるか不明である。
1980年代以降、各地に女性センター、現在の男女共同参画センターがつくられた。しかし、ジェンダーに関する意識改革、つまり“心がけ主義”では社会は決して変わらない。実際の法律や制度を変えない限り、女性をとりまく問題はいつまでたっても変わらない。
そのことに気づいた女性たちは、いま性暴力に関する刑法改正、DV法の改正、女性支援のための新法制定等に精力的に動いている。日本は男女平等の憲法がありながら、女性の人権が守られていない国であり、女性に不利な法律が山ほどある。ジンダーギャップ指数は120位、政治の分野に限れば147位とワーストテンに入る(156か国中。2021年)。先進国のなかで最低である。
どうすればこの状況を変えられるのか? 私の疑問への答えがこの本(『さよなら一強政治!徹底ルポ 小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』)にあった。諸悪の根源である選挙制度を変えること、「小選挙区制から比例代表制に変えること」なのだ。
「選挙は重要であるが、もっと重要なのは選挙の方法である。小選挙区制では少数者は参政権を有しないのと同様である」と、戦前に森口繁治(京都帝国大教授)が言ったそうだが、私たち少数派が投じた票はみな捨てられるのだから、こんな選挙はおかしいのだ。
この本には、比例代表制の国ノルウェーについて詳述されている。日本との違いに眩暈がするほどである。
ノルウェーでは日本と違って民意が反映された政治が行われている。そうだろうとは思っていたが、その多様性、ジェンダー平等、普通の市民が議員として活動している政治世界は、まるで夢のようである。しかし、現実なのだ。
ノルウェーには、女性議員が40%を超えた市が3分の1以上あるという。「すべての公的委員会に両性が40%以上いなければならない」という「クオータ制」をリアルに感じることができる。
学校教育も政治をタブーにしない。だからこそ、高校生が実際の選挙の前に模擬選挙を行うなど子どもの頃から選挙を生きた教材にして、民主主義を学んでいる。
ノルウェーの政治と暮らしを読みながら、あらためて、日本の選挙や議員の活動、政治の仕組みがどれほど民主主義とかけ離れたものかを目の当たりにさせられた。
日本の、このような政治が続く限り、女性の置かれた差別的環境を変えていくことは困難である。コロナ禍で単身非正規女性の経済的困窮度はさらに厳しくなった。若い女性たちの自殺も増えた。日本の女性たちは、経済的貧困だけでなく、情報の貧困も大きい。女性の人権に関わる重要な情報さえ、女性たちに届かない。メディアが情報を伝えないからだ。
ぜひこの本を広げて欲しい。
著者は「烈しく希求することは事実を産むもっとも確実な真原因である」と平塚雷鳥の言葉を紹介して、「比例代表制に」と烈しく欲求することから始めよう、と励ましてくれた。私自身「選挙制度を変えるなんて無理だ」と思っていたが、この本を読んで「いや、無理ではない」に変わった。
正井禮子(ウィメンズネットこうべ代表)(注)
■2022年2月10日21時 読書会: 『一強政治さよなら! 一強政治――徹底ルポ 小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』(三井マリ子著、旬報社) https://www.facebook.com/events/620751652340136
■楽しく比例制をめざす会(GPR)
https://www.facebook.com/groups/185665746748543
【注】正式名「認定NPO法人女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ」