2022年 01月 10日
ノルウェー「サーミのマグナカルタ」と先住民族
ノルウェー国王の新年の挨拶を読んでいたら、昨秋、270年ぶりに「サーミのマグナカルタ」と言うべき重要な文書がサーミのもとに返還されたことを知った。

その歴史的公文書は、ノルウェー語でLappekodisillen。「ラップ修正条項」という和訳になるだろうか。その公文書は、これまでオスロの国立公文書館に保管されていたが、このたび、カウトケイノにあるサーミ大学サーミ公文書館に保管されることになった、という。
サーミ公文書館の館長インガ・マリア・スタインフェルは、ジャーナリスト。長年、サーミ語の普及と教育に尽力し、「黄金の言葉」賞を受賞した女性だ。
国王をカウトケイノのDiehtosiidaに迎えて行われた返還の儀式は、サーミの歌や踊り、そしてサーミの歴史のスピーチ・・・。ネットで、日本にいる私も垣間見ることができる。
儀式には、ノルウェー文化・平等副大臣グリィ・ハウグスバッケンが、政府を代表してオスロからやってきた。労働組合運動を経て、政治家となった女性だ。彼女が「サーミのマグナカルタ」を手渡したのは、サーミ議会議長アイリ・ケスキタロ。アイリ・ケスキタロは、コロナ禍に政府によって課された移動制限に対して辛辣な政府批判を私に送ってきた女性だ。2005年、サーミ議会初の女性議長に就任した。
こうした国家的イベントに登場するのは、日本だと男性ばかりだが、ノルウェーは女性が次々に登場する。とてもナチュラルな感じがする。
さて、「ラップ修正条項」は、ノルウェー(当時はデンマーク領)とスウェーデン(当時はフィンランドを含む)間で、どのようにサーミの土地を割譲するかを決めたものだという。はるか270年前の1751年に結ばれた。これによって、デンマーク=ノルウェー王国とスウェーデン(フィンランドを含む)の間に、国境が決められた。とくに重要なのは第10条。次のように書かれている。
「サーミには両国の土地が必要であることから、古い慣習にそって、秋と春には、トナカイの群れと一緒に国境を越えてそれぞれの王国に移動することが許可されます」
北欧の先住民族「サーミ」は、現在、ノルウェーやフィンランド、スウェーデン、ロシアに暮らしている。これらの国々のなかでもノルウェーは、先住民族への過去の差別政策と決別し、先進的な政策を進めてきたと評価され、国連などの先住民政策に影響を与えてきた。
なにしろ、ノルウェーのサーミは、オスロにある国会や地方議会議員に代表を送っている。さらに、カラショークにはサーミだけの特別な議会「サーミ議会」がある。サーミ議会議員は、国会議員選と同じ日に、サーミによって選出される。すべての議会の選挙は比例代表制で行われているため、少数派の代表も当選しやすい。
ひるがえって、「北海道旧土人保護法」という法律(歴史的事実とはいえこの言葉には寒気を覚える)で、1997年まで、アイヌを差別・支配・分断してきた日本。アイヌを先住民族として政府が正式に認めたのは、ほんの数年前にすぎない。
ただの一人もアイヌ人がいない国会や地方議会で、どうしてアイヌの人権や尊厳が守れるだろう。ジェンダー平等だけでなく民族間の平等についても、ノルウェーから学ぶことはあまりに多い。


■2月6日はサーミ国民の日: FEM-NEWS (exblog.jp)
■先住民サーミのファイトバック : FEM-NEWS (exblog.jp)
■映画「カウトケイノの叛逆」 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■この本はジェンダー平等へのガイドブックだーー書評『さよなら!一強政治』(時永裕子) : FEM-NEWS (exblog.jp)
【更新 ミスの訂正とリンク先を追加した。2022/1/11】

