2021年 06月 30日
ジェンダー平等をめざすすべての人に薦めたい『さよなら!一強政治』(丹生秀子)
6月23日、「夫婦同姓は合憲である」という判断が最高裁から下った。またも民法改正は国会に戻された。しかし国会は、7割近くの世論が選択制夫婦別姓に賛成だというのに動かない。なぜなら日本の国会は、民意を反映していないからだ。
『さよなら!一強政治:徹底ルポ 小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』は、こんな怒り心頭の私に元気を与えてくれる一冊だ。ジェンダー平等をめざすすべての人に薦めたい。
今では、クオータやパリテが女性議員を増やすための武器であることは知られるようになったが、「クオータ」という日本語さえなかった80年代に、北欧に取材に出かけて行って、「クオータ制」を初めて紹介したのが三井マリ子さんだ。
クオータ制は、この本でも触れられている。だが、「クオータ制は、北欧諸国はもちろん多くの国々で、比例代表制という土台があったからこそ活きたのである」と書いているように、この本では、比例代表制が女性議員増にいかに大事かが展開される。
この本を読むまで、私は「死に票」の意味をよく理解していなかった。政治に批判的ではあっても、「選挙とはこんなものだ」とありふれた風景を見て、諦めていた。
しかし日本の選挙は、比例代表制の歴史が長いノルウェー人には到底理解できない、「喜劇のような悲劇」なのである。
息をのんで読んだ三井さん本人の立候補体験は、日本の選挙制度のリアルだ。政党交付金の問題点も初めて理解できた。そうか、私たちは、自分の一票が「死に票」にされているしくみにもっと怒らなければならないのだ。
一方のノルウェーは、100年も前に小選挙区制から比例代表制に移行した。有権者の一票は、候補者に入れるのではなく、政党に入れるのである。だから候補者個人は名前を売ったりする必要は全くない。
比例代表制は、多様な国民の民意を反映する選挙なので、多様な人が議員になっている。18歳の女子高生がオスロ市議(東京都議にあたる)になったり、シングルマザーの酪農家が議員になったり、先住民サーミ女性が市長になったり・・・どの話も引き込まれる。
目をみはるのは、若者の政治意識の高さだ。特に全国の高校で実施されている模擬選挙に驚かされた。町と同じような選挙運動が校内で行われて、高校生の未来や国の将来を考える力が鍛えられていく。「政治をタブー」とする日本の学校からは考えられない。
とはいえ、理想の国に見えるノルウェーも、小選挙区制時代は男性議員ばかりだった。当時の市議会の写真が222頁に載っている。今、その市議会は、19人中女性11人、しかも5政党からなる。33頁に現在の市議会の写真が載っている。2枚を見比べると違いが一目瞭然。この本にはそんな楽しい発見がちりばめられている。学習会のテキストにもお勧めだ。
制度を変えるのは国会だから、変えようと思う国会議員が増えない限り変わらない。小選挙区制選挙で、そういう国会議員が当選するのは難しい。それだからこそ、「死に票」が多く、民意の反映しない「小選挙区」をやめて、女性や少数者の多様な意見を反映する比例代表制を、と声をあげていきたい。
丹生秀子(福岡市民)
■「大好きな日本だからこそ…」政治を変えなくては(王貞月) : FEM-NEWS (exblog.jp)