2021年 06月 07日
知った、驚いた、感動した「女性の人権拡充と女性参政権確立の長い運動」
6月5日(土)、荒川区役所にて「買春社会を考える会」学習会がありました。会場とオンラインあわせて約20人の参加でした。
斎藤恵子さんの「矯風会の歴史と目ざすもの」、三井マリ子さんの「日本の女性参政権運動・性搾取撤廃運動を後押ししたノルウェーの1枚の絵」の2本立てでした。

斎藤さんは、日本キリスト教婦人矯風会の女性人権・女性福祉事業幹事。矯風会は「日本最古の女性運動団体」で、1886年(明治19)創設ですから135年の歴史です。売春制度に反対し、女性の人権を守るための活動を長い間行ってきました。
昔の日本では、貧しい「家」を救うために娘が娼婦となることは「親孝行」とされる風潮がありました。そんな時代の中、一夫一婦制(重婚禁止)を求めて請願運動や「廃娼運動」を行い、1956年売春防止法成立にこぎつけました。
さらに衆議院傍聴規則から女性の傍聴禁止を削除させたり、女性参政権獲得のために先頭に立って運動してきたそうです。昔の国会は、女性が傍聴できなかったことを知って、私はとても驚きました。
現在、矯風会は3本の「女性人権事業」を柱に行っているそうです。特に国籍・在留資格を問わずに、あら
ゆる女性とその子どもたちのための緊急一時保護施設(シェルター)「女性の家HELP」は、年々重要に
なっています。斎藤さん自身、社会福祉士の資格を持って仕事をこなしていらっしゃいます。
「性被害者を責めるのではなく、責任は加害者にある!」と女性を守ることを基本に運営しており、プライバ
シーを守れる個室が用意されているそうです。今後は包括的に女性を支援できる法律「女性支援法」の制
定をめざしているとのことでした。
「矯風会」の初代会長・矢嶋楫子(やじまかじこ)は、なんと1833年生まれ! こんなに古くから女性の人権獲得のために活動してきた会が日本に存在していたことを知らなかった私は、驚きの連続でした。

「日本の女性参政権運動・性搾取撤廃運動を後押ししたノルウェーの1枚の絵」は、とても感動的なお話でした。
ノルウェーの1人の画家が描いた絵が、ノルウェーを公娼制廃止に導き、後に1人の日本人女性を女性参政権運動の闘士に導いていったという話でした。
女性の名は久布白落実(くぶしろおちみ)。矯風会総幹事として、廃娼運動をけん引しました。彼女がいなければ「日本女性の参政権はなかった」と言われる程の活動家でした。
彼女は、父親も夫も牧師。1928年、エルサレムで開催された世界宣教会議に日本代表8人中女性1人で参加し、そのまま、欧州各国を回りました。ノルウェー滞在中に出会った一枚の絵が、彼女にとても大きな影響を与えました。
その絵は、1887年に描かれた「警察医務室前のアルバ―ティーナ」。クリスチャン・クローグ(1852~1925)の作品です。
三井さんがオスロの国立美術館で撮影したその絵は、華やかな何人もの女性たちが描かれ、一見「パーティ会場か、お茶会か」という様な印象です。
しかし、奥のほうに警官に手を引かれた少女が描かれています。「性病検査のため、医務室に連れていかれる」少女を表現したものでした。華やかに見える女性たちも皆、娼婦として「生きるため」、定期的に検査に来ているのでした。
アルバ―ティーナとは少女の名前。作家でもあったクローグは、同じテーマで本も出版しました。彼女は弟の薬代のため、お針子として必死に働く中、警官に酒を飲まされ、強姦され、娼婦として生きることを余儀なくされる・・・。
しかし、本は「道徳心を損なう」と発刊翌日に「発禁」となり、怒ったジャーナリストが、街頭で抗議活動を行い、その問題が広く市民の耳に届くことになりました。当時は字が読めない人も多く、街頭での演説がより効果的だったのか、公娼廃止の声が高まり、1887年公娼制が廃止されます。
40年も前に公娼制が廃止されたノルウェーのことを知った久布白は、廃娼後の女性たちの生き方に目を向けます。久布白は、ノルウェーでは「女性のかけこみ」施設は国庫や地方政府からの公費で運営され、個室には鍵が付けられ、職員の給与も公費で賄われ年金も出ていることを知ります。
「矯風会」がいまだに寄付金中心で運営されていることを考えると、日本がいかに遅れているか憤りを感じます。
久布白落実は、帰国後すぐ『女は歩く』(1928年)を自費出版します。それには「北欧の訪問に使命を感じた。この地における廃娼後の情況を視察することであった」と書いています。
彼女の視野は、公娼制を廃止するだけでは不十分であり、その後の女性たちの暮らしや将来を含めた支援活動が必要だと、ノルウェーの社会福祉、公的施策に及んでいました。
ノルウェーには、久布白が滞在したときすでに女性参政権がありました。「女性が幸せになるには女性議員が必要」と久布白の参政権運動に拍車がかかります。
女性参政権が認められると、久布白は衆院選に立候補します。「落実」(おちみ)という名前は、日本の選挙に不利だったことでしょう。3度立候補し、3度落選しています。その不屈の精神!
こんな凄い日本人女性がいたとは、思いもよりませんでした。クリスチャン・クローグは、日本では知られていない画家ですが、あの、ムンクが師事した画家だそうです。
一枚の絵の驚くべき力。女性運動家たちの情熱。あらためて、女性議員がもっと必要だ!!と思える勉強会でした。とても面白かったです。有難うございました。
新井祥子(群馬県草津町 前町会議員)
■「日本の女性参政権運動・性搾取撤廃運動を後押ししたノルウェーの1枚の絵」(三井マリ子パワポ資料)
■オスロの絵と日本の廃娼運動 : FEM-NEWS (exblog.jp)
■https://appinternational.org/2020/10/28/mith_of_amnestys_research_in_norway/ (ノルウェーのKvinnefronten のサイトに掲載された投稿の和訳。ノルウェー買春禁止法を批判したアムネスティ見解に対して、Agnete Strømが批判をしている。ノルウェーの性産業をとりまく現状がわかる)