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抵抗する知恵と力の大切さを与えてくれた『バックラッシュの生贄』(古川晶子)

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2012年発行の『バックラッシュの生贄 フェミニスト館長解雇事件』(三井マリ子・浅倉むつ子 旬報社)は、大阪府豊中市の男女共同参画センター「すてっぷ」で、2003年度に起きた非常勤館長の雇い止め事件について、当事者・三井マリ子さんが筆を執ったルポルタージュです。


再読して思ったことは「わきまえない女、ここにあり」です。「森喜朗発言」の「わきまえ」た女とは正反対の「わきまえない女」三井さんは、「わきまえ」ることを迫られる私たちに、抵抗する知恵と力の大切さを残してくれました。


1999年の「男女共同参画社会基本法」は全国で条例や関連施設をつくる機運を生み、「館長を民間から公募」という豊中市方式は注目を浴びました。三井さんと言えば女性政策研究家として当時すでに著名。世界の最先端の女性政策を現地で取材し、文筆だけでなく、講演などで親しみやすい語り口で届けていました。


初代館長に就任した三井さんの専門性と実績を生かした企画は、意義深く魅力的なものばかり。ところが、男女平等社会への歩みを止めようとする日本会議を背後に持つ「バックラッシュ」(反動)勢力の目にとまり、その関係者である議員などによる三井さんへの執拗な攻撃が議会内外で始まりました。


あろうことか、それに屈した豊中市役所と財団(センターを運営する外郭団体)は三井さんをうとましく思うように変化し、卑怯な手段を用いて…本書で明らかにされたその経緯は、編集者に「ぞっとする」と言わせるほどのもの。三井さんは雇い止めされましたが、7年にわたる裁判の結果、最高裁は、それが不当であったと判断しました。


私は現在、非正規公務員として、男女共同参画センターで講座などの企画を担当しています。「すてっぷ」で三井さんが手がけた数々の企画は、知識や能力はもちろんのこと、長年の信頼関係があってはじめて実現する内容だということを実感しています。そんな得難い方を、「バックラッシュ」勢力に屈して騙し討ちにした行政には、卑怯という言葉では足りない冷酷さを感じます。本書には、労働法とジェンダー法の研究者・浅倉むつ子さんの意見書「1.人格権侵害と使用者の職場環境保持義務」が、そのすべてが違法であったことを解説しています。


事件から約15年、日本の性差別解消は進んでいません。それどころか「ジェンダー・ギャップ指数」の日本の順位は下降の一途。森喜朗発言など指導的立場にいる人による女性蔑視も止みません。日本社会における男女共同参画センターの意義は高まるばかりです。


ところが、その多くは、予算を縮小され、人員も削減。「会計年度任用職員制度」は、うたい文句だった非正規職員の待遇改善はなされず、次年度に雇用されるかどうかもわからない不安定身分のままに据え置く制度です。強調したいのは、センターで専門性を要する仕事を担う職員のほとんどがこの「会計年度任用職員」の女たちだということです。


無力感に心が折れそうになります。そんなとき、出会ったのが本書です。本書が詳述する、ジェンダー平等のために公共機関が果たす役割、それを否定する反動勢力の存在、その卑劣な攻撃、抵抗と再起・・・それらを私は追体験し、自らの位置を確認することができました。


三井さんの裁判費用には、「住友電工男女差別事件」の和解金による「基金」が活用されたそうです。日本企業の女性差別に抗した方々が手にした勝利を次の女性のために残したものです。女たちの歩みは確実に引き継がれています。


古川晶子(
まんなかタイムス 発行人)


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by bekokuma321 | 2021-03-27 23:05 | 日本