2021年 01月 12日
性搾取反対に一生をささげた高橋喜久江さん逝去

私は、1980年代末、女性の駆け込みセンター「女性の家HELP」の活動に関心を持っていた。東京都議だった私は何かできることはないものかと、高橋喜久江さんに何度か面談して、政策につなげる知恵を教えていただいた。アジア諸国へ買春ツアーに出かける日本男性らへの反対運動や、”愛人”に告発された宇野宗佑首相の退陣要求などで、一緒に抗議をした思い出もある。
高橋喜久江さんとの再会は2010年。高橋さんは、拙著『ノルウェーを変えた髭のノラ:男女平等社会はこうしてできた』(明石書店)の出版記念会に編集者の黒田貴史さんと顔を見せてくださった。
その後、2016年夏~冬、高橋喜久江さんに何回かインタビューをした。当時、私は、高橋さんの師・久布白落実(くぶしろおちみ)について調査していた。久布白が命をかけた公娼制廃止のモデルに、ノルウェーの公娼制廃止があったことを知って、それを確かめたかったのだ。
高橋喜久江さんのオフィスは矯風会ビルの3階だった。杖の力を借りながら階段を上る様子が目に焼きついている。高橋さんは若いころ、矯風会本部の求人に応募して合格。久布白落実のもとで働き始めてから、矯風会を拠点に売買春廃絶運動に生涯をささげてきた。日本軍の「慰安婦」問題についても、右翼の的外れ批判をものともせず、真っ当な発言をし続けた。「性産業は労働」を唱える学者たちに対しては、「セックスワーク論、権利派に反対する」と、毅然と反対をしてきた。
私が高橋さんを取材をした2016年には、長年会長として活動をけん引してきた矯風会を退いていて、「今は、慈愛寮の理事長です」と名刺をくださった。
高橋喜久江さんの師、久布白落実は、廃娼運動に命をかけただけでなく、市川房枝と並んで女性参政権運動の立役者だった。高橋さんからお借りした貴重な著書を通じて、また直接、高橋さんを通して、久布白落実の闘いを知ることができた幸運をかみしめている。
ただ高橋喜久江さんとは、またお会いできると思ったため、彼女自身の苦闘についてほとんど話をうかがわずにお別れしてしまった。心残りでならない。さよなら、高橋喜久江さん。
【写真上:久布白落実著『廃娼ひとすじ』を手にする高橋喜久江さん。2016年。写真下:『ノルウェーを変えた髭のノラ』出版記念会の高橋喜久江さん。2010年】
■ノルウェーの芸術から思う日本の女性運動
■女性解放運動の先駆者早川カイ
■「むかしといま、そしてこれから」(性搾取問題ととりくむ会・日本キリスト教婦人強風会 高橋喜久江)平成28.9.30発行 売春防止法制定60周年記念冊子「女性支援の未来に向けて」(全国婦人相談員連絡協議会 熊本県水俣市陣内1-1-1 ℡0966-61-1660)