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北欧のマイノリティ女性たちの闘い

ファークラ・サリミ(写真)は、ノルウェーのオスロにある「ミラ・センター」を拠点に全国を飛び回る。

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ミラ・センターは、ノルウェーのマイノリティ女性の人権に関するありとあらゆる相談を受けて、解決していく民間の女性運動団体だ。マイノリティ女性たちが自立できるようなサポートを提供し、ときには他のサービスにつなげる。2019年、創設30年を迎えて祝った


100人は座れそうな広々とした明るいホール、機能美あふれる会議室、いくつかのこじんまりした事務室。フルタイムの有給職員7人が、月曜から金曜日、9時から4時まで働く。弁護士や学者研究者など大勢の支援者がボランティアで周辺を固める。ここへの問合せは、国・地方の行政機関、民間団体から個人までさまざまで、その数は年2万件をこえるという。


ファークラ・サリミに取材するためミラ・センターを訪ねたのは、20199月6日、統一地方選の投票日直前だった。


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ミラ・センターは有志のポケットマネーで産声をあげたが、今では政府から補助金が出るまでになった。代表ファークラ・サリミは「このセンターに移ったのはつい2年前。当初は私たちの自宅を使っていました。マイノリティ女性に焦点をおいた運動体は、スカンジナビアでここだけです」と自信をのぞかせた。その重要な役割は、「マイノリティ女性たちの政治力をつけること」だという。だから選挙が近づくと、マイノリティ女性に政治と暮らしの大切さを伝えるために各地を遊説する。


「移民、移民女性という呼称を私たちは使いません。移民難民はノルウェーに入国する人たちを指す言葉です。ここに住み生活するようになった人たちは移民難民ではありません。何十年もここに住んでいる人たちは、この社会の一部なのです。『イスラム系の移民』という決めつけと偏見。私の人生はそれとの闘いの連続でした。私はノルウェー女性です。ノルウェーに住むマイノリティのバックグランドを持つ者です」とファークラ・サリミはくぎを刺した。


「先週はハウグスンに行きました。多くの移民難民がハウグスンに定住しています。100人以上のマイノリティ女性が集まりました。会合だけでなく、通りに出て、多言語で作成された選挙のパンフレットを通行人に配布して…」


こうしたミラ・センターなどの運動もあって、首都オスロの議会は4人に1人はマイノリティ出身となった。オスロ副市長はスリランカの女性(労働党)、環境担当責任者はベトナム系女性(緑の党)だ。女性の議員は49%と半数にせまり、まさに元祖クオータ制の国の面目躍如。


しかし「私がパキスタンからノルウェーに移住した1970年代は、外国人には参政権がありませんでした。何十年ノルウェーに住もうが、です。移民団体が一生懸命運動して闘い取ったのです」。平等が天から降ってくるわけはない。私は急所をつかれたように感じた。


移民団体が「平等の権利」を求めて闘った結果、3年以上住んでいて永住権を持つ外国人には地方参政権がある、と法律が改正された。1983年のことだ。だが、地方参政権があっても、マイノリティ女性の投票率はそれほど上がらない。そこで「ものすごい大選挙キャンペーン」 を展開した。(左下Moreにつづく)


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▲30周年を祝うポスターのそばに立つファークラ。Kampen For Rettigheter Fortsetter! (権利を求めて闘い続けよう!)と書かれたノルウェー語が見える。ポスターについては「叫ぶ芸術 75回」 を。







路上にスタンドを設置して、通りすがりの人に投票のしかたを説明し、パンフレットを渡した。「投票したいけど、やり方がわからなくて不安でした。やっとわかった」という通行人が多く、手ごたえを感じた。センター内で模擬投票もやった。


全政党の代表をミラ・センターに招待した。ほとんどの党首がやってきたという。ノルウェーと日本の政治家に違いは多いが、そのひとつに小さな市民団体や運動体にもーー反対の意見を持つ組織であってもーー耳を傾ける姿勢の有無がある。


政党党首たちは、集まったマイノリティ女性に「投票権行使がいかに重要なことか」を語った。女性たちは聞くだけでなく、自らの主張をぶつけた。「イスラム系女性たちは、自分たちに何が必要かをよく認識していて、それをいかに雄弁に人前で主張するか」を政治家たちは知った。「イスラム系女性は従属的だ。大家族のなかで従来型の女性役割に甘んじてる、という先入観」を揺るがした。一方、マイノリティ女性たちは、「政界の指導者がグッと身近になった」。


福祉国家ノルウェーは、医療・教育はタダだ。教育は小学校から大学院まで無料だから、貧しい移民家庭に生まれた子どもでも、能力と意志しだいで修士・博士などの学歴を持てる。ただ、ファークラ・サリミは「ノルウェー社会には格差と分断が現存します」と、こう語った。


「たとえばオスロでは、西と東で住む人が違います。移民や労働者が多く住む東地区は貧しい家庭が多い。東地区の教育環境や福祉など公的サービスの質は、西地区に比べて十分ではありません。犯罪が起きると、『ああ、東地区』とレッテルを張りがちです。でも、妹を殺害し、イスラム教モスクを襲撃した、先月の事件をご存知ですね(犯人は白人で西地区の住人、妹は養子で中国系)。それに2011年の『ウトヤ事件』。第2次世界大戦後にノルウェー国土で起きた中で最大のテロでした。犯人ブレイビックは、西地区の人間です」


住宅政策、都市計画政策に話は及んだ。


「移民難民の多い東地区と言われますが、東地区には移民が住む前から労働者が多く住んでいたことを忘れてはなりません。オスロは歴史的に貧富の差で分断されていたのです。60年代北海油田の発見から新産業ブームとなって膨大な労働力が必要となり、そのニーズを埋めたのが移民です。貧しい移民たちの住居は東地区にしかなく、70年代、東地区は、高層団地が建ち、拡大していきました。それに、西地区住民の強い抵抗があり、社会福祉関連の施設の多くは、東地区に建てられていきました。現在、オスロは赤リーグ(労働党、左派社会党、緑の党の中道左派連立)が市長与党となっています。赤リーグは、社会福祉関連の建物は東西平等に設置すべきだとする都市計画政策を打ち出しました。まだ成功してないですけどね」


続いて、批判の刃は雇用における不平等に移った。


「最も深刻なのは、雇用上の差別です。構造的差別なのです。しかし政治家は、この課題を解決すべき重要な政策であると明確には上げません。公的、私的を問わず職場の多くは、ノルウェー人種を雇いがちです。雇用主側は、移民系労働者の不採用を『ノルウェー語が十分でない、仕事に必要な技能や資格がないから』と決まりきった弁明をします。わかった。では、ノルウェーに住みノルウェーの大学を卒業したマイノリティ女性の何割がその能力に見合った仕事についているか。こう私は言いたい。就職後も、部長レベルには増えてきましたが、ディレクター等トップ、つまり最も高い地位にマイノリティ女性はほとんどいません」


「トップの座にマイノリティ女性がいない」というファークラ・サリミに私は舌を巻いた。閣僚にもマイノリティ女性はいないと主張する。ノルウェーに育ったノルウェー人なのだからマジョリティと同じ権利を持つべきだというのだ。なんという自尊心! これぞノルウェーの教育のたまもの。私の驚きをよそに、彼女はさらに力をこめた。


「もっと深刻なのは、インターンシップと呼べる見習い式の働かせ方です。マイノリティ女性は社会福祉関係のところから、店や工場を紹介されます。6カ月が期限で、また6カ月…。5年、7年と働く人も。ところが、正社員に空きができても、マイノリティ女性を雇うことはない。雇用主側は、『すみませんが…』とインターンとの関係を絶って、新しいインターンを雇う。インターンの名の下にマイノリティ女性にタダ働きさせる。しかも、タダ働きをあっせんしているのは、政府の社会福祉関係事務所なのです。これは『現代の奴隷制』ではないでしょうか」


政治の指導者にマイノリティ女性が多くなっていることに話を移すと、「そう、すばらしい女性が多い」とファークラ・サリミは笑みを浮かべた。しかし笑みはすぐ真剣な表情に変わった。


オスロの議会には確かにマイノリティ女性が増えました。しかし、彼女らは必ずしもマイノリティ女性の権利のために議員になったわけではないーーこれは指摘しなければなりません。政党政治ですから、政党の公約を実践しようとしているのです。政党がマイノリティ政策を優先順位に掲げないならば、マイノリティ政策の実行は難しい。ですからミラ・センターは、すべての政党にマイノリティ女性の人権拡充を政策に明記することを要求しています。国会には、法改正のたびに要請文を書いて送り届け、政党には綱領を改正する際に意見を届けるなど、議会や政党に対しての要求をおこたりません。国連とも密接に連携をとって動いています」


ファークラ・サリミの自信に満ちた魅力的な態度は、どこから来るのか。苦々しい差別体験、嘲笑、幻滅・・・それを変えようと奔走してきた日々ゆえだろうか。


確かなことは、ノルウェーは、こうした彼女たちの声を政策に反映させようと努力をしているということだ。


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by bekokuma321 | 2020-02-19 11:49 | ノルウェー