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政治家の出発点は中高時代の政治的関心(ノルウェー)

ベンテ・シェルバンは、オスロ市内のNRK(ノルウェー放送協会)に勤務する。以前は、労働組合の代表をし、7年間、労働組合の専従職員だったこともある


日本でノルウェーの選挙を紹介する私は、参加者から学校教育と選挙について質問を受けることが多い。そこで、「幼い頃から常に政治的だった」というベンテ・シェルバンに、子どもの頃を思い出してもらった。


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EU問題や妊娠中絶問題を議論する中学生

1972年、EU加盟をめぐる国民投票があった。当時、ベンテ・シェルバンは中学生。投票権はなかったが、熱心にEU加盟の反対運動をしたという。


「ええ、しょっちゅう中学校でEU加盟の是非の政治討論をしました。それに、妊娠中絶も大きな政治的課題になっていて、友人たちと議論しました。左派社会党という新党ができたので、支持するようになりました」


高校では、ベンテ・シェルバンは左派社会党の青年部にはいった。先鋭的と言えるほど活発に政治運動をした。大学生になると、左派社会党青年部大学生議会代表に選ばれた。その後、現在の赤党にあたる政党に入党した。


「高校にも、大学にも、それぞれの政党が、支部というか活動組織を持っていました。政党青年部高校議会、政党青年部大学議会とか呼んでいいでしょう」


政治的に熱心な中高生だったベンテ・シェルバン。変わった子だと言われなかったのか。


●批判的思考を奨励する学校

「そんなふうに言われたことはありませんね。ノルウェーでは、子どもが政治的発言を活発にすることは、別にめずらしくありません。政治的テーマで社会に批判的であることは、信用をおとすようなことではないでしょ。学校では、政治的に批判的思考をとることをむしろ奨励されていました(注1)。高校のクラスは30人ほどでしたが、だれもが政治的議論をしていました。そうね、とても活発だったのは10人ほど、3分の1ぐらいでした」


ベンテ・シェルバンは、文部省の交換留学奨学生として、2年間日本で暮らした。大阪外大・立教大学で学んだ。NRKのジャーナリストになってからは、特派員として日本に取材に来たこともある。今も日本が大好きだ。そんな彼女は、日本の政治をどう見ているだろう。


日本の政治家は自分を偉いと思っている

「日本の政治は、あまりにエリート主義です。ノルウェーでは、選挙で選ぶ側の人たちは、『あなたは、私たちによって選ばれたのだから、私たちのために働かなくてはならない』という権利意識を持っています。選挙で選ばれた人たちは、選んだ人たちの負託にこたえなければならない義務があります。でも、日本の議員は、自分を選んでくれた人たちと自分は違う、自分は偉いんだ、と考えているような気がしますね」


「日本の政治は、カネにまつわる話ばかり。本当の政治の話はない。政治家が、『こういう社会にしたい、そのためにこういう政策を遂行したい』という発言を聞いたことないですね。多くの政治家は、ただ単に権力をほしくて立候補するように見えます」


ノルウェーは選挙になると、どの政党も旗色鮮明にして、政策の違いを際立たせる。テレビでは、政党の代表たちが居並び、口角泡を飛ばして政策討論をするのが日々の選挙風景だ。2019年秋の地方選挙では、道路税、地方合併問題がテーマとなった(注2)。


ベンテは日本の政党についてはどう思っているのか。


「日本の政党は、こういうビジョンで社会をつくりたい、そうした社会を作るためには、こういう道筋が必要だ、だからこういう政策をとる、という明快な考えが示されません。だから、日本の政党の違いは、私にはよくわかりません」


ノルウェーにも、カネと権力がほしくて政治家になる人だっているのではないか。


●ノルウェー政治家の出発点

「ノルウェーでは、非常に若い時にーー中高生ーー政治に関心を持ちはじめます。『こう変革したい』、または逆に『これは断固守り続けたい』、だから政治家になろう、と。これがノルウェーの政治家の出発点です。自分の政治的イデオロギーや政治的価値観を実行させるために、政党の青年部にはいります。そこで、日ごろから活動を積み重ねて、次第に要職というか、上にあがっていくわけです」


ノルウェーでは、権力やカネに関心を抱き固執する政治家はホントにいないのか。


「政治家なら、常に、いくつかの重要政策を持ち、自分の約束した事を実行させるために、わかりやすい主張をして、議論を続けていかなければいけません。健康の問題、住宅問題、環境問題、道路税問題でもなんでも、重要だと思う政策課題に対して常に強く働きかけていくことが必要です。そうしなければ、政党内で生き残れません」


「ノルウェーで、政治家になることはそう簡単ではありません。政党(政党青年部)のメンバーになって、党内でなにがしかの地位につくためには、関心を持つ政治課題を多くの人にわかりやすく説得力をもって明確に示せる力がなければなりません。ですから、それに常に深くかかわってなければなりません。何らかの政治的課題に関わって苦労してこなかったような人を認める政党は、左右関係なく、どこにもないと思います。(例外は)大臣のポストなら、政党で活動してなくても、ある分野で秀でた人がポンと登用されることはありますが」


もし、ある政治家がカネと権力を握ることが本心だとしたら、その政治家はノルウェーではどうなるか。


「関心があるのはカネと権力だけだと、人知れず思う人もありえるでしょうが、その場合、権力をつかむまで何十年間も自分はそうではないふりをする必要があります。難しいですね」


ひとりひとりの声は大切である

ノルウェーと日本を知るあなたにとって、政治を考える際、最も大きな違いは何だと思うか。


「ノルウェー人は、『ひとりひとりの声は大切である(Their voices matter)』と考えています。言い換えると、社会に変革をもたらすことができるのはひとりひとりの声だ、と考えています。でも、日本人は、理不尽なことに出会っても、『どうせ私が何かしても変わらない』と思うようです。働く女性のために保育所を増やすなど保育政策を改善すべきだと思っていても、『私が何かしたところで変わるものでもないから、何もしていません』。変えたいという問題意識を持っていても、それを政治的にオモテに出そうとしない、Political outletsがない、と思います」


【写真:多忙なスケジュールの合間にインタビューに答えるNRKのベンテ・シェルバン。明るく快適そうな仕事部屋、動きやすそうな服装や靴が素敵だ。2019年9月オスロのNRKにて】





【注1】 ノルウェー教育基本法には「教育は、民主主義、平等、科学的思考を促進するべきである」「生徒たちは、批判的に考えることを学ぶべきである」と明言されている。


【注2】 道路税は、車両が通るたびに料金支払い義務を課し、それで道路の修復などにあてるとされる税金。道路税によって車両数減を期待する緑の党は賛成だが、車の利用者たちや、公共交通の便の悪い地方の人たちには評判が悪く、政治問題となっていた。地方合併は、すでに国会で決定を見たが、地方の多くは反対の声をゆるめておらず、活発な討論やデモも盛んだった。9月の選挙では、合併反対を鮮明にした党が大躍進した。


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by bekokuma321 | 2019-12-16 17:47 | ノルウェー