2019年 09月 12日
批判精神を養うことが学校教育の柱(ノルウェー)
「批判精神を養うこと」――ノルウェー全ての学校教育の基本のキだと聞いた。
では、生徒たちはどんな授業を受けているのだろうか。
地方選挙の投票日前の9月3日、オスロのエドワード・ムンク高校の社会科を見学した。突然の申し出を受けてくれた教員のアウドゥン・グルナーヘッゲ(Audun Gruner-Hegge)に心から感謝しつつ、概要を報告する。
授業時間は12時15分から14時45分まで2時間半。参観した両日とも、生徒は15歳と16歳の高校1年生。
生徒たちは、前週に政党の概要を学んだという。クラスは3,4人のグループごとに分かれて座っていた。それぞれが政党1つを選んで、政党の目的、選挙の公約、ソーシャルメディアから知りうる特徴などを調査するのだという。4年に一度の統一地方選が教材だった。
グループ調査活動の前に、教員のアウドゥンは、ノルウェーの著名な政治学者の理論を白板に書いて伝えた。生徒たちは、ラップトップパソコンを使って、オスロ市行政組織や政党のホームページなどの情報を検索しながら話し合っている。生徒が挙手すると、教員のアウドゥンはただちにそのそばに行って何やら話す。
2時間半のほとんどを、生徒による調査活動とグループ内の話し合いに使って、授業は終了した。
教員アウドゥンは「今日、グループ発表に進みたかったけど、みな、調査に時間がかかっていたので、発表は来週です。よろしかったら、ここ、222B教室に同じ曜日の同じ時間にいらして下さい」と私に言った。
そこで10日、222B教室を再訪問。生徒たちは、自分たちが作成したパワーポイントを駆使して、グループごとに発表していた(写真上)。始業時間に遅れたため、全グループではないが、いくつかを観察できた。
その一つキリスト教民主党を選んだグループは、「私たちの選んだ政党は、漠然としていて、政策が明快ではないと感じられた。ホームページやフェイスブックなどソーシャルメディアによる市民への広報を調査したところ、若者に訴えるものがないと考えます」などと言った。
政党をどう選んだのか、そのグループのハーパに聞いたら、こう言った(写真左上)。
「グループごとの希望を尊重はしますが、重ならないように意見を出し合って決めます。選択する政党は、自分たちが支持したい政党ではなく、調査したい政党です。むしろ私たちは支持できないと考えていた政党を選んで、調査をして、その政治的立場をもっと知りたいと思いました」
では、なぜキリスト教民主党を選んだか。
「キリスト教民主党は妊娠中絶に反対している政党です。私たちは、妊娠中絶は個人の自由選択に任せるべきだと考え、法律による規制に反対です。なぜ妊娠中絶に反対するのか、について、キリスト教民主党の主張や立場をもっと知りたかったので、この政党を選びました」
発表を終えたグループには、皆、惜しみない拍手を送っていた。私は、妊娠中絶の権利で政党を批判的にとらえるハーパーのグループに、心の中で拍手を送った。
教員アウドゥンは私に「別に討論の時間もあります。今回は討論ではありません。調査した結果を皆の前で発表することが目的です」と言った。
教科書は机上に置いたまま、ほとんどだれもページをめくらない(写真下)。教科書は使わないのか。アウドゥンは私の疑問に答えた。
「ええ、あまり使いません。教科書は事実を書いている参考書です。もっとも大事なことは、事実を知ることではなく、生徒たちの参加です。生徒自身の力で調査しながら、生徒自身で結論を導くプロセス(過程)を大切にしています」
小学生から政党の若者部のメンバーにはいる子どもたちがいるノルウェー。クラスからあがった要求項目を全校のものとして、生徒会代表が学校当局と交渉して実現させたりするノルウェー。スクールエレクションでは、高校・生徒会が政党代表を学校に招いて討論会を開くノルウェー。
ノルウェーの人たちの強い政治的思考、批判精神のカギは、自主性と自己表現に重きを置く学校教育にありそうだ。