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批判精神を養うことが学校教育の柱(ノルウェー)

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「批判精神を養うこと」――ノルウェー全ての学校教育の基本のキだと聞いた。


では、生徒たちはどんな授業を受けているのだろうか。


地方選挙の投票日前の93日、オスロのエドワード・ムンク高校の社会科を見学した。突然の申し出を受けてくれた教員のアウドゥン・グルナーヘッゲ(Audun Gruner-Hegge)に心から感謝しつつ、概要を報告する。


授業時間は1215分から1445分まで2時間半。参観した両日とも、生徒は15歳と16歳の高校1年生。


生徒たちは、前週に政党の概要を学んだという。クラスは34人のグループごとに分かれて座っていた。それぞれが政党1つを選んで、政党の目的、選挙の公約、ソーシャルメディアから知りうる特徴などを調査するのだという。4年に一度の統一地方選が教材だった。


グループ調査活動の前に、教員のアウドゥンは、ノルウェーの著名な政治学者の理論を白板に書いて伝えた。生徒たちは、ラップトップパソコンを使って、オスロ市行政組織や政党のホームページなどの情報を検索しながら話し合っている。生徒が挙手すると、教員のアウドゥンはただちにそのそばに行って何やら話す。


2時間半のほとんどを、生徒による調査活動とグループ内の話し合いに使って、授業は終了した。


教員アウドゥンは「今日、グループ発表に進みたかったけど、みな、調査に時間がかかっていたので、発表は来週です。よろしかったら、ここ、222B教室に同じ曜日の同じ時間にいらして下さい」と私に言った。


そこで10日、222B教室を再訪問。生徒たちは、自分たちが作成したパワーポイントを駆使して、グループごとに発表していた(写真上)。始業時間に遅れたため、全グループではないが、いくつかを観察できた。


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その一つキリスト教民主党を選んだグループは、「私たちの選んだ政党は、漠然としていて、政策が明快ではないと感じられた。ホームページやフェイスブックなどソーシャルメディアによる市民への広報を調査したところ、若者に訴えるものがないと考えます」などと言った。


政党をどう選んだのか、そのグループのハーパに聞いたら、こう言った(写真左上)。


「グループごとの希望を尊重はしますが、重ならないように意見を出し合って決めます。選択する政党は、自分たちが支持したい政党ではなく、調査したい政党です。むしろ私たちは支持できないと考えていた政党を選んで、調査をして、その政治的立場をもっと知りたいと思いました」


では、なぜキリスト教民主党を選んだか。


「キリスト教民主党は妊娠中絶に反対している政党です。私たちは、妊娠中絶は個人の自由選択に任せるべきだと考え、法律による規制に反対です。なぜ妊娠中絶に反対するのか、についてキリスト教民主党の主張や立場をもっと知りたかったので、この政党を選びました」


発表を終えたグループには、皆、惜しみない拍手を送っていた。私は、妊娠中絶の権利で政党を批判的にとらえるハーパーのグループに、心の中で拍手を送った。


教員アウドゥンは私に「別に討論の時間もあります。今回は討論ではありません。調査した結果を皆の前で発表することが目的です」と言った。


教科書は机上に置いたまま、ほとんどだれもページをめくらない(写真下)。教科書は使わないのか。アウドゥンは私の疑問に答えた。


「ええ、あまり使いません。教科書は事実を書いている参考書です。もっとも大事なことは、事実を知ることではなく、生徒たちの参加です。生徒自身の力で調査しながら、生徒自身で結論を導くプロセス(過程)を大切にしています」


小学生から政党の若者部のメンバーにはいる子どもたちがいるノルウェー。クラスからあがった要求項目を全校のものとして、生徒会代表が学校当局と交渉して実現させたりするノルウェー。スクールエレクションでは、高校・生徒会が政党代表を学校に招いて討論会を開くノルウェー。


ノルウェーの人たちの強い政治的思考、批判精神のカギは、自主性と自己表現に重きを置く学校教育にありそうだ。


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【追記:ノルウェー国会は、18歳の初投票者向けの特別サイトを設けて、選挙の重要さや政党公約を解説している。投票をすることによって環境や移民問題や教育のあり方に影響を与えることができると・・・。また投票権拡大の歴史を訪れると、貧しい人、先住民、外国人などにも選挙権が広がってきたが、高校生に賛否を出し合って議論をしてみようと呼びかけている。】





by bekokuma321 | 2019-09-12 06:49 | ノルウェー