2017年 10月 10日
報告「精神病院のない社会」(2017.10.9)
受付ボラをしていたので映画はきちんと見られなかった。上映後の2部は撮影係をしながら、伊藤順一郎(しっぽふぁーれ)、藤井克徳(日本障害者協議会)の司会による、パネルトークを聞いた。パネリストは大熊一夫、伊藤時男、長谷川利夫、増田一世、佐藤光展。
「日本は男性議員率世界一」だと自嘲気味に言うことがある。正確には「先進諸国では」だが、日本の男性議員率は90%を超し、他を寄せ付けない(弟一院)。同様に精神病床数も精神病の入院日数もダントツの世界一だ。精神病床数と入院日数は、最下の表の通り。厚生労働省の統計。
そんな日本社会でどんなことが起きているか。余りに悲惨だ。しかし、知られていない事実が多すぎる。大熊一夫は、アルコール中毒を装って精神病院に入院した48年前の実体験をもとに「内部告発のすすめ」を強調した。
現在は一人暮らしをしながら、ピアサポーターとして働き、趣味の絵を描いてすごしている伊藤時男(写真右)の話は衝撃的だった。
10代で統合失調症と診断されて入院。青春時代から60代まで精神病院で生きてきた。鉄格子に身体拘束。まじめにやれば出られるかもしれないと、日給900円前後(時給ではない)のあてがわれた仕事を毎日一生懸命続けた。でも退院はできなかった。「二度と外には出られない」と悲嘆にくれて何度か自殺しようとも試みた。彼が自由の身になったきっかけは、東北大震災。入院していた病院が原発事故の避難区域にあったために、戻れなくなったからだ。東北大震災がなかったら自由の身になれなかったことを思うと、絶望的になる。
大学で保健学の教鞭をとる長谷川利夫は、身体をベッドに拘束する体験を自ら行った写真を見せ、「身体拘束の禁止を」訴えた。今、日本では身体拘束が10年間で2倍に増えているという。「政府はだれのものか。国民は守られていない。守られているのは利害関係者だけだ。政策は為政者だけによって行われるのではなく、カウンターパワーを含めたすべての人のものだ」と怒りをこめた。
読売新聞の佐藤光展は、石郷岡病院事件で死亡した30代男性の話を「精神科の闇にのみこまれた男性」と紹介した。彼は大学時代ひきこもりに。抗うつ剤服用のあと温和だったが興奮するようになり通行人を殴った。統合失調症とされて精神病薬を投与で副作用。電気けいれん療法で、より悪化。病院の2准看護師による暴行によって死亡。薬や精神病院入院が若き男性を死に追いやったことは明らかだと思えた。
地域でサポーターを続けている「やどかりの里」の増田一世は、精神病院を退院した人たちを数多く看てきた。何十年も精神病院に入院させられていた人たちの実話に、伊藤時男の話が例外ではないと知らされて、私は鳥肌が立った。増田はさいたま市の例を出した。「精神病床1193床のうち74%が閉鎖病棟。1年以上が610人、20年以上が113人」と示し、「当り前の暮らしの場の実現を、家族依存の精神医療からの脱却を」と訴えた。
500名近い参加者で会場はいっぱい。フロアからの訴えも切実だった。そのなかの一女性は、声を震わせながら言った。「精神病院の医師や看護師は、休暇に海外に出たりしないで、閉鎖病棟に入院し、身体拘束をし、薬を飲んでみてほしいです」
ちょうど解散総選挙。日本の最高政策決定機関である衆議院のメンバーを決める選挙がはじまる。各政党は、精神病院に代わる地域サポート体制を公約に掲げているだろうか。身体拘束の禁止は公約にあるだろうか。そして思うーーー政党や候補者は、こころの病を持つ人や人手のかかることを家族(主に女性)任せでいいとする「父権主義」に反対しているだろうか。これは重要だ。父権主義者に福祉社会をつくることなどできっこないからだ。
【写真:上は会場受付にて当日パンフレット、中は2次会にて伊藤時男氏と筆者、下は有我譲慶撮影班。彼の着ている「近づいてみればみんな変」Tシャツは、ただいま日本でブレイク中】