2017年 09月 04日
1本のメールから国会議員に(ノルウェー)
弱冠24歳。オスロ大学法学部の単位を終え、現在法律事務所に勤務する。ヘードマルク県中央党候補リストのナンバー2だ。ちなみにノルウェーは完全比例代表制で、ほぼ全政党が男女交互に候補者を並べるため、1番が男性なら2番は女性となる。
比例代表制の候補者は、小選挙区制候補に比べてさほど忙しくないのだが、彼女は忙しそうだ。1番目は中央党党首のトリュグヴェ・マグヌス・スラグスヴォル・ ヴェーダで、彼はメディア対応や全国遊説に時間をとられて、2番目の彼女がもっぱら選挙区のさまざまな討論会に出なければならないかららしい。
ストールハマール高校のスクール・エレクションにやってくると聞いて、校内で待ち受けた。ギンガムチェックのシャツにジーンズで現れた。来るなり、テーブルセッティングをし、選挙グッズを並べ、さらに討論会で座る場所をチェックしていた。いつの間にか高校生が大勢ホールに集まった。
スピーチがすぐ始まった。彼女は労働党と緑の党の間に座った。国会議員選挙は生まれて初めてだろうに、終始落ち着いた対応ぶりだった。
数百人を前にした1時間半の討論会を終えたばかりの彼女に質問をぶつけた。
ー政治家になろうと思ったのはどんなことからですか。
「アメリカのミシガンに留学していました。学業だけでなく、政治的活動や社会的運動にかかわっているアメリカの大学生を見て、私も学業や仕事だけでなく何か社会的なことをしたいと思ったのです」
ーでも、なぜ中央党ですか。
「中央集権に反対だからです。住んでいる人々に遠いところで人々にかかわる大事なことを決めるのは民主主義ではないと思います。それを主張しているのが中央党です」
ー中央党から声がかかったのですか。
「いいえ。アメリカから帰国してほどなく、自分の住んでいるへードマルクの中央党青年部にメールしてみました。それからとんとん拍子に事が運んで、青年部でさまざまな政治活動をするようになりました。ヘードマルク県青年部副代表もしました」
ー政治経験が少ないのでは、と思うのですが、これまで、政治活動は。
「へードマルク県中央党青年部副代表ですから、政治的活動家です。選挙前には中央党政策委員会委員もしていました。それに私はヘードマルク県の県会議員として、行政情報を身近にしています(県会議員は無給のボランティア)」
ー国会議員になって何を一番したいですか。
「地方の民主主義のために、市の合併に反対したいです。それに地方を活性化するために道路の整備をしたいと思います」
彼女は、選挙テーブルの準備、討論、質問への回答、ビラまき、をすべてたった一人でこなしていた。中央党は選挙運動にフルタイムのスタッフを何人かかかえていると聞いたが、彼女を手伝う助っ人は誰もいないのか。心細くないのか。私は心配になった。
ノルウェーに、ある時代の生活を当時のやり方でやってのける「リアリティショー」という番組がある。大勢からトーナメント形式で最後に1人生き残る。彼女はその番組で1764年の暮らしに挑戦して、見事優勝したのだという。18世紀を生き延びた女性に、高校生相手の討論会は朝飯前と見た。
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■選挙制度しだいでは高校生が議員になれる(田口房雄)
■民主主義度1位ノルウェー、23位日本
■世界一民主的な国
■世界一民主主義の国はノルウェー、日本は22位
■女性議員を増やすために ~ノルウェー選挙に学ぶ~