2017年 03月 02日
映画「サフラジェット」
1910年代のロンドン。洗濯工場で働く若い母親モードが、あるきっかけから女性参政権運動に関心を寄せるようになり、しだいに運動にのめり込んでいく物語だ。原題は、Suffragette(サフラジェット)。女性参政権獲得運動家という意味。
目に焼き付いているシーンがある。
刑務所に収監された女性参政権運動家Suffragetteたちは、独房の差し入れ棚に置かれた食事をいっさい拒否する。ハンガーストライキだ。
ハンガーストライキ5日目。刑務所の薄暗い廊下。男女の刑務官らが何やら道具を引きずってやってくる。
モードの
独房に入る。女性刑務官が数人でモードの体を椅子に力づくで倒す。腕を拘束して、頭部を後ろに押し付ける。男性刑務官か医師が、鼻からゴムチューブを差し込み、チューブの片方に設置された漏斗のような器具にミルクのような液体を流し込む。モードはむせた後、苦痛の余り悲鳴をあげる。足を何度も何度もける。私はスクリーンから顔をそむけてしまった。
これが悪名高い「強制摂食」だ。映画で、「死んだら、殉教者だ。パンクハーストの勝ちになる」という当局の台詞があった。強制摂食は、獄死をさけようと執行された拷問なのだ。
ガーディアン紙によると、ハンガーストライキは、投獄された女性参政権運動家がとった抵抗運動だ。「私たちは政治犯であり、他の罪人のように扱う政府に抗議をする」という信念の表現だったのだという。映画の最終場面に出てくるダービィ会場で走ってくる馬に身を投げ打ったエミリーは実在の人物で、彼女は、9回も投獄されて、強制摂食は49回にのぼったという。200回以上も強制摂食された女性参政権運動家もいたことが、当時の新聞に書かれている。なんという抵抗魂!
女性参政権をめざして、命を投げ出すことも厭わない政治運動をひっぱった人物は、エミリア・パンクハーストだ。彼女は7回収監されたという。映画では、バルコニーで短い演説をするシーンしか出てこないが、終始、女性活動家たちの精神的支柱として描かれている。
エミリア・パンクハーストの創設した「女性の社会的政治的連合Women's Social and Political Union, WSPU」に集まった人は中産階級の女性たちだったという。モードのような貧しい労働者階級の女性はほとんどいなかっただろう。
だから、映画の主人公モードは架空の人物だ。モードは夫と幼い息子の3人暮らし。隣近所が密集した労働者地域にある狭い家に住んで、朝から晩まで10時間も騒音まみれの洗濯工場で働き、工場長のセクハラにいら立ち、ヘトヘトとなった体で家に戻る。「お前は母であり、俺の妻だ」という夫に気がねもする。
この映画の成功は、労働者階級のモードを主人公にした脚本の素晴らしさにありそうだ。
モードの日常に、女性参政権運動は遠い。ところが、同僚のヴァイオレットは女性参政権運動家。国会で証言をするので聞きにきてほしいとモードを誘う。国会に足を伸ばしたモードは、ヴァイオレットが、夫のDVで顔があざだらけになっているのを見る。「ヴァイオレットに証言は無理、書いた紙を読むだけでいいから」と頼まれる。大勢の男性議員に囲まれた議会の一室で、モードは口を開く。映画のハイライトだ。
「母親は14歳から洗濯工場で働きづくめ。私が4歳のとき火傷で死にました。私は7歳からパート、12歳からフルタイムで洗濯をしています」
「洗濯女は短命なのです。胸が痛くなり、咳がとまらなくなります。指は曲がり、足には潰瘍ができます。火傷、ガスによる頭痛…給与は、女は週13シリングで男は19シリングです。女性のほうが長く働いていますが」
映画は2015年にイギリスで公開された。日本公開は2017年。100年以上も前の史実を基にした映画だが、現代の私たちに突き刺さるのは、私たちがまだ同じような境遇に置かれているからだろう。
工場長の卑劣なセクハラ
男性より低い賃金
DV夫におびえる妻
「お前の言う事なんか誰も聞きはしない」という蔑視
安心して子どもを預けるところがない
夫の目を気にしながらの日々
最後に、珠玉の言葉から、ひとつ:
「法を破りたいのではなく 法をつくりたいのです。そのために闘うのです。今がその時―――パンクハ―スト」
■92年前の今日、日本女性は参政権めざして大同団結した
■ロンドンのレッド・カーペットに女たち横たわる
■ノルウェー女性参政権100年から考える

