2015年 08月 29日
ノルウェーの地方議会選挙
選挙への関心を高めて投票率をあげようと、NRK(ノルウェー放送)は、地方選挙について、ビデオでガイダンスを流している。
地方議会への選挙権と被選挙権は、ノルウェーに3年住んでいれば外国人にも認められる。そうした移民にも、はじめて投票する18歳にも、あいさつ程度のノルウェー語しかおぼつかない私にも、このイラスト入りビデオならわかる。題して「地方議会選挙のすべて」。
ビデオによると、ノルウェーの地方自治体のはじまりは1837年。法律で392の市ができた。1930年には700に増えた。2015年現在428市だ。サッカ―チームと同じ11人しか議員のいない小さな市から、67人の大きな市まである。
ノルウェーの選挙は、政党を選ぶ比例代表制。投票する人は、リストと呼ばれる政党別の候補者名簿から支持する政党のリストを1枚選んで、投票する。リストは、どの政党も約半年前には選管に出している。
比例代表制だから、政党が獲得した票の割合に比例して当選数が決まる。たとえばA党は3人が当選ラインだとすると、A党リストの1番、2番、3番の候補者が当選となる。B党は票が少なく、1人だけだとすると、B党リストの1番目の候補者が当選となる。
ちょっとわかりにくいのは、有権者は、政党の決めた名簿の順番を変える権利(変更権)を持っていることだ。
たとえば図書館司書の女性が市議に最適だと思ったら、彼女の横の空欄にバッテン(x)をつける。イラストでは6番だ。もし彼女の政党が3番目までしか当選しないと、6番は絶望的だ。でも彼女へのバッテンが多いと、順番が下のほうでも上に上がって、めでたく当選となる。
このビデオを見たら、政党の決めたリストをそのまま投票しないで、「バッテンをつけてみようか」となりそうだ。
市長は、各政党の候補者リストのトップ、つまり1番に載っている人から選ばれる。最も多く当選させた政党が、他のいくつかの政党と協力関係を結んで決めることが多い。例外は、オスロ、ベルゲン、トロムスの市長で、国会のように議員の投票で選ばれる。
「地方議員は、あなたや私と全く同じ人だ。でも、あなたや私にとって最も大切なことのために頑張ってくれる」ーーこの最後のメッセージは心に響く。
ノルウェーの地方議員に議員報酬はない。公務員をしたり、会社員や学生をやりながら、ボランティアで(無報酬で)議員をするのだ。ちなみに私は20年以上、ノルウェーの政治を研究してきたが、威張るような議員に出会ったことがない。
最後のメッセージのイラストは、そんな地方議員を描いている。居間のソファーでくつろいでテレビを見ていた人が、テレビを消して立ち上がり、上着をはおって議会に行こうとする様子だ。なるほどノルウェーの地方議員は、余暇の時間を削って議会に出て行くんだな、とわかる。しかも無給のボランティアだから本当に頭が下がる。
愉快なのは、居間での後姿は男性に見えたが、外に出ようとする姿は正面が映り、あらら女性議員だったとわかることだ。絶妙のイラストだ(左上)。
■Alt du trenger å vite om kommunevalget
■2015 municipal and county council elections-- important information for voters(pdf)
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(注)ノルウェーの選挙法は何回か改正されている。1960年代、候補者名簿(リストと呼ぶ)の候補者名から気に入らない候補名を横線で消す方法が合法だった。消された候補者の順番は下がり当選に遠のく。女性議員増運動の初期は、この方法がとられた。当時、女性たちは超党派で「男性名を消そう」という運動をし、リストの下のほうが当たり前だった女性の順番を上に押しあげた。その後、バッテン(x)をつけて票を加算する方法に変わった。(『男を消せ!--ノルウェーを変えた女のクーデター』(毎日新聞社)に詳述されている)。