2015年 08月 13日
映画「おやすみなさいを言いたくて」
監督はノルウェーのエーリック・ポッぺ。80年代に報道写真家だった自らの体験をもとにしたセミ・ドキュメンタリーだという。
彼は、家族を後にして戦地に赴く戦争ジャーナリストのジェンダーを男性から女性に変えた。それがこの映画のミソだ。
主人公の戦争写真家レベッカはフランスの女優ジュリエット・ピノシュが演じる。仕事場はアフガニスタンのカブールだ。
レベッカの全身は、そこの女性たちと同様、黒い衣服で被われている。女性しか入れない部屋、女性だけで執り行われる儀式。レベッカのカメラは、女性自爆テロリストの一挙手一投足をとらえて離さない。女性は体中にダイナマイトをまきつけて、家族に別れを告げて車に乗り込む。レベッカも同乗する。
途中で警察官に疑われた自爆テロリストは、爆破のスイッチを押す。大勢の人々が死に、レベッカも吹き飛ばされ大怪我をする。
九死に一生を得て、アイルランドの自宅で静養するレベッカ。今度は、戦地とは異なる家庭内の諍いに向き合う。
夫と長女は、なぜ家族を置いて戦地に飛んでいくのかと責め続ける。娘たちの世話や家事全般を一手に背負うシングルファーザー的生活を送る海洋学者の夫。彼はレベッカに告げる――「いつ、君が死んだという知らせが来るかもしれない。家で待っているこんな人生はうんざりだ」
レベッカは家族に追いつめられ、仕事を辞める決意をする。命をかけてきた仕事を投げ出したのだ。
そんなレベッカに、ケニアの難民キャンプを撮影するオファーがくる。高校生の長女は、学校で取り組んでいるアフリカ・プロジェクトの調査のために、母と一緒にケニアに行きたいと言い出す。安全だといわれて、夫も2人のケニア行きを許す。
ケニアの難民キャンプに到着した2人は、部族間の殺りくに巻き込まれる。報道写真家魂がむっくりよみがえったレベッカは、紛争現場に残ると言い出す。母を失うのではないかと泣き叫ぶ娘。
帰宅後も癒えない娘の心の傷。娘の異常を知った夫は、「お前には死臭がつきまとっている。出て行け」とレベッカを家からカメラごとほおり出す。
これが終りなら、21世紀のノルウェー監督の作品にふさわしくない。子どもを持ちながら戦場で報道ジャーナリストを続けるノルウェー女性は、私が知っているだけでも4人はいる。
案の定、エーリック・ポッぺ監督はレベッカを戦争ジャーナリストの道に戻る決意させている。
結末で、レベッカは、戦地を再訪してカメラを握る。しかし、彼女はそこで見た酷い現実に目をそむける。戦場ジャーナリストというより、女性ジャーナリストの意識が勝ってしまうのだ。いわゆるclichéとしての”女性”・・・。そんなラストシーンを私は好きになれなかった。
■http://www.businessinsider.com/from-bulletproof-vests-to-gender-discrimination-four-journalists-share-their-stories-2012-4
■http://www.smh.com.au/entertainment/movies/war-photographer-erik-poppes-a-thousand-times-goodnight-turns-camera-on-his-own-story-20141125-11hyrz.html
■http://www.theguardian.com/theguardian/2010/jul/31/bookseller-of-kabul-interview-asne-seierstad
■http://nojobforawoman.com/reporters/timeline/
■映画「おやすみなさいを言いたくて」
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■NRKとNHK--報道における女性