2014年 03月 02日
妊娠中絶の権利、大論争に
ノルウェーのメディアを、今にぎわしているのは、妊娠中絶の権利に関してだ。
ノルウェーは、妊娠中絶を決める権利は妊娠している女性にある。長い闘いの末、勝ち取った女性の人権である。健康保険も利用できる。(詳しくは、『ノルウェーを変えた髭のノラ』(明石書店))。
ところが、その権利を変えようという動きが国会で起きている。保守連立政権と閣外協力にあるキリスト教民主党が最初に提案した。
もし改正案が通ると、妊娠中絶を希望した女性に対して医師(GP:general practitioner)が中絶を拒否できるようになる。それだけでない。その医師は他の医師を紹介することも断ることができるようになるという。

妊娠中絶のほかにも、ノルウェー保守政権は、地方自治体のさらなる合併、私立学校・私立病院の増加などを実行しようと躍起だ。しかし、日本の安倍政権と根本的に違うのは、ノルウェーは少数与党であること、さらには、ノルウェーの地方自治体は国の政策を脅かす実力を持っている点だ。
たとえば、妊娠中絶の権利を狭める提案をしたキリスト教民主党は選挙で6%以下しか取れなかったミニ政党だが、この政党と閣外協力を組まなければ、法案は成立しない。だから、保守党党首で首相アーナ・ソールバルグは、閣外協力政党との政策協定に従って、キリスト教民主党の提案を国会にかけることになった。
ところが、である。猛反対をしたのは、女性団体、前政権の労働党や左派社会党だけではなかった。首相の出身母体である保守党や、連立を組んでいる進歩党(ノルウェーメディアでは最右翼と言われる)の一部からも猛反対が続出した。
とりわけ、私が興味をそそられたのは、地方自治体の動きだ。
主要メディアVG紙の緊急アンケートによると、回答した304首長のうち240人が反対だったという。
ノルウェーは、国会に限らず地方の首長・議員も所属政党を旗幟鮮明にして選挙戦を闘うので「A市は労働党、B市は保守党」と色分けできるのだが、保守党首長の53人が公然と反対に回った。
メディアは、こうした賛否の動きを丁寧な解説付で大きく報道する。それだけではない、自らの意見表明もする。たとえば保守系新聞「アフテンポステン」は、妊娠中絶の権利を弱体化させる案には反対であると表明したうえで、両サイドを報道した。
首相の選挙区である西部地方の新聞は、たくさんの反対者に囲まれて困っている首相の顔を、ド・アップで載せて、報道している。
ところで、女性の権利を狭めるような提案をしたキリスト教民主党の党首は、皮肉にも女性である。昨日紹介したばかりのダグルン・エリックシェン。党首(男性)が休暇中なので、副党首の彼女が、代理党首の任についているのだ。党首(男性)が国会を休んでいる理由がおもしろい。パパ・クオータをとっているからだという。パパ・クオータは男性だけがとれる育児休暇で、14週間とれる。
やはり、ノルウェーから目が離せない。
■http://www.aftenposten.no/meninger/leder/Nei-til-reservasjonsrett-for-leger-7449232.html#.UxKEqVJWHGg
■http://www.smp.no/nyheter/article9043175.ece
■http://ringerike.arbeiderparti.no/-/bulletin/show/824248_nei-til-reservasjonsrett-for-fastleger-i-ringerike-kommune?ref=checkpoint
■http://www.nrk.no/trondelag/snasa-sier-nei-til-reservasjonsrett-1.11517800
■ノルウェー新内閣は保守連立男女半々内閣
■パパ・クオータ、7月1日から14週間に
[General practitionerは総合診療医。日本には制度がない。イギリスをはじめヨーロッパの国々にある制度。救急を除いて、すべての人がまず地域にいるGPにかけつけ診療を受ける。この一次的医療を受けなければ、総合病院にはかかれない。GPは必要に応じて病院で受診できるようは紹介をする義務を負う。妊娠中絶も同じで、まずGPに行く。ノルウェーの医療は無料ですべて公費で賄われる]