2011年 09月 18日
164年間の男性独占の歴史を破り市長に
こう話すのは、ノルウェーのカラショーク市の次期市長アンネ・ト―リル・エリクソン・バルトーAnne Torill Eriksen Balto(写真)。彼女は、24年間市長職にあった労働党男性を打ち破った。
カラショーク市はその例外のひとつだ。この市は、労働党の非常に強い市だ。誰もが「労働党=市長」と疑わなかった。現市長は、1980年代から約四半世紀の間、市長職にあった。その現職市長が、労働党が勢力を伸ばした傾向のある今回、なぜ負けたのだろう?
カラショークは、ノルウェー北部フィンマルク県の内陸部に位置する。住民のほとんどがサーメ人だ。オスロから、トロムス、アルタと飛行機を乗り継いで、ラックセルブに降りた。そこからバスで1時間。私はカラショークまでやってきた。冬は零下50度まで下がった記録をもつ最厳寒の地だ。
労働党の牙城を崩したアンネ・ト―リル・エリクソンは、中央党候補者リストのトップに登載された。職業は銀行員。公認会計士の資格を持つ。市議会議員2期務めた。初当選した時はビジネスを学ぶ大学生だった。2期目の最後の年には、副市長をした経験を持つ。
夫はトナカイ飼育業。ふたりとも前の結婚相手との間の子を連れて再婚した。夫は2人、彼女は1人の子連れで新しい家族を営む。正確にはサンボーという事実婚だ。普段は市中の銀行に勤めているが、トナカイの群れを季節移動させるときは、夫とともに1週間、移動生活をする。
「カラショーク市の政変は、余りに労働党与党が長く飽きてしまったこと、市の財政がどんどん赤字になってしまったことの2つに尽きますね」。こう評するのは、カラショークを基盤にする地方紙サガトの記者ステイン・トルゲ・スバラだ。中央党で、職業が会計士であるアンネは、最強の対抗馬だったに違いない。
次期市長アンネは、労働党市長の24年間の歴史を破ったばかりではない。市長といえば男性という164年間の歴史を破った。その背景に、女性議員の大躍進がある。今回、女性議員は31.6%から42%に増えたのだ。
次期市長アンネに言わせると「私たちは、家庭内男女平等を実践しています。でも、町全体は、それほどでもないんですよ。私の後ろには夫がいる。トナカイ業の利益を守りたい夫の繰り人形だ、なんて言った人がいました」
地方紙サガトの記者は言った。「ここまでになったのは、女性たちの闘いがあるんですよ。サーメの権利拡大の闘いに女性の視点、フェミニズムの視点が必要であると、常に主張してきたのです。その代表がグッドルンです。僕は、尊敬しています」
次は、サーメ女性解放運動家グッドルンの毎日を紹介したい。
【写真:サーメ語(上)とノルウェー語(下)で品物を表示するカラショーク市内スーパーマーケット】
■http://www.ssb.no/kommvalg_en/tab-2008-01-04-14-en.html
■http://www.karasjok.kommune.no/Modules/article.aspx?ObjectType=Article&Article.ID=1053&Category.ID=1261
■http://www.saminissonforum.org/norsk/wp-content/uploads/2008/11/snf-no11.pdf
【注】ノルウェーの選挙は比例代表制。市長候補は政党リストのトップに登載される。だから、最大票を獲得した政党のトップの候補者が市長になる可能性が高い。とはいえ、ノルウェーの場合、1党単独で多数与党形成は難しく政策推進をともにやれそうな他党と連立を組まなければならない。今は話し合いーーいわゆる政党間の探り合いーーの時期である。まだ市長が決まらない市もある。各市は、10月末までに市長名を提出すればいい。