2011年 08月 23日
若者たちへ
男女5人によって、一人ひとりの名前が読み上げられ、スクリーンに生前の笑顔が映し出された。はにかみ笑いの子、鼻や唇にピアスしている子、茶色や赤に髪を染めている子、ブリッジ(歯の矯正)の子…消えた77人の命が会場に蘇った。
しかし、哀悼を示すだけの行事ではなかった。
多様な社会を憎悪して暴力に訴えた事件に対して、断固「ノー」という、国の政治的態度を示そうというものだった。
自分自身に向き合った国王や首相の心打つスピーチ。そして、プログラム全体の構成が醸し出すイメージは、多様な多文化社会を作っていくのだ、という国家の選択を雄弁に物語っていた。
総合司会は、ハディ・ニーエ(Haddy N'jies)。彼女はアフリカ・ガンビア人の父親とノルウェー人の母親を持つ。歌手でありジャーナリストで作家。
異なる人種、異なる宗教の若者で構成されているラップグループKarpe Diemが、「あの事件のあった日以来、これほどひとつであると感じたことはない」とラップをうたった。
そして、ノルウェーを代表する宗教界のトップが画面に現れた(写真)。国教ノルウェーキリスト教、ユダヤ教、ノルウェー・人道主義協会、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教6人が一列に並んだ。6人のうち、キリスト教と人道主義協会のトップは女性だった。
地獄から生き延びた若者たちも、メッセージを寄せた。黒いターバンをしたプラブリーン・カウア(Prableen Kaur)は、インド出身。オスロ市議会議員候補で、タクシー運転手の娘だという。ソフィー・リュシュハーゲン(Sofie T. Lyshagen)は、エストフォル県県会議員候補。ともに18歳(ノルウェーでは18歳から選挙権・被選挙権がある)。
フィナーレは、日本でもよく知られている世界的歌手シセル・シルシェブー。「若者たちへ」を歌いあげた。ノーラール・グリーグが学生連盟のために作った古い歌だという。彼は反ナチズム、親共産主義の作家で詩人。ナチスドイツ時代のレジスタンスの闘士として今でも知られている。
「敵にかこまれて
歩き続ける
嵐の中を…
恐怖に襲われ、問いかけるだろう
何のために闘うのか?
武器は何だ?
暴力への防衛は、ここにある
闘いの武器は、ここにある
人間に対する愛だ
人間の尊厳だ
すべての人々のため
追い求めるのだ
耕すのだ
命がけで
さらに強く
さらに広く
すると
武器は沈んでいく
力なく地の底へ
人間の尊厳を守ったとき
平和がつくられるのだ
約束しよう
人から人へ
共有の地球を尊ぶことを
まるで赤ん坊を腕にだき抱えるように、
美しさと温かさをいつくしめる時まで」
(Til Ungdommenの歌詞英語版からFEM-NEWS要訳)
■Nasjonal minneseremoni
http://www.nrk.no/nett-tv/indeks/274571/
■http://www.youtube.com/watch?v=6qDCx1iM4aA
■http://en.wikipedia.org/wiki/Til_Ungdommen
■男尊女尊の国ノルウェー:キリスト教に代わる人道主義協会の台頭
http://www009.upp.so-net.ne.jp/mariko-m/nor_Christ.html
■海外の葬送事情:ノルウェー
http://www.shizensou.net/section/kaigai/norway.html
■『ノルウェーを変えた髭のノラーー男女平等社会はこうしてできた』(明石書店)