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日本の精神病院を視たイタリア人はこう言った

鍵のかかった3畳ほどの部屋。年の頃20歳くらいだろうか、細面の若い女性がふとんに横たわっていた。無表情だった。ここが彼女の住む世界かと思うと、胸がしめつけられた。

京都は洛北にある岩倉病院の急性期治療病棟の1室だ。岩倉病院は全国に先駆けて開放病棟に取り組んできた。質の高い治療とケアをしている精神病院だと評判の病院だ。

崔院長の厚意で、精神病院を廃絶したイタリアからの視察を受け入れていただいた。急性治療病棟をはじめ、認知症治療病棟、アルコール治療専門病棟、精神療養病棟などほぼ全館を見た。私は、イタリア一行のコーディネイター役として同行。1時間ほど院内を見て回ったイタリア人たちの感想はこうだった。


■「きれいな精神病院はまゆのようなもの」

トッマーゾ・ロザーヴィオ(精神科医)

日本の清潔さ、美しさに感銘を受けました。その清潔さは日本の精神病院の中にも見られました。しかし美しい精神病院は、まゆのようなものです。とりわけそこで働く職員にとっては、まゆで守られていて、外の真実が見えなくなる危険性があります。

精神病院は町の一部ではありません。それに精神病院と言う体制が、精神疾患を慢性化させ、職員の努力を無にしてしまうのです。私は、精神病院で長く働いていましたから、精神病院で働くことの難しさを知っているつもりです。でも、精神病院の外で出て、地域保健センターで働いてみて、自分には思いもよらない能力があることを発見できました。

ここの雰囲気はとてもいいのですが、そのよさが病院の中でだけで完結してはいけません。ここの外での仕事を可能にする力をこの病院は持っているはずです。これからの財源の使い方としては、病棟などを新しくすることなどへの投資はやめて、病院の外、すなわち地域保健サービスに財源を使ってほしいと思います。

岩倉病院のデイケアは、病院の下のほう階に押しつぶされるように設えてありました。病院の外に、一般の人が見えるようなところにあるべきです。


■「悲しみと諦めの入り混じった表情」

ジゼッラ・トリンカス(イタリア家族会連合会長)

私は、世界のいろいろな国々の精神病院を見てきましたが、日本の岩倉病院は、きれいで清潔で、その限りでは良い印象を受けました。

でも、しかし、強調したいのは、そこにいる人間についてです。私の見た入院者の皆さんのまなざしは、他のどの国の精神病院で見たものとも同じで、悲しみと諦めが入り混じった、ブエノスアイレスで見た最悪の精神病院での人たちの表情と同じだと感じられました。

日本の、精神保健問題での解決方法は間違っています。経営者も含めて、精神病院とは違ったやり方が有ることを知ってほしい、と思いました。


■「膨大な財源と能力の高い人手を地域保健に」

マリアグラツィア・ジャンニケッダ(バザーリア財団理事長)

京都府250万人の住民に対して3500ベッドがあることに、ショックを受けました。私は、この3500から予算の大きさを想像してしまいます。

この3500ベッドを維持する人手と金にかける予算を、まったく違うやり方に使えば、もっとはるかにましな、いろいろなことができるはずです。私の言い方は、今の日本で精神保健に携わる人たちを侮辱しているように聞こえるかもしれません。プロとしての能力をないがしろにしているかもしれません。

岩倉病院に働く若い職員のみなさんを見て、モチベーションや能力の高さが備わっていることが、よくわかりました。この人的資源を、精神病院ではなく地域に出て働いていただいたら、もっと大きなことができるはずです。これは精神科医が、世界中で言っていることであり、本もたくさん出ています。

病院経営者もいらっしゃるし、中から抵抗するのは困難だとは思います。でも、日本には、精神病院をなくしたいと思っている医師も、看護師も、PSWも、家族会もいます。政治家を説得して、変革することは不可能ではありません。

■参考サイト
岩倉病院http://www.toumonkai.net/
京都新聞「折れない葦」
http://www.kyoto-np.co.jp/info/special/orenaiashi/060529_4_5.html
日本縦断トリエステ精神保健講演会
http://trieste.jp/index.php
by bekokuma321 | 2010-11-21 01:18 | ヨーロッパ