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精神病院をやめたイタリアから・続き@横浜

「日本縦断トリエステ精神保健講演会」
~マニコミオをやめたイタリアからのメッセージ~

第2弾は、11月17日、横浜市健康福祉センターで行われた。約300人を前に6時間。主催は神奈川県精神障害者家族会連合会など。

講師の講演後、個々に質疑応答があり、3人講師全員が終了後、全員が登壇しての質問時間があった。フロアからの「精神病院をやめたイタリアから、やめられない日本政府に勧告をしてほしい」といった要望に会場はわいた。しかし、それを受けたイタリア講師の答えは「日本政府にモノ申すのは日本の皆さんです。私たちはその立場にはない」。

日本の抱える問題を変えるのは、われわれ日本人であり、われわれの闘いなしには不可能であるーーーあらためて心に刻んだ。

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Photo by Mariko Mitsui

16日とダブらないようにしながら、ポイントを報告する。以下は、筆者のメモによる要約であり、未確認事項も多いことをお断りする。Moreをクリックしてください。






■■マリアグラッツィア・ジャンニケッダ(バザーリア財団理事長)■■

●フランコ・バザーリアのアプローチ
精神病院根絶運動の師バザーリアは、精神病院長で働く前に多くの患者を治療してきた。しかし、大学の小さな付属病院での経験と、実際の精神病院には大きな相違があった。バザーリアは、牢獄で人間を治療することなど不可能だとただちにわかった。管理、監視をしなければならないのなら、治療は不可能だと気づいた。

●目の前にあった2つの道
ひとつは、人権にだって例外があるのだ、すなわち精神病院への入院を受け入れざるをえないんだとする道。もうひとつは、治療と人権を両立させるまったく新しい道。バザーリアは後者を選んだ。しかし精神病院の閉鎖するだけでダメで、(それに代わる)よいものを発案しなければならない。抑圧し、隔離するのは治療にあたらないというだけでなく、精神障がい者を排斥しない治療のありかたを作り上げることが必要である。

●多くの人の力を
精神病院を開放していくプロセスには、一般の人々の情熱が不可欠だ。これは精神保健だけではなく、生命や死を扱う医学全体に当てはまる。主体となるべき人たちが、目的・客体になってしまってはいけない。イタリアの長い闘いから得た教訓は、一般の人々が立ち上がることが重要だということだ。理念を生みだすひとは、上流階級に属していることが多い。ふつうの一般人と会話ができないか、対話しようともしないため、理念は生まれても、大きく育たない。それとは逆のいい例として40年前に出版された1冊の写真集を紹介する。この写真集こそ汚いものを外に出す、つまり精神病院の実態を包み隠さず見せた。この本は、精神病院閉鎖を支持する大衆のうねりにつながっていった。


■■トッマ―ゾ・ロザーヴィオ(精神科医、精神病院閉鎖プロジェクト責任者)■■

精神病院は完全に閉鎖しなければならない!
なぜなら
1)精神病院は治療しない、往々にして病気をさらに悪くする
2)精神病院は病気を慢性化させる
3)精神病院は病気が引き起こされた歴史(その人の個人史)を取り去ってしまう
4)精神病院は地域保健サービスよりコストがかかる

閉鎖に必要なこと
1)インスティチューショナライゼーションの変革から始める
2)いかなる形態であろうとも絶対に放棄しない
3)地域にサービスネットワークを作る
4)新しい健康社会制度づくりを進める
5)健康と治療に関する新しい仕事文化を促進する

精神病院ではなく精神保健に
病気ではなく病いを抱えた人に
支配ではなく世話(ケア)に
周辺化ではなく受け入れに
隔離ではなく地域に
中央集権ではなく地方分権に
医療隊ではなく多様な仕事チームに


■■ジゼッラ・トリンカス(イタリア家族会連合会長)■■

地獄のような所(精神病院)にいた姉が退院して外に出たのは、姉の病が治ったからではない。180号法という法律がイタリアでできて、精神病院から入院患者が出されてしまったからだ。しかし、そのころ、サルディーニアには、トリエステにあるような地域保健サービスなどなかった。

姉には他人の世話や支援が絶対に必要だった。私は姉を、放棄せずにケアをしてあげたかった。何かしなければならないが何をしたらいいかわからず思いあぐねているとき、マリア・グラッツィアと、バザーリアの妻のフランカに出会った。フランカは社会学者で国会議員。彼女たちとの話し合い後、1986年、サルディーニアに家族会を創設し、他の州にある同様の会の人たちとともに闘いに加わることになった。

180号法ができた当時、毎日のさまざまなことがらの責任、犠牲、具体的な行動をしなければ動かない多くの仕事を担う家族たちがいた。家族たちは支えあいながら新しい文化への移行を支持した。個々の具体的な話は主に女性たちから出された。なぜなら、病をかかえる人の世話や治療の重荷を担っていたのは女性たちだからだ。

UNASAMとは精神病院完全閉鎖を支持し、精神に障がいをかかえながら生きる人々の権利と尊厳を回復する闘いをする家族会の全国連合体である。170の家族会がその傘下にあり、私はその代表である。地域の精神保健サービスをつくることに、全国で貢献してきた。

1998年から2000年の間に、最も巨大な精神病院が閉鎖されたが、それは、ある期限までに病院閉鎖をしなければ、罰則(経済制裁)を科すという法律のおかげだった。この法律の成立に向け、精神科医や学者たち、そして私たち家族会は、ともに激しい闘いを展開した。

現在、私たちは、極度に対立的な、複雑な社会システムに生きており、弱弱しく頼りない生き物である。こうした問題は精神病院にかかわる人たちだけの問題ではなく、われわれすべての人の問題である。

講演の後、ジゼッラ・トリンカスは、自らが立ち上げた地域保健センターのDVDを見せた。集い、暮らし、楽しむ人たちの笑顔が画面にいっぱい。「あ~、こういうことができるんだ」と目がウルウルしてきた。

【注】マリアグラッツィアが言った写真集は『死にゆく階級』(原題Morire di Classe)である。1969年、フランコ・バザーリアが精神病院の実態を赤裸々に写真で知らせた告発の書。ベストセラーとなって、イタリアの多くの人たちが地獄のような現実を知ることになった。最近、復刻版が出版された。
http://www.vidbox.org/video/eXt069KzYsM/MORIRE_DI_CLASSE____1968.html



主催:
●日本縦断トリエステ精神保健講演会実行委員会(詳しくはHPを「日本縦断トリエステ精神保健講演会」)
委員長:堂本暁子 事務局長:大熊一夫 
委員:伊藤順一郎、門屋充郎、大石真弥、大石賢二郎、恒松由記子、久永文恵、田島光浩、三井マリ子、半田卓穂
●フランコ・バザーリア財団
by bekokuma321 | 2010-11-19 11:26 | ヨーロッパ