2019年 12月 16日
政治家の出発点は中高時代の政治的関心(ノルウェー)
ベンテ・シェルバンは、オスロ市内のNRK(ノルウェー放送協会)に勤務する。以前は、労働組合の代表をし、7年間、労働組合の専従職員だったこともある。
日本でノルウェーの選挙を紹介する私は、参加者から学校教育と選挙について質問を受けることが多い。そこで、「幼い頃から常に政治的だった」というベンテ・シェルバンに、子どもの頃を思い出してもらった。

●EU問題や妊娠中絶問題を議論する中学生
1972年、EU加盟をめぐる国民投票があった。当時、ベンテ・シェルバンは中学生。投票権はなかったが、熱心にEU加盟の反対運動をしたという。
「ええ、しょっちゅう中学校でEU加盟の是非の政治討論をしました。それに、妊娠中絶も大きな政治的課題になっていて、友人たちと議論しました。左派社会党という新党ができたので、支持するようになりました」
高校では、左派社会党の青年部にはいった。先鋭的と言えるほど活発に政治運動をした。大学生になると、左派社会党青年部大学生議会代表に選ばれた。その後、現在の赤党にあたる政党に入党した。
「高校にも、大学にも、それぞれの政党が、支部というか活動組織を持っていました。政党青年部高校議会、政党青年部大学議会とか呼んでいいでしょう」
政治的に熱心な中高生だったベンテ・シェルバン。変わった子だと言われなかったのか。
●批判的思考を奨励する学校
「そんなふうに言われたことはありませんね。ノルウェーでは、子どもが政治的発言を活発にすることは、別にめずらしくありません。政治的テーマで社会に批判的であることは、信用をおとすようなことではないでしょ。学校では、政治的に批判的思考をとることをむしろ奨励されていました(注1)。高校のクラスは30人ほどでしたが、だれもが政治的議論をしていました。そうね、とても活発だったのは10人ほど、3分の1ぐらいでした」
彼女は、文部省の交換留学生奨学生として、2年間日本で暮らした。大阪外大・立教大学で学んだ。NRKのジャーナリストになってからは、日本に取材に来たこともある。今も日本が大好きだ。そんな彼女は、日本の政治をどう見ているだろう。
●日本の政治家は自分を偉いと思っている
「日本の政治は、あまりにエリート主義です。ノルウェーでは、選挙で選ぶ人たちは、『あなたは、私たちによって選ばれたのだから、私たちのために働かなくてはならない』という権利意識を持っています。選挙で選ばれた人たちは、選んだ人たちの負託にこたえなければならない義務があります。でも、日本の議員は、自分は、選んだ人たちとは違う、自分は、偉いんだ、と考えているような気がしますね」
「日本の政治は、カネにまつわる話ばかり。本当の政治の話はない。政治家が、『こういう社会にしたい、そのためにこういう政策を遂行したい』という発言を聞いたことないですね。多くの政治家は、ただ単に権力をほしくて立候補するように見えます」
ノルウェーは選挙になると、どの政党も旗色鮮明にして、政策の違いを際立たせる。テレビでは、政党の代表たちが居並び、口角泡を飛ばして政策討論をするのが日々の選挙風景だ。2019年秋の地方選挙では、道路税、地方合併問題がテーマとなった(注2)。
「日本の政党は、こういうビジョンで社会をつくりたい、そうした社会を作るためには、こういう道筋が必要だ、だからこういう政策をとる、という明快な考えが示されません。だから、日本の政党の違いは、私にはわかりません」
ノルウェーにも、カネと権力がほしくて政治家になる人だっているのではないか。
●ノルウェー政治家の出発点
「ノルウェーでは、非常に若い時にーー中高生ーー政治に関心を持ちはじめます。『こう変革したい』、または逆に『これは断固守り続けたい』、だから政治家になろう、と。これがノルウェーの政治家の出発点です。自分の政治的イデオロギーや政治的価値観を実行させるために、政党の青年部にはいります。そこで、日ごろから活動を積み重ねて、次第に要職というか、上にあがっていくわけです」
ノルウェーでは、権力やカネに関心を抱き固執する政治家はホントにいないのか。
「政治家なら、常に、いくつかの重要政策を持ち、自分の約束した事を実行させるために、わかりやすい主張をして、議論を続けていかなければいけません。健康の問題、住宅問題、環境問題、道路税問題でもなんでも、重要だと思う政策課題に対して常に強く働きかけていくことが必要です。そうしなければ、政党内で生き残れません」
「ノルウェーで、政治家になることはそう簡単ではありません。政党(政党青年部)のメンバーになって、党内でなにがしかの地位につくためには、関心を持つ政治課題を多くの人にわかりやすく説得力をもって明確に示せる力がなければなりません。ですから、それに常に深くかかわってなければなりません。何らかの政治的課題に関わって苦労してこないような人を認める政党は、左右関係なく、どこにもないと思います。(例外は)大臣のポストなら、政党で活動してなくても、ある分野で秀でた人がポンと登用されることはありますが」
もし、ある政治家がカネと権力を握ることが本心だとしたら、その政治家はノルウェーではどうなるか。
「関心があるのはカネと権力だけだと、人知れず思う人もありえるでしょうが、その場合、権力をつかむまで何十年間も自分はそうではないふりをする必要があります。難しいですね」
●ひとりひとりの声は大切である
ノルウェーと日本を知るあなたにとって、政治を考える際、最も大きな違いは何だと思うか。
「ノルウェー人は、『ひとりひとりの声は大切である(Their voices matter)』と考えています。言い換えると、社会に変革をもたらすことができるのはひとりひとりの声だ、と考えています。でも、日本人は、理不尽なことに出会っても、『どうせ私が何かしても変わらない』と思うようです。働く女性のために保育所を増やすなど保育政策を改善すべきだと思っていても、『私が何かしたところで変わるものでもないから、何もしていません』。変えたいという問題を持っていても、それを政治的にオモテに出そうとしない、Political outletsがない、と思います」
(多忙なスケジュールの合間にインタビューに答えるNRKのベンテ・シェルバン。明るく快適そうな仕事部屋、動きやすそうな服装や靴が素敵だ。2019年9月オスロのNRKにて)
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2019年 12月 15日
案内「腰を据えて考える 主権在民と民主主義!」
日本の選挙の投票率の低さは、代表制民主主義の形骸化を招き、深刻です。民主主義と地
方自治を鍛えるため、北欧の選挙制度や社会制度、日本の公民館が国民主権に果た
す重要性を学び、考えます。「腰を据えて考える 主権在民と民主主義!」にどうぞ!

2019年 12月 13日
女性議員34%、イギリス史上最高に
イギリスで、総選挙があり、保守党が大勝した。女性議員は34%と、イギリス史上最高となった。
日本で1994年、衆院の選挙を小選挙区比例代表並立制に変えたとき、モデルにしたのはイギリスだそうだ。イギリス流の二大政党制にあこがれ、小選挙区制にすると、政党中心の選挙になり政権交代が容易になると唱える人が多かったらしい。
日本の衆院選は、比例制が少し入っているとはいえ小選挙区のおできみたいなもので、小選挙区制中心の選挙だ。というわけで、同じ小選挙区型選挙のイギリスの総選挙と比べてみた。あらら、違うのは、女性議員の割合だけではなかった。
ちなみに、元祖小選挙区の国イギリスだが、比例代表制にしようという運動への支持が伸びているという。
●イギリスは、日本の人口のほぼ半分だ。しかるに、イギリス650議席、日本465議席で、日本の議席は少なすぎる
●イギリスの投票用紙は1枚で、候補者名とその候補の所属政党ロゴがすでに印刷されており、投票者は、各候補の右にある空欄にチェックをつけるだけだ。一方、日本では投票用紙が2枚あり、投票者は、小選挙区は候補者名を、比例区は政党名を書かせられる。日本は投票者に苦労させている。
●イギリスは、選挙権も被選挙権も18歳から。日本は、選挙権は18歳からだが、被選挙権は25歳から
●イギリスは解散・公示日が同じで、投票日まで1か月以上の選挙期間がある。一方、日本は解散してしばらくして公示日となり、選挙期間は投票日までわずか12日間しかない
●イギリスの供託金は約9万円だが、日本は300万円。日本の供託金は極端に高すぎる
●イギリスは戸別訪問が中心的選挙運動だが、日本は戸別訪問を法律で禁止
●投票率は、イギリスが67.2%、日本は53.7%。日本の投票率は低すぎる
●イギリスでは労働党が歴史的大敗をしたというが、それでも全議席の31%を占める。日本の野党第1党(立憲)は12%でしかない
●イギリスの女性議員は全議員の34%となり、世界193カ国中36番目にランクインしそうだ。保守党でも約4分の1、労働党に至っては過半数の104議席が女性に(下図)。しかるに、日本は10%で、世界で164番目

2019年 12月 12日
叫ぶ芸術「家でボクシングをするな」(ポーランド)

2019年 12月 11日
34歳女性首相誕生させた社会のシステム
フィンランドに34歳の女性首相が誕生した。彼女の名はサンナ・マリン。
サンナ・マリンは、レインボー家族(レズビアンの母親と彼女のパートナー)に生まれ育ち、思春期の頃は、それを言い出せず悩んだこともあるという。
首相になった直接のきっかけは、5党による連立政権のアンティ・リンネ首相(社会民主党代表)が、辞任したことだ。社会民主党第1副代表だった彼女が首相候補に選出されて、さきごろ、国会でも承認された。これで、彼女は、月170万円、年30日の有給休暇が保障された、フィンランド国家のかじ取り役に就任する。
世界でもっとも若い首相、しかも女性という彼女のキャリアを見ると、比例代表制ならではの要素と、女性運動の強さがあると思う。
サンナ・マリンは、20代初め、社会民主党青年部で頭角を現した。大学在学中の2008年に市議選に立候補した。若い女性が候補者リストの上位に載って、当選圏にはいることも比例代表制選挙の特徴だ。彼女は当選に至らなかったが、代理議員となった。
代理議員とは、比例代表選で、たとえば選挙区から2人当選した政党があるとすると、それぞれに1人ずつ計2人の代理議員が同じ選挙区の同じ政党から一緒に選ばれる。議員が休暇をとったら、控えている同党の代理議員がただちに議員となって職務を代行する。政党中心の比例代表制選挙ならでは、だ。
サンナ・マリンは、2012年にタンペレ市の市議会議員に当選した。まだ大学院生だった。北欧諸国では、地方議員はほぼ無報酬であり、職業や学業を続けながら議員をする。日本の地方議員は月ウン十万円も報酬を受け取る職業政治家がほとんどだが、北欧諸国の地方議員は、使命感とボランティア精神が命だ。
2014年、彼女は社会民主党の第2副代表となり、2017年には第1副代表となった。その間の2015年、国会議員選挙に初めて立候補して当選。4年後の今年2019年、再選された。
フィンランドは現在、国会議員200人のうち94人、47%が女性だ。ちなみに、日本は、わずか10%(第一院)。
思い出すのは1994年、フィンランドの女性運動団体を訪問したときのことだ。「国会議員の100人(半数)を女性に」という大キャンペーンをしていた。その時いただいたハガキを私はまだ持っている。その後、女性参政権100周年にあたる2006年、女性運動団体は、今度は「人口の51%は女性だから、国会の101人は女性が好ましい」というキャンペーンを展開。それに使われたのが左上のポスターである。
サンナ・マリンは、まだ2歳にならない赤ちゃんの母親でもある。世界中が話題にしている「年齢や女性であること」について、「まったく気にしたことはありません」と言ったらしい。EU議長国として、世界のメディアで発言する機会が増えるだろう。楽しみ、楽しみ!