c0166264_2245924.jpg「選挙に向けて政策論争がキックオフ」

先週、ノルウェーからこんな見出しのニュースが届いた。2017年秋の国政選挙に向けて、8月18日、全党首が集まって討論会を行ったことを知らせていた。国政選挙は1年以上も先だから、アメリカの大統領選よりはるかに長期戦だ。

ノルウェーの国政選挙は日本でいえば衆院選だけだ。その日本の衆院選は、解散後、ほんの1カ月で選挙になり、選挙期間はわずか12日間。弾丸のようだ。

こんな短期間で、政党や候補者の政策や政治姿勢を比較検討などできるはずもない。世襲議員や前議員が有利なのは当たり前だ。女性候補など後発部隊は、有名タレント以外は当選など望めない。

そのうえ日本は、選挙中、肝心要の候補者による政策討論会は禁止されている。連呼(名前を叫び続ける)は合法だが、名前を聞くだけで候補者の政策の違いや、それが自分たちにどんな影響を及ぼすかがわかるはずはない。

そこで、ノルウェーの選挙のキックオフについて少し調べてみた。件の党首討論会は、首都オスロの南にある港町で開かれた「アーレンダール・ウィークArendal Week」という夏祭りに組み込まれた1つのプログラムだった。

アーレンダールは、オスロの南方にある人口4万人ほどの港町。「アーレンダール・ウィーク」とは、アーレンダール市あげての政治文化フォーラムのことを指す。

趣旨は、「政治、社会、産業分野の代表者たちが、市民といっしょに現在と未来の政策を語りあって、民主主義と民主主義的討論を強める」こと。

目標は3つだ。「アーレンダールが、政治的交流の場となること」、「選挙にできるだけ多くの人々がかかわるようにすること」、「政財界の代表的人物たちと市民が直に交流できるよう支援をすること」だという。 す・ば・ら・し・い!

今夏は、8月15日から20日までの1週間。港のそばの通りに約170のスタンドが立ち並び、約550ものイベントが朝から晩まで繰り広げられた。子ども向けプログラムも盛りだくさんだ。子ども記者というものもある。

記者になって首相に取材した12歳の女の子は、「私は、識字障害で悩んでいるんですが、首相がその病気だったと公開していたことを知って、首相にアドバイスをお願いしたんです。とても励まされました」との感想。それが大手新聞に載っていた。

「アーレンダール・ウィーク」のモットーは「すべての人に開かれ、すべて無料、切符も不要 Open to all - free - no tickets」。どこで何が開かれているかは、地方紙やホームページを見るとわかる。動画には、いくつかの会場で楽しそうに歩き回る子どもたちが写っていた。

スタンドは、アムネスティなど国際団体、全国公衆衛生女性組合など労働組合、右から左までの全政党、森の会など市民団体・・・。イベントは、冒頭に紹介した党首討論会や青年部長討論会、国際会議、意見が分かれる政治的テーマの討論会(例:「すべての人に働く場を」、「押し寄せる難民」)、コンサート、演劇、ヨガ、カフェ・・・。

国際会議のひとつ「北極カウンシル」は、国際機関、国会、大学などが共催していた。発言者には、アメリカ大使、ノルウェー外務副大臣や国会議員、船舶協会会長に加え、アラスカ選出の米連邦上院議員(女性)が招待された。この会議の言葉は、通訳なしの英語だった。

党首討論会には、主要7政党に加えて初めて1議席をとったばかりの緑の党の8党首全員が登壇。首相と財務大臣を含め女性党首は3人だ。難民政策から、教育、福祉、労働、医療など暮らしの問題まで、政策の違いをアピールした。大きな会場は、ほぼ満席。

c0166264_2233326.jpg日程をずらして、同じ大ホールで、党青年部部長の討論会もあった。

8政党の代表で男6人、女2人。全員20代。現役の大学生や院生で、8人中2人は現職の地方議員だ。ノルウェーの地方議員は、無給のボランティアである(大都市は例外)。職業や学業を続けながら議員職を兼務する。労働党の青年部長は、10歳のころシリアから家族と亡命してきた、オスロ大学の院生だという(注1)。

何年か前、オスロ市議(東京都議にあたる)に当選した18歳の女子高校生を取材したことがある。インドからの移民でタクシー運転手の娘だと知って、私は目を丸くした。が、じき、シリア難民が国会に登場する時が来る、そんな予感がした(注2)。

ノルウェーは、民主主義をはかる指数で世界一である(英誌「エコノミスト」のEconomic Intelligence Unit)。世界一のノルウェーは、こうして民主主義の力を養う努力をしているんだな、とその秘訣を見つけた思いだ(注3)。

オリンピックに費やされる2兆円もの予算があれば、日本でもこのようなフォーラムを、毎年、楽にやれるだろう。オリンピックでなくても、日本の政党に毎年交付される320億円という政党交付金――政治家によって飲み食い、キャバクラやSMバーに使われたり、政治活動に使わずにため込まれている、私たちの血税――を回すだけでも簡単にできる。

問題は経費ではない。老若男女すべての人たちに政治的判断力を持たせようようとするノルウェーに対して、市民にできるだけ政治的判断力を持たせまいとする日本。その違いだろう。


【写真上:アーレンダール・ウィークのプログラム冊子「未来をつくるために Former fremtiden」。下:政党青年部部長会議】

【注1:ノルウェーは、小学校から大学まで学費は無料】
【注2:ノルウェーでは、18歳以上の住民は3年間住み続けたらその地方の参政権を得る。参政権は選挙権と被選挙権。ノルウェー国籍は不要。選挙は比例代表制で、政党内議論を経て作られた候補者リストがそのまま投票用紙になる。比例代表制なので、大政党は大政党なりに、小政党は小政党なりに代表者を送れる。そのため、小さな自治体であっても、5~6政党から議員がいて、女性議員も4割ほどいる】
【注3:「アーレンダール・ウィークArendal Week」ホームページによると前年度から企画をネットで公募。今年のおおよそのイベント数は討論会200以上、セミナー80、講演会50、文化行事50。とくに子どもや若者が民主主義に関心を持てるようにするため工夫が施された、と報告されている】

Arendal week
民主主義度1位ノルウェー、23位日本

世界一民主的な国
世界一民主主義の国はノルウェー、日本は22位

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The Year in Elections report 2015(Electoral Integrity Project:各国の選挙が公正に行使されているかを調査し比較したもの)


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by bekokuma321 | 2016-08-30 22:46 | ノルウェー