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ノルウェーでDV殺害事件

c0166264_15197.jpg8月29日、ノルウェーの最北端キルケネスで、37歳の女性と、その12歳の息子が銃殺される事件があった。

報道によると、2人を殺害したのは女性の夫で、2人を殺害した後、自殺をはかって入院中である、と、警察が発表している。妻はタイから3年前にやってきて、ノルウェー在住資格をすでに持っている、という。

ノルウェーのDV対策は、予算といいスタッフといい日本とは比較にならないほど充実している。暴力被害者からの相談受付も24時間対応のうえ、駆け込みシェルター(クライシスセンター)も随所に設置されている。警察官へのDV研修もなされてきた。女性議員が多く、女性に対する暴力に黙ってはいない。

2011年2月、私はキルケネスの隣町を取材したことがあり、滞在中、キルケケネスにも行った。

公立図書館が町の中心部にあり、その蔵書の豊かさに目をみはった。たくさんの子どもたちが、静かに読書していた。厳寒の外とは大違い。その温かさは、室内温度にあるだけではなく、かもしだす雰囲気にもあるような気がした(注)。

その図書館の壁の目立つところに駆け込みシェルターのポスターが貼られていた(写真上)。町のシンボル「戦時下の母」像(写真下)が、シェルターのシンボルに使われていて、これなら、ノルウェー語がおぼつかない移民女性でも、危機を感じたときに察しがつくかもしれないと思った。

事件の背景には何があったのだろう。移民女性であることも、関係したのだろうか。亡くなった女性の友人知人の証言や、なによりも殺害容疑の夫からの事情聴取が待たれる。

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▲Krigsmødre(戦時下の母親)のモニュメント。赤ん坊をかかえ、毅然と前方を見つめる女性。足元に座る子どもも同じ方向を見ている。母親は裸足だ。キルケネスの広場中央にある。

Dobbeltdrapet i Kirkenes
映画『パパ、ママをぶたないで』が生まれた国ノルウェー(ノルウェーのシェルターの実態、社会的政治的背景のレポート)
絵本「パパと怒り鬼―話してごらん、だれかに―」DV(ドメスティック・バイオレンス)を子どもの視点からとらえたノルウェーの絵本

【注:「図書館大国」といわれるノルウェー。全国に散らばる図書館の全体像をつかむには、『文化を育むノルウェーの図書館』がおすすめ。Magnussenn矢部直美、吉田右子、和気尚美共著で新評論から刊行されている】
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by bekokuma321 | 2016-09-03 01:25 | ノルウェー

FEM-NEWS読書会をしたい

c0166264_2359426.jpg三井マリ子さんが主宰するこの「FEM-NEWS」は、議論百出となる政治的テーマに関する国際的情報を、詳細にリアルタイムで提供しているだけでなく、かなり過去まで遡ったリンクを貼ってあり、読み応えのあるものです。

これを議論のネタにする討論会をあちこちでできたら、と強く思います。

さいたま市で開かれた「夏のマダン」(写真上)で、在日韓国人のかたたちに、あなたが紹介していたように「ノルウェーは3年在住なら地方参政権獲得」、「物事を決める場にはクオータ制」、「国会議員選挙も地方議会選挙も比例代表制」、「地方議会も議院内閣制(フォルマンスカープ)」などは、日本でもっと真剣に議論すべきです。

c0166264_003339.jpgさきほど「フォルマンスカープ」で検索したら、すでに「北欧福祉社会は地方自治体がつくる」に解説してあることがわかりました。2011年10月22日に広報しています。これは、小さな自治体の老人ホーム訪問記(写真右)で、地方自治体が中央政府から独立して福祉政策を遂行しているという、素晴らしい報告です。

フォルマンスカープ同様、北欧福祉についても一人でも多くの人に知ってほしいです。

さて、「地方参政権の問題も含めて、選挙制度改革への関心を高めるには、どうしたらいいか」と三井さんは悩んでいるようですが、私の答えはただ一つです。あなたの人脈を通じて、全国の地方議員たちやその支援者に、FEM-NEWS読書会を開催してもらい、敢えて議論百出のテーマを選んで討論をしあうことではないでしょうか。

理解して賛同してくれる議員が出てきたら、「審議会委員の団体推薦リストは男女一名ずつとする」という条例(「男女ペア推薦の法律」:明石書店『ママは大臣パパ育児』p112)を議員提案で議会に出してもらうのです。それが通れば、行政側は、男女半々の委員を採用しやすくなります。

FEM-NEWSウオッチャーの私が相棒となって、全国の「読書会」にボランティアで飛び歩きます。「如何にしたら世直しができるか」の具体案を提示し、その筋道を伝えることで、参加者のなかから「三井マリ子メソッドの伝い手」が生まれ出てくるはずです。

読書会の呼びかけは、「FEM-NEWS」の末尾にその情報を載せさえすればいい。「パリテ」を目指す三井さんの闘いには、たくさんの人々が集い、「伝え手」になりたい人々もたくさん出てくると思います。

田口房雄(緑の党 Greens Japan 会員)
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by bekokuma321 | 2016-09-03 00:06 | ノルウェー

c0166264_2245924.jpg「選挙に向けて政策論争がキックオフ」

先週、ノルウェーからこんな見出しのニュースが届いた。2017年秋の国政選挙に向けて、8月18日、全党首が集まって討論会を行ったことを知らせていた。国政選挙は1年以上も先だから、アメリカの大統領選よりはるかに長期戦だ。

ノルウェーの国政選挙は日本でいえば衆院選だけだ。その日本の衆院選は、解散後、ほんの1カ月で選挙になり、選挙期間はわずか12日間。弾丸のようだ。

こんな短期間で、政党や候補者の政策や政治姿勢を比較検討などできるはずもない。世襲議員や前議員が有利なのは当たり前だ。女性候補など後発部隊は、有名タレント以外は当選など望めない。

そのうえ日本は、選挙中、肝心要の候補者による政策討論会は禁止されている。連呼(名前を叫び続ける)は合法だが、名前を聞くだけで候補者の政策の違いや、それが自分たちにどんな影響を及ぼすかがわかるはずはない。

そこで、ノルウェーの選挙のキックオフについて少し調べてみた。件の党首討論会は、首都オスロの南にある港町で開かれた「アーレンダール・ウィークArendal Week」という夏祭りに組み込まれた1つのプログラムだった。

アーレンダールは、オスロの南方にある人口4万人ほどの港町。「アーレンダール・ウィーク」とは、アーレンダール市あげての政治文化フォーラムのことを指す。

趣旨は、「政治、社会、産業分野の代表者たちが、市民といっしょに現在と未来の政策を語りあって、民主主義と民主主義的討論を強める」こと。

目標は3つだ。「アーレンダールが、政治的交流の場となること」、「選挙にできるだけ多くの人々がかかわるようにすること」、「政財界の代表的人物たちと市民が直に交流できるよう支援をすること」だという。 す・ば・ら・し・い!

今夏は、8月15日から20日までの1週間。港のそばの通りに約170のスタンドが立ち並び、約550ものイベントが朝から晩まで繰り広げられた。子ども向けプログラムも盛りだくさんだ。子ども記者というものもある。

記者になって首相に取材した12歳の女の子は、「私は、識字障害で悩んでいるんですが、首相がその病気だったと公開していたことを知って、首相にアドバイスをお願いしたんです。とても励まされました」との感想。それが大手新聞に載っていた。

「アーレンダール・ウィーク」のモットーは「すべての人に開かれ、すべて無料、切符も不要 Open to all - free - no tickets」。どこで何が開かれているかは、地方紙やホームページを見るとわかる。動画には、いくつかの会場で楽しそうに歩き回る子どもたちが写っていた。

スタンドは、アムネスティなど国際団体、全国公衆衛生女性組合など労働組合、右から左までの全政党、森の会など市民団体・・・。イベントは、冒頭に紹介した党首討論会や青年部長討論会、国際会議、意見が分かれる政治的テーマの討論会(例:「すべての人に働く場を」、「押し寄せる難民」)、コンサート、演劇、ヨガ、カフェ・・・。

国際会議のひとつ「北極カウンシル」は、国際機関、国会、大学などが共催していた。発言者には、アメリカ大使、ノルウェー外務副大臣や国会議員、船舶協会会長に加え、アラスカ選出の米連邦上院議員(女性)が招待された。この会議の言葉は、通訳なしの英語だった。

党首討論会には、主要7政党に加えて初めて1議席をとったばかりの緑の党の8党首全員が登壇。首相と財務大臣を含め女性党首は3人だ。難民政策から、教育、福祉、労働、医療など暮らしの問題まで、政策の違いをアピールした。大きな会場は、ほぼ満席。

c0166264_2233326.jpg日程をずらして、同じ大ホールで、党青年部部長の討論会もあった。

8政党の代表で男6人、女2人。全員20代。現役の大学生や院生で、8人中2人は現職の地方議員だ。ノルウェーの地方議員は、無給のボランティアである(大都市は例外)。職業や学業を続けながら議員職を兼務する。労働党の青年部長は、10歳のころシリアから家族と亡命してきた、オスロ大学の院生だという(注1)。

何年か前、オスロ市議(東京都議にあたる)に当選した18歳の女子高校生を取材したことがある。インドからの移民でタクシー運転手の娘だと知って、私は目を丸くした。が、じき、シリア難民が国会に登場する時が来る、そんな予感がした(注2)。

ノルウェーは、民主主義をはかる指数で世界一である(英誌「エコノミスト」のEconomic Intelligence Unit)。世界一のノルウェーは、こうして民主主義の力を養う努力をしているんだな、とその秘訣を見つけた思いだ(注3)。

オリンピックに費やされる2兆円もの予算があれば、日本でもこのようなフォーラムを、毎年、楽にやれるだろう。オリンピックでなくても、日本の政党に毎年交付される320億円という政党交付金――政治家によって飲み食い、キャバクラやSMバーに使われたり、政治活動に使わずにため込まれている、私たちの血税――を回すだけでも簡単にできる。

問題は経費ではない。老若男女すべての人たちに政治的判断力を持たせようようとするノルウェーに対して、市民にできるだけ政治的判断力を持たせまいとする日本。その違いだろう。


【写真上:アーレンダール・ウィークのプログラム冊子「未来をつくるために Former fremtiden」。下:政党青年部部長会議】

【注1:ノルウェーは、小学校から大学まで学費は無料】
【注2:ノルウェーでは、18歳以上の住民は3年間住み続けたらその地方の参政権を得る。参政権は選挙権と被選挙権。ノルウェー国籍は不要。選挙は比例代表制で、政党内議論を経て作られた候補者リストがそのまま投票用紙になる。比例代表制なので、大政党は大政党なりに、小政党は小政党なりに代表者を送れる。そのため、小さな自治体であっても、5~6政党から議員がいて、女性議員も4割ほどいる】
【注3:「アーレンダール・ウィークArendal Week」ホームページによると前年度から企画をネットで公募。今年のおおよそのイベント数は討論会200以上、セミナー80、講演会50、文化行事50。とくに子どもや若者が民主主義に関心を持てるようにするため工夫が施された、と報告されている】

Arendal week
民主主義度1位ノルウェー、23位日本

世界一民主的な国
世界一民主主義の国はノルウェー、日本は22位

ノルウェー地方選2015
スクール・エレクション終わる
ノルウェーの地方議会選挙
ノルウェー:市長と議会に女性を増やす秘策
比例代表制は女性や弱者が当選しやすい
比例制選挙がいい
北欧福祉社会は地方自治体がつくる
ノルウェー選挙:性差も肌の色も越えて


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by bekokuma321 | 2016-08-30 22:46 | ノルウェー

EUに「ノー」

6月24日、イギリスは国民投票でEUから離脱する道を選んだ。そのとたん、ポンドは急落、株は暴落、首相は交代。世界中が大騒ぎになった。

日本は昨日、年金運用で5兆円の赤字となったのは、EU離脱の影響があると、言っていた。

なぜ、イギリス国民はEU「ノー」を選んだのか。

大方のメディアが言うように、難民急増を恐れる国民の感情に乗る離脱派の作戦が功を奏したこともあるだろう。でも、私は「EUに加盟して40年。長年のEUに対する懐疑心が票になって表れた」とする『ガーディアン』紙が当たっていると思う。

イギリスは、今、ノルウェー方式をみならおうとしているという。ノルウェーは、EUに加盟していないにも関わらず、経済的に成功している国だからだ。最新調査だと、EU反対は、ノルウェー国民の74%にのぼる。

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このポスターは、ノルウェーのEU反対市民がつくったポスターだ。ノルウェー政府は加盟申請したが、このポスターのもとに集まった国民は、EU加盟を拒否した。

ポスター下方にある建物はオスロにある国会議事堂。国会を乗っ取るような巨大な木製の像は、北欧神話に出てくる女神サーガ。千里眼を持つといわれる伝説の女性だ。

実は、ノルウェーのEU反対運動は、女性たちが主導した。女たちはこう主張した。

「ノルウェーは不平等をなくすことに社会の富を使ってきた。
保育、教育、福祉など公的サービス部門を充実させた。
その結果、女性の職場が増えた。
すべての女性が無理なく外で働けるようになった。
しかしEUは、福祉分野に市場原理を導入し、公的分野を縮小させようとしている。
これでは金持ちしか、必要なサービスを受けられなくなる」

この後は、I 女のしんぶんの「叫ぶ芸術ーーポスターに見る世界の女たち」をどうぞ。

How did UK end up voting to leave theEuropean Union?

Nei til EU
How Do EU Decisions Affect Nordic Gender Equality?
EU国民投票と女性





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by bekokuma321 | 2016-08-27 21:38 | ノルウェー

大学のクオータ制

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▲女性が多いオスロ大学。大学前で電車を待つオスロ大学の学生たち

ノルウェーからの報道によると、大学のクオータ制導入が再びニュースになっているようだ。

ベルゲン大学は、心理学部の男子入学にクオータ制をとりいれると決めた。2016年、同大学心理学部を専攻した学生の84%もが女性であるからだ。

ベルゲン大学の教育学部副学部長で、健康心理学専門のオッドルン・サンダール教授は、「働く場では、男性心理学者や博士も、女性の心理学者や博士も、どちらもいることが大切なのです」と、メディアに語っている。

同様にオスロ大学も男性のクオータ制導入を決めた。教育省(日本の文科省)は、大学からの、この提案を回覧してコメントを求めている最中だ。

当局は、心理学部を希望する男性が加点をもらえる方式にするか、同じ成績の女子学生よりも、男子学生を優先的に入学させる方式にするか、どちらかを選択することになる。その締め切りは9月2日。クリスマスまでに決定される、という。

4年前にも同じテーマのニュースがあった。当時、ノルウェーのオスロ大学副学長インガ・ボスタInga Bostadは、男子学生への加算―--ジェンダーポイントKjønnspoeng―-を認めないと決定した。オスロ大学では女子学生が男子より多い学部ーー心理、医学、歯学ーーなどで議論されていて、男子が20%しかいなかった心理学部は、加算点採用を決定し、それをオスロ大学本部に提案していた。その心理学部の決定を、大学としては反対したのだった。

今回は、4年前とは異なって、心理学部のクオータ制を認めた大学本部側が、教育省に申請した。

いかなる分野であっても、できるだけ一方の性に偏らないようにすべきだ、というノルウェーの強い意志が見える。

Bergen vil kvotere inn menn til psykologistudiet
オスロ大学、男子への加算点認めず
●連載● クオータ制は平等社会への一里塚 第5回「クオータ制が生んだ名物教授」 
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by bekokuma321 | 2016-08-08 10:36 | ノルウェー

c0166264_2251457.jpgノルウェーからの報道によると、ノルウェーのトロムスにある小学校フィンスネス・バーナスクーラでは、この夏休み明けから、女子がブルキニ(BURQINI)を水泳の時間に着てもいいことになった。

ブルキニとは、顔と手を足を除いて全身をすっぽり被う女性用の水着のことだ。ブルカとビキニをあわせた造語と思われる。

フィンスネス・バーナスクーラの校長エスペン・ヘイ先生は、こう発表した。

「娘たちに、ブルキニを着せたいと考えている親がいて、親たちが自身のお金でブルキニを買って着せても、かまいません。でも、他の生徒たちと一緒に水泳のクラスに参加しなければなりません」

c0166264_11102865.jpgノルウェーにはイスラム系移民が多い。私の記憶によると、水泳は必須科目なので、イスラム系の少女たちが水泳の時間を欠席することは、ずっと問題となっていた。

今回の報道によると、フィンスネス小学校の決断は、学校と家庭の話し合いによってもたらされた。6月には、話し合いに難民サービス代表と通訳も加わった。

報道には、ブルキニを着てプールのそばに座る少女の写真が掲載されている。そういえば、オリンピックなど世界的水泳大会には、イスラム系の女性は見ないような気がする。そのうち、ノルウェー出身のイスラム系女性スイマーが誕生するのではないだろうか。今回の小学校校長先生の柔軟性は、多文化共生社会に必要だと思う。

とはいうものの、ブルカは、そもそも女性は肌を他人に見せてはならないとするイスラーム女性抑圧の象徴でもある。男子には全く問題にならない女子のブルキニについては反論も多い。

Barneskole i Troms håper dette plagget vil gjøre at elevene deltar i svømmeundervisningen
ファティマ・メルニーシー亡くなる
イスラム教女性のブルカ禁止
ノルウェー警察官組合、ヒジャブに猛反発
イラク女性、ノルウェー式ヒジャブの商品化

【写真上:Webのフリー画像より。下:ノルウェーの夏祭りで、お手製のお菓子を売るベールの女性。実際、目元以外すべてすっぽりと覆われているので、男女の区別もつきにくい】
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by bekokuma321 | 2016-07-14 22:53 | ノルウェー

結婚と姓

ジューン・ブライドの言葉どおり、6月はヨーロッパでは結婚シーズンだ。ノルウェーもそうだ。

ノルウェー統計局が、結婚と姓について調査した。

女性の46%は、自分の姓をミドルネームにして、男性の姓を付け加えた。34%は、女性の前の姓から男性の姓にした。女性の20%は自分の姓を変えなかった。一方、男性の93%は、結婚しても姓を変えなかった。

報道によると女性が自分の姓を変える傾向が増えているという。その傾向に、こんな論争が起きている。

NRK(ノルウェー公共放送)のリブ・ネルヴィク(Live Nelvik) は、「この時代におかしいです」と驚きを隠さない。数年前結婚したばかりの彼女は、こう語る。

「私はリブ・ネルヴィクです。ですからリブ・ネルヴィクで通したい」

「私が私であることと名前は結びついています。名前はアイデンテティそのものです。ロマンチックな感情で名前を変えるのはばかばかしいです」

「友人からひどい話を聞きました。彼女は、結婚して、別の姓に変えた。でも離婚して、また元の姓に変えたのです。このような経験をしたら、誰でも、結婚したからといって姓を変えるべきではないと思うはずです。結婚が永遠に続くなんて、何の保証もないのです」

これに異論を持つ女性もいる。調査をしたノルウェー統計局のチューリッド・ノアックだ。

彼女は、「このごろは、60年代や70年代のように、姓の選択は男女平等の証であるという意味を持っていません。2人が同じ姓にすることは、それまでの同棲生活に区切りをつけて、一緒に新しい家族をつくったというシンボルにすぎません。それを最近の若い人は重要視しているのです」

実際、ノルウェーでは、カップルの30%が結婚せずに同棲している。20代では同棲のほうが多い。

日本は、まず、夫婦別姓を選べない。法律が夫婦同姓を強制している珍奇な国だ。女性が日本の議会にあまりにも少ないことをこれほど雄弁に物語る例はない(注)。

で、現実は? 日本女性の9割が男性の姓に変えている。リブ・ネルヴィク流にいえば、日本女性の9割が自分のアイデンテティを捨てている。

Bare bruden bytter navn
Navnebytte viser skifte fra samboerskap

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▲ノルウェーの結婚式

【注:ノルウェーは、1964年、個人氏名法が施行されて、女性は結婚後も元の氏を名乗れるようになり、子どもは父母どちらの苗字でもよくなった。1980年、個人氏名法が改正されて、出生後、半年以内に届け出がない子どもの苗字は母親の苗字となるとされた(明石書店『ノルウェーを変えた髭のノラ』p256~p257)】
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by bekokuma321 | 2016-07-02 01:14 | ノルウェー

頭に血がのぼった

c0166264_2033767.jpg三井マリ子さんの書いた『ノルウェーを変えた髭のノラ--男女平等社会はこうしてできた』(明石書店)を読み終えた。

ノルウェーがどういう歴史を経て男女平等社会となったかを、三井さんがノルウェーに直接足を運んで書いたものだ。

ノルウェーの、さすがの男女平等ぶりに驚いた。と同時に、そこに至るまでさまざまな闘いがあったことを知った。

今や日本でさえ話題になっている「クオータ制」。それを70年代に世界で初めて実行したノルウェー初の女性党首ベリット・オース(写真下)の苦闘ぶりに感動した。

ベリット・オースの著した「支配者が使う五つの手口」も、なるほどと思った。そして、この本の題になった男女同一賃金を求めて髭をつけてアピールする現代のノルウェー女性たち。

ノルウェーについての章の後に最終章として日本の男尊女卑ぶりが書かれている。それを読んで、あまりのひどさに頭に血がのぼった。

「女である、ということだけで、さげすまれる」というこの図式が日本の社会を覆っていることをあらためて知った。三井さんが体験したことの一部を挙げれば以下のようになる。

○職場のお茶くみは、女の仕事のひとつで当然のこととされていた
○学校の生徒名簿は、男女別で男が先にくるのが当たり前だった
○求人広告は男子優先で女性排除が普通にあった
○女性議員のいない男性だらけの日本の議会
○男尊女卑・女性差別主義者は、現在でもそれが心にこびりついている等々

c0166264_11131865.jpg世界有数の男女平等の国ノルウェーにしても、いきなり女の立場が強くなったわけではない。『ノルウェーを変えた髭のノラ』によると、140年ほど前、ノルウェーの作家イプセンは『人形の家』を著した。当時の女性は、選挙権どころか家族の人数のうちにも入れてもらえない、という時代だった。

だが『人形の家』の主人公「主婦ノラ」は、夫と子供を捨てて家を出る。「私は妻であり、母である前に、あなたと同じ人間です」と言って…。当時は、妻がそのような考えを持つことは許されなかった。しかし、ノラは、その許されない社会をものともしない強さを秘めていた。

ノラの末裔のような女性たちは、さらに闘い始める。そして現在のノルウェーの男女平等が誕生する。妻の仕事を優先して離職して主夫をする男性もいる。残業もせず、職場を休んで育児パパになる男性もいる(三井マリ子著『ママは大臣 パパ育児』に詳しい)。

その男性たちの本心を知るために、三井さんはさらに取材して、調査していく。そして発見したことは、ノルウェーの夫たちは「女性の価値観」に共感を寄せ、一緒にその価値観を育んでいるということだ、と三井さんは書く。

現在の日本はどうだろう。あまりにもひどい。

加島 康博(秋田市、さみどりの会


ノルウェーのワーキング・マザー
世界で最も家事をしない男性は日本人
ノルウェー女性参政権100年から考える
今日は魯迅の誕生日
ノラの国の130年後: 書評『ノルウェーを変えた髭のノラ』 (榊原裕美)
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by bekokuma321 | 2016-07-01 20:25 | ノルウェー

6月6日、ノルウェー国会で、法的に女性であるか男性であるか、あるいはその中間の性であるかは、自らの性自認だけで決めることができるとする法律が成立した。これまでは、精神科医の診断や不妊手術などが必要とされていた。

79対13の圧倒的多数。保健省が3月に提出しており、議論が続けられていた。保健相のベント・ホイヤBent Høie(保守党)は、ゲイであることを公表している(注)。

ノルウェーは、デンマーク、アイルランド、マルタに続いてヨーロッパで4番目の“性自認自由国”となる。驚いたのは、アルゼンチン、コロンビア、ネパールはすでに、性別を変更する際、性転換手術など、いかなる身体的な性別変更も不要という法律ができていると報道されている。

このたびの新法は、昨年、ノルウェー教会が教会での同性婚挙式を認める決定をしたが、それに次ぐものだ。ノルウェーは2008年に同性による結婚を認めていたのだが、ノルウェー国教会は、教会での同性婚挙式を認めなかった。その教会総会の決定を不服として、「教会での挙式を認めないなら、私を破門してください」と幹部につきつけるなど激しい運動を展開していた友人の牧師を思い出す。

日本の政界はどうだ。こうした人権問題をおきざりにして、議員の不祥事ばかりに時間を使っている。

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ルーロス(Røros)の教会

Dispatches: Norway’s Transgender Rights Transformation
Norway set to allow gender change without medical intervention
Norway: Historic breakthrough for transgender rights
FTPN(Norwegian Association of Transgenders)
More marriages between same sex couples_Norway

【注:ノルウェー保健大臣ベント・ホイヤは、2014年、「ソチオリンピックに同性婚をしたパートナーをともなって参加する、ロシアの反同性愛主義に抗議の意味を示す」と報道されていた】
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by bekokuma321 | 2016-06-15 21:46 | ノルウェー

c0166264_18395856.jpgノルウェーの憲法記念日は5月17日。晴れ着姿でパレードに参加したノルウェーの友人の写真を見ながら、憲法記念日は子どもたちの祭典だ、とあらためて思った。

憲法記念日は日本でも休日だが、憲法を堅持しようという人たちと、憲法改正をしようとするひとたちの集会の報道に接するぐらいだ。ノルウェーでは、全土で、主に小学校のブラスバンドを先頭に正装した生徒たちが国旗を持って行進する。

だいぶ以前、この日を取材をしたことがある。オスロでは、宮殿バルコニーで待つ国王一家への到着がクライマックス。みんな次々に王様に「こんにちは、王様、元気ですか」とあいさつする。宮殿前の来賓席の最前列には、各国から招待された車いすの子どもたちが陣取っていた。

ノルウェーの憲法は古い。200年前の1814年5月17日制定された。その1か月前の4月11日、憲法制定法案を起草する会議が、オスロ近郊のアイツヴォルで開かれた。

全国60から選ばれた112人が集結。職種は官吏、牧師、教師、軍人、農民、商人。年齢は10代から60代。当然だが女性はいなかったものの、地域、職業、年齢が偏らないように選ばれている。現在、博物館になっているアイツヴォルを見学したとき、説明員からこんなエピソードを聞いた。

「2月初めに、選挙で選ばれた委員を憲法制定会議に参加させるようにと全国に伝令したのですが、4月の会議になっても、北部から代表は来ませんでした。19世紀はじめの、伝令と旅がいかに困難だったかを示しています」

c0166264_18433987.jpg2011年、私はフィンマルク県カラショークに行った。オスロから、トロムス、アルタと飛行機を乗り継いで、ラクセルブ空港に降りて、そこからバスに乗って1時間余りで到着。1日がかりの旅だった。

時代は飛行機などない19世紀初め。船と馬車と徒歩だ。ちゃんとした道路もなかった。しかも、悪天候。南から北までの移動は1カ月の長旅だったらしい。そんな制約のなか、「全土からの代表で」とした心意気。平等を大切にする国民性の一端が表れている。

1か月後の1814年5月17日、会議は、「人は生まれながらに自由であり平等である」で始まるノルウェー憲法を誕生させた。日本は士農工商の厳しい身分制度があった江戸時代だ。

この憲法になんと「選挙権」が登場した。土地を持っている農民にも選挙権が与えられた。これは、19世紀初めとしては世界で最も民主的な出来事の一つと言われる(ただし女性選挙権はずっと後の1913年)。
 
当時、ノルウェーは、スウェーデンに支配された半独立国家。自由と平等をうたった憲法があっても、不平等な地位は歴然だった。憲法制定後も、スウェーデンはノルウェーに圧力をかけ続け、ノルウェー人が憲法記念日を祝うことを禁止した。ところが、1829年、ノルウェー人は、詩人ヘンリク・ヴェルゲランを先頭に官憲に抵抗して祝典を実施。官憲と衝突した。その後、いっそう民族魂、独立魂が燃え上がっていったといわれている。

ノルウェーが独立したのは、1905年。

c0166264_18451014.jpgTen things you might not know about May 17
17 Mai, 2016_NRK
5月17日はノルウェー憲法生誕200年
■スウェーデンからの独立運動(『ノルウェーを変えた髭のノラ』明石書店)
■1814年の憲法制定議会(同上)
■スウェーデン・ノルウェー王国の確執(『北欧史』山川出版社)

【写真:オスロ在住のHelle Cheung提供】
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by bekokuma321 | 2016-05-30 18:54 | ノルウェー