2017年 03月 27日
いじめ対策にノルウェーのオンブッド制度を
昨日の新聞もいじめにあった高校生の話を掲載していた。彼女は小6の時、福島から千葉に避難した。転校先で「福島に帰れ」「被曝(ひばく)者だろ」「放射能がうつる」などといじめられ、別の小学校に再び転校したという。
2月には、福島から愛知県一宮市に転向した中3の男子が自殺した。彼は、JR大阪駅前の商業施設から飛び降りた。「担任によって人生全てを壊された」などという「遺言」のメモが残されていた。
高校教員だった経験から言うと、韓国人など外国人を親に持つ子ども、成績の芳しくない子、運動神経のにぶい子などが、いじめのターゲットにされた。犠牲者は、集団とは異質である人たち、集団のなかの少数派だった。後を絶たないいじめの現実を見たら、原発避難者がいじめにあうことは予測できる。原発避難者は、究極の社会的弱者であり、少数者なのだから。
しかし、対策はとられなかった。事件が報道されてはじめて、教育関係者がカメラに向かって頭を下げる。何度このシーンを見たことか。しかし何度お辞儀したところで、いじめをなくそうという強い意志と具体的対策がなければ、いじめはなくならない。
「原発いじめ」は日本独特だろうが、いじめは世界中にある。ノルウェーも例外ではない。違いは、ノルウェーは、ニ度と同じようないじめ被害が起きないようにするための専門的制度を設けている点だ。
その名は「いじめオンブッド」ノルウェー語でmobbeombud(モボンブード)。
オンブッドとはオンブズマンのことだ。一方の性に偏らないようにとオンブズマンの「マン」をとった。
北欧では、法制度というものは独立した監視機関がなければ十分に守られないものだとされてきた。その機関は、個人(オンブッドが守るべき社会的弱者の側の人)が、誰でもいつもでも簡単にアクセスできて、無料でなければならない。これがオンブッドだ。
たとえば、女性差別撤廃のために男女平等法ができても、差別された女性労働者が差別企業を相手に提訴することは敷居が高い。しかし、男女平等オンブッドに気軽に相談を持ち込める。男女平等オンブッドは女性の話を聞いて、事実を調査の結果、女性差別だと判断したら、差別企業に対して是正勧告をし、マスコミに公表する。社会的弱者に代わって、男女平等オンブッドという「裁判官」と「大臣」を足して2で割ったような強い権限を持つ国家公務員が動くのだ。
ノルウェーの場合、男女平等オンブッド(現在は平等・反差別オンブッド)だけでなく、子どもオンブッド(下の写真)、兵役拒否オンブッドなど5種のオンブッドがいて、それぞれが事務局に何人ものスタッフを擁して働いている。
さて、「いじめオンブッド」に戻る。先日、誕生した「いじめオンブッド」はオスロ市(県でもある)特別公務員で、保育園や学校のいじめを専門に扱うオンブッドだ。国の機関ではない。数年前、ブスケル―県(Buskerud)にノルウェー初の「いじめオンブッド」が誕生したと聞いた。今回は首都オスロだ。
オスロの「いじめオンブッド」第1号に選ばれたのは、小学校の副校長をしていたシェスティン・オ―レン(33。上の写真)。応募者116人の大激戦だったらしい。ちなみに、ノルウェーでは公的機関のポストはことごとく公募制だ。しかも応募者の名前や履歴は基本的にメディアで公表される。日本の”お友だち人事“や天下りとは大違いで、万人に公平に開かれる。
難関を突破したシェスティン・オ―レンは、やる気満々でこう語る。
「いじめオンブッドに選ばれて、とてもうれしいです。私はまず広報に力を入れます。いじめオンブッドとはどんなもので、誰がいつどんなふうにコンタクトをとれるのか、を広く伝えます。それから、生徒会と連絡をとって、いじめオンブッドがどう働けばいいかについて生徒会の考えを聞きます」
原発事故対策には膨大な予算がある。大手ゼネコンにだけ回さずに、もっと人のケアに投資すべきだ。上述のようなノルウェー「いじめオンブッド」にならって、「原発いじめオンブッド」 のような専門の監視機関設置などどうだろうか。
■Kjerstin Owren er Oslos nye mobbeombud
■Hun blir mobbeombud i Oslo
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