2016年 03月 28日
先住民サーミのファイトバック
現在、ノルウェーは保守党と進歩党による右派中道政権。その進歩党の議員が、2月6日の「サーミ国民の日 Sami National Day」に、「サーミが自分たちの国を持っているとは。なら、サーミ議会やサーミ文化は、自分たちのカネでやるべきだ」とツイッターした。
サーミ人は、トナカイ遊牧民として知られれる先住民族で、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアに住んでいる。かつてラップ人と呼ばれていた。
進歩党議員の発言に数多くの反論があった。ノルウェー放送協会NRKはサーミの代表的意見を大きく報道。
「祝日を傷つけ、勢いをそぐものだ」
「異なった民族へのいじめであり嫌がらせである」
「政権を握っている党の国会議員から出た発言だからこそ、深刻である」
「サーミ議会を矮小化し、サーミ語、サーミ文化を弱体化させることになる。20年間、サーミ人について、ノルウェーでは理解が高まり支持も増えてきたが、現政権は、ほんの数年で、その多くを変えてしまった」
「サーミ嫌いの焼き直しがまた表れた。失望したが、特別に驚きはしなかった。進歩党からこのような考えが出たことは新しい動きだ。彼は歴史を理解し、使う言葉の背景をもっと知る必要がある。だが、彼のような考えは、現在では珍しくなっている」
サーミ議会議長アイリ・ケスキターロ(Aili Keskitalo、写真上)はさらに激しい怒りを示した。19世紀にサーミ人の権利のために命を賭けたエルサ・ラウラ・レンベルグ(Elsa Laula Renberg)が、彼女を奮い立たせると言う。こう語った。
「この政権で、私たちはどんどん否定されてきています。予算のつけかたが違ってきています。サーミの優先課題から予算を削減することは、組織的差別です」
「2月6日は、大勢の子どもたち、音楽、ダンス、料理と最高に素晴らしい日でした。私が子どものころは、2月6日はなんにもなかった。でも、サーミ議会が1989年に創設され、変わってきました。サーミの文化、歴史、シンボルが花開いた。サーミコミュニティを強くするために、サーミ国民の日は必要なものです」
19世紀半ばの、サーミ人への残酷かつ徹底した搾取を描いた、「カウトケイノの叛逆」という映画を観たことがある。ノルウェーでも、先住民が言語を奪われ文化を抹殺されかかったのだ。
しかし、サーミ議会議長が尊敬する組織運動家エルサ・ラウラのように運動を続けたサーミ人が、その歴史を変えてきた。
資料によると、1917年2月6日、エルサ・ラウラは、サーミの権利擁護のために、初めてのサーミ大会を組織化し、開会スピーチをした。国境を超えて連帯しようと、力強くよびかけた。
時代は、20世紀初め。サーミであり、しかも女性が、権利の擁護を講演して回る姿は到底理解してもらえず、批判の嵐。なかには、彼女を「キチガイinsane」と書いた新聞もあったそうだ。
しかし、彼女が提唱した2月6日は、ノルウェーでは1992年から、サーミ国民の日とされた。ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアでも共通に祝われる。
ノルウェーは、国会にもサーミ人が選出されているが、別途、カラショークにサーミ議会があり、全国からサーミ議員を選んで、教育、文化、暮らしの課題を審議し決議する。議会の男女比はほぼ半数。
憲法には、「サーミの民族集団がその言語、文化、生活様式を維持・発展させることができるよう諸権利に関する条件を整えることを国家機関の責務とする」(第110条のa)(訳:小内透北大教授)と、明記されている。
他方、日本のアイヌ民族代表は、萱野 茂さんが初めて国会議員を1期つとめたあと、誰も選ばれていない。
■Vi trenger nasjonaldagen
■Sami still battling discrimination
■Elsa Laula Renberg (1877-1931)
■Q&A: Aili Keskitalo on Saami Land Rights in Norway
■Hendelsen mot samisk ungdom er veldig grov
■サーミ 4ヶ国に暮らす民族
■サーメ社会を仕切る女性市長
■サル・バランゲル市の女性市長
■ノルウェー地方選レポート4:北部ノルウェーを支えるサーメ女性たち
■164年間の男性独占の歴史を破り市長に
■映画「カウトケイノの叛逆」
■速報:国連女性差別撤廃委員会が日本審査をうけて総括所見を採択。マイノリティ女性に関する勧告多数あり
【写真上:サーミ議会議長のアイリ・ケスキターロ、下:サーミ議会。どちらもKarasjokにて】
追記:ノルウェー王国大使館によると、Samiの日本語表記は、
「サーミ語の発音では『サーミ』、ノルウェー語では『サーメ』となることから、『サーミ』『サーメ』の両方の表記が存在します」。FEM-NEWSは、これまで「サーメ」を使用していたが、今回「サーミ」とした。サーミ国民の日はノルウェー語でSamenes nasjonaldag