恋の逃避行

老人ホームに住んでいた92歳の女性がいなくなった。

さあ、大変!

ノルウェーのエイズボル市の話だ。エイズボル市はオスロの北に位置し、2万3000人が住む。ノルウェー憲法が制定された地として知られている。

警察も捜査に。しばらくして彼女は、5歳年下のスウェーデンの恋人のところにいたことがわかった。「92歳と87歳の恋の逃避行か」――今度はマスコミがとりあげた。

真相は、92歳の女性が、前から恋人と出かける約束をしていたことを、ホームに伝え忘れただけだった。ふたりは、長年、恋人同士。彼は彼女に会うために、しょっちゅう、スウェーデンから国境を越えてドライブをしてきているのだという。

ホーム長は、余裕の記者会見。

「なんて素敵な話でしょ。90歳を超えても恋人と休暇を楽しめるなんて。何も規則に違反したわけでもないですから。でも、私たちは心配しましたけどね」

ホームの粋なはからいで、92歳の女性は、当初の予定どおり、スウェーデンの恋人と10日間の休暇を楽しんで、またエイズボルのホームに戻ることになった。

こんな柔軟な判断をしたケア・ホーム長は、44歳の女性ヤンカ・ホルスタJanka Holstad。

さて、このヤンカ・ホルスタ、ひょっとすると、この秋に市長になるかもしれないらしい。

というのは、ホルスタは、エイズボルの隣ウーレンサッカルに住んでいるのだが、労働党員として地方政治にかかわってきた。4年前の統一地方選では、労働党市議候補者になった。市議には当選しなかった。だが、保健や介護の専門家として、市議会の常任委員会「保健・介護ケア委員会」の委員に選ばれ、市の健康や高齢者サービスの政策決定の場にいる。

ノルウェーの介護職員は公務員だ。彼女のような公務員が議員になっていることは珍しくない。いくつかの大都市を除き、地方議員は無給のボランティアだから、介護職員であろうと、保育園教員であろうと、日中は普通の仕事をたんたんとこなす。そして議会がある日は、職場を休んで議会に出る。夜に議会が開かれることも多い。

ノルウェーには市長選挙はない。4年に1度の市議会議員選挙で、各政党リストのトップに名前を登載された人が、市長候補となる。

選挙は、日本の選挙とは違って比例代表制選挙だ。個人の候補者が日本のように声をからして朝から晩まで動きまわるなんてことはない。政策を戸別訪問やネットで知らせ、政党が集まっての討論会で政策をぶつけあう。有権者は支持する政党のリストを投票箱に入れる。政党の得票率に比例して議員数が決まるから、大きい政党はそれなりに、小さい政党もそれなりに議員を出すことができる。候補者の4割から5割が女性だから、ほぼ4割は女性議員となる。

選挙が終わると、議会で連立を組んで与党となった政党から市長が選ばれる。だいたい最大政党のトップの人が市長になる。市議は無給だが、市長はフルタイムの仕事で有給だ。

ケア・ホーム長のヤンカ・ホルスタに話をもどす。

昨年11月、労働党候補者選定委員会で、ホルスタは候補者リストのトップに選ばれた。今年9月の統一地方選で、ウーレンサッカル市の労働党は、彼女が市長になると決めて闘うと決めたのだ。すでに、市のホームページの「市の政治」サイトを見ると、候補者リストが載っていて、労働党リストの一番上に彼女の名前が見える。

現市長は進歩党だが、進歩党の人気は、世論調査では前ほど高くないため、彼女の属する労働党が最大政党となる可能性がある。

92歳と87歳の”恋の逃避行”から、話が飛んでしまったが、私には”恋の逃避行”と同じように、ノルウェーの政治もおもしろい。

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▲ノルウェーの市議会。女性議員が半数、政党も5~6、と一般社会を反映している(ヘードマルク県オーモット市)

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by bekokuma321 | 2015-07-05 13:56 | ノルウェー