2014年 11月 10日
ベリット・オース「支配者が使う五つの手口」
ベリット・オースは、「クオータ制」を世界で初めて実行したノルウェーの政治家だ。
1970年代、ベリット・オースは、民主社会党というミニ政党の党首に就任し、「党内の決定の場は女性と男性50%ずつにすること」と決定した。1975年、民主社会党は左派社会党に吸収され、ベリット・オースは、その左派社会党の初代党首となった。左派社会党は、「すべての決定の場は、どちらかの性が40%を下回らない」と決定した。
そのベリット・オースの「支配者が使う五つの手口」が、最近、息を吹き返している。
昨日、「支配者が使う五つの手口」を載せたサイトは、ノルウェーのコンサルティング会社「労働環境センター」がつくったものらしい。働く場の人間関係をよくして、職場環境をよくしようという目的の会社で、対象は、雇用主から被雇用者まで幅広い。
「支配者が使う五つの手口」は、ベリット・オースが、60年代ごろの自らの屈辱的体験を、心理学で分析し、男性が女性を抑圧するときに使う方法を、5つにまとめたものだ。
女たちには勇気を奮い立たせ、男性には日ごろの女性蔑視的言動を気づかせる、すばらしい教材だ。
ベリット・オースがなぜクオータ制にこだわったかを教えてくれる貴重な小話だ、と私は読んだ。
70年代から、北欧諸国を中心に世界に広まった。アイスランドでは、ベリット・オースを招いて講演があり、その講演後、「女性党」が誕生したと言われている。1995年の北京国連女性会議に参加した私は、アジアの女性たちも、これを読んでいると知った。
「これを読めば、クオータ制がなぜ要るか、わかる」――クオータ制を広めようとしていた私は、90年代に英語版から和訳を完成した。しかし出版はかなわなかった。
2003年、ベリット・オースは、来日して日本のあちこちで、「支配者が使う五つの手口」を講演した。その時、日本人にわかりにくい部分をどう言いかえるかについて私と長い時間話し合った。こうして、新たに「支配者が使う五つの手口」が完成した。しかし、またも単独での出版は難しかった。
やっと2010年、日本で読めるようになった。『ノルウェーを変えた髭のノラ』(三井マリ子、明石書店)に、「支配者が使う五つの手口」として、全文を挿入できたのだ。全15ページ。
ベリット・オースも日本での刊行をたいそう喜んでくれた。中国語に堪能な息子に少し訳してもらった、本に掲載した写真(右)の表情が気にいった、と手紙をくれた。
日本のすべての働く女性、そして、すべての雇用主、政治家の必読文献だ。
【写真:上はデンマークの自治体が作成した冊子「支配者が使う五つの手口」の表紙。下はクオータ制の母ベリット・オース。どちらも『ノルウェーを変えた髭のノラ』(三井マリ子、明石書店)より転載】
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