ノラは、私の生き方を変えた

1人の女性がこう言った。

「今日、ここで『人形の家』のノラに出会うとは! 衝撃です。『人形の家』は高校生の頃の愛読書なのです。何回も繰り返し読み、気づいたら、いつも私の傍にはノラがいたという感じでした。私に自分と言うものを大切にしなくては、と教えてくれた1冊なのです」

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7月末、岡谷市で行われた「北欧からの風:三井マリ子のノルウェー取材より」という映像つき講演が終わった後だった。主催は長野県婦人教育推進協議会。やや興奮気味に、半世紀ほど前(おそらく)の青春の思い出を披露してくれたのは、その組織を束ねる横川靖子会長。

ノルウェーの文豪イプセンが戯曲『人形の家』を世に出したのは、130年前だった。

弁護士の夫は、妻ノラを「うちのヒバリ」と呼んで可愛がった。しかしノラには隠し事があった。病気だった夫を救うため、借用証書にニセのサインをしてお金を工面した。妻は、夫の許可なしには借金をする権利すらなかった時代のことだ

偽署を知った夫は、ノラをののしり、「おれがお前の犯罪行為に加担していたと世間から疑われるんだ」と激高する。

夫の愛は、「寄る辺ないちっちゃな赤ちゃん」への愛であったと、ノラは悟る。そして「私は、何よりもまず人間です。あなたと同じくらいに」と言い残して家を出てゆく。夫と子どもを捨てて。

北欧といえども、『人形の家』がすんなり受け入れられる時代ではなかった。反家庭、反社会的書物と非難されたという。

イプセンが作品に込めた問題意識は、今日でもあまりうすれていない。今夏、ロンドンでは3回、上演されるらしい。130年前、イプセンが問いかけた女性をとりまく社会状況が、時代を超え、国を超え、いまだ普遍性を持っているからだろう。

私は、岡谷市での講演の中で、ノルウェーの変革には、文学の力があったと紹介した。その一例にイプセンの『人形の家』をあげた。それが、「自分というものを大切にしなくては、と教えてくれた1冊」だったという。うれしい偶然だった。


◆イプセンを上演する会
http://www.ibsenkai.com/
◆Why A Doll's House by Henrik Ibsen is more relevant than ever
http://www.theguardian.com/stage/2013/aug/10/dolls-house-henrik-ibsen-relevant
◆北欧からの風を吹かせて日本の議会を変えよう
http://frihet.exblog.jp/20557144/
◆7月27日、岡谷市で「北欧の風」
http://frihet.exblog.jp/20454166/
『ノルウェーを変えた髭のノラ:男女平等社会はこうしてできた』(明石書店)
◆ノラの国の130年後: 書評『ノルウェーを変えた髭のノラ』
http://frihet.exblog.jp/18236159/

【写真はヘンリック・イプセン。オスロにあるイプセン・ミュージアムで撮影】
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by bekokuma321 | 2013-08-12 17:18 | ノルウェー