●連載● クオータ制は平等社会への一里塚 第5回

c0166264_21354943.jpg●連載● クオータ制は平等社会への一里塚 第5回

クオータ制が生んだ名物教授

三井マリ子(全国フェミニスト議員連盟国際部)

昨夜、私はノルウェー空港に到着した。友人ハンネ=マッテ・ナールッドの葬儀に参列するためだ。享年54歳。癌だった。

ハンネ=マッテは、オスロ大学の政治学の名物教授。入念な調査に基づいた事実をわかりやすい表現で伝え、メディアの人気者だった。彼女の死を伝える新聞には、「最も頻繁にコメントを引用される教授の1人」と書かれている。

ある日、彼女の兄のオーレは私に「ノルウェーのクオータ制がなければ、ハンネ=マッテがこんなに早く教授になれなかった。でも、彼女はクオータ制で採用されたことを快く思ってないんだよ」と言った。2001年秋だった。

ノルウェーのクオータ制については、本連載2回目で触れた。しかし象牙の塔でのそれについては書けなかったので、この機会に紹介する。

長年、ノルウェー政府は、社会のあらゆる分野に男女平等を浸透させるためさまざまな政策を実行してきた。大学も例外ではない。男性に偏っていた教授会を正すためにノルウェー政府は女性を増やす政策をとるよう大学に奨励した。

まず、大学側は、1990年代末、未来の教授の卵である博士課程に女性を増やすクオータ制を採用。その後、クオータ制は大学教授や準教授のポストにも及んだ。政府はクオータ制のための特別予算を組み、オスロ大学には3人の女性教授の特別枠を設けた。その枠にはいったのがハンネ=マッテだった。

しかし、大学教授へのクオータ制導入は賛否両論。ハンネ=マッテと同様、女性教授たちの多くの意見は「大学のポストは能力主義であるべきです。クオータ制には賛成しません」だった。

現在、大学教授にクオータ制は実行されていない。横やりを入れたのはEUだった。2000年、オスロ大学の同僚が、女性教授の特別採用は性による平等条項を定めたEU指令に違反だとEU法廷に訴えたのだ。2003年、EU法廷が判決を下しノルウェー政府側が負けた。以来、ノルウェーでは、女性教授を増やすクオータ制が禁止された。

ノルウェーはEU加盟を国民投票で2度も拒否した国だ。そのノルウェーが、EUの決定に従わなければならないとは、おかしな話のようにみえる。しかし、ノルウェーなどEU非加盟国は欧州自由貿易連合EFTAにはいっていて、そこがサービス・人・資本の自由移動をEU並みに保障している、という理屈のようだ。

ノルウェーのEU加盟反対を主導したのは、クオータで政治的な力を付けた女性たちだった。「EUに入るとこれまで闘いとってきた福祉や平等政策がEU基準に引き下げられる」と心配して、加盟を思いとどまらせたのだ。実際、この主張は当たっている。

クオータが、ハンネ=マッテを教授というポストに就かせたのは、事実だ。でも、それを言われることが、文句なしに優秀なハンネ=マッテの自尊心を傷つけたのも、これまた事実だ。まさしくクオータは、それなしで女性登用が進むようになるまでの暫定的制度なのである。

(2012年7月26日ノルウェーにて)

【全国フェミニスト議員連盟ニュースレターAFER 74号、2012年夏 より転載】

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by bekokuma321 | 2012-08-31 21:29 | ノルウェー