反戦とバックラッシュ裁判

戦争といえば誰もがイラクや北朝鮮を思い浮かべますが、戦場は、私たちの足元にもあるのです。

今日、私は、みなさんと、女性への宣戦布告のない戦争について、考えてみたいと思います。つまり、憲法9条を24条の光をあててみてみたいのです。

戦争には、侵略、殺戮、暴行、強盗、強姦、強制がつきものです。これらは、他を圧倒的に支配している状況の中で起こります。支配する関係ではなく共存関係、主従関係ではなく対等な関係をつくりあげない限り、戦争を免れることは不可能なのです。

それでは、男性と女性の関係を考えてみましょう。女性を抑圧し、強制し、暴行し、強姦する男性はあとを絶ちません。ここには、一般的に考えている戦争と同じ支配と服従の構造、対立構造があります。つまり男性と女性は戦争状態なのです。しかし、支配されていると思わない人、強制されていると感じない人には、戦争状態ではなく平和だと映ることもあるでしょう。

ですから、支配する側の人々にとっての平和ということならば、支配されていると感じない人、戦争状態だと感じない人をできるだけ多く作ることがきわめて重要です。

戦後の男女平等の憲法、教育基本法のおかげで、「他人に指図されずに自分で自分の人生を決めたい」と考える女性たちが増えてきました。それには、経済的自立が不可欠です。しかし、それが、気に入らない勢力があります。

政府が男女共同参画社会基本法をつくり、地方自治体が男女共同参画条例をつくって、行政としても女性が男性と対等に生きられるしくみを手がけようとしている矢先、その勢力は、議会を中心にその牙をむき出しにしてきました。

私は、豊中市が作った男女平等を進めるセンターの館長をしていました。豊中市は人口40万人の大阪の典型的ベッドタウンで、市民運動が盛んなところです。2000年、全国公募で60人以上の候補者から選ばれた私が、3年7ヶ月後の2004年3月に首になりました。

この私の首切りの背後に、男女平等を忌み嫌う「右翼勢力」の存在がありました。伝統的な性別役割を固持し、社会的文化的につくり出された男女の特性を強調し、女性の地位向上、男女平等の推進を一網打尽に始末しようとする動きです。

衆参両院から地方議会まで、男女平等つぶしに執念を燃やす右派議員からの継続的な攻撃。これはほんとにすごい。世界でバックラッシュ(backlash 反動)と呼ばれる現象です。

多くの議会を男女平等攻撃勢力が支配するには、広範囲なオルグ活動、継続的なキャンペーン活動がなければ不可能です。全国にはりめぐらされた組織力とそれを支える資金も必要です。それに呼応する自治体の首長や行政幹部もいなければなりません。多くの議員に賛成してもらうためには、その自治体の住人が数多く参加していなくてはなりません。

これまでの調査によれば、その背後には、改憲を最終目的とする日本最大の右派集団と称される「日本会議」と、従軍慰安婦などが記述されている教科書は〝偏向〝だと攻撃する「新しい歴史教科書をつくる会」がいると考えられます。NHK番組に圧力をかけたとされる安部晋三、中川昭一両議員もお仲間です。





豊中市におけるバックラッシュ

豊中市は、2002年、懸案の男女共同参画推進条例制定にとりかかりました。この議会審議の過程で、自民党や民主系の新政とよなかの一部男性議員からいわゆるバックラッシュ発言が相次ぎました。

その一人、北川悟司議員は、宇部市で制定された条例をモデルに引き、旧来の男らしさ・女らしさにこだわり、専業主婦の役割をことさら高く評価するよう主張しました。

2002年8月2日の市議会です。北川議員は、長い質問の後、こう締めました。

「最後に東京女子大学の林道義教授の示唆に満ちた論文の一部を紹介し質問を終りたいと思います」

そして、『男女平等に隠された革命戦略  家族・道徳解体思想の背後に蠢くもの』という彼の論文を読み上げました。

「ジェンダーフリー運動は、・・・日本中が文化大革命の様相を呈しているのである。家族を破壊し、日本を腐食させる彼らの隠された革命戦略を暴き警告を発したい」
 といったとんでもない妄言です。

また、北川議員は「すてっぷ」についてもたびたび質問しました。具体的には、受付窓口対応、情報ライブラリーの蔵書内容・選定者などを槍玉にあげました。

2002年12月の議会では、こう述べています。
「すてっぷライブラリーの蔵書の中にある多数のジェンダーフリー関連の図書は、市民に誤解を生む原因になります。一方的な思想を植えつけるような図書は、すてっぷをはじめ学校図書館などから即刻廃棄すべきである」

一方、すてっぷには、利用者のような風情の人物が何回も来て、「ここの主は誰だ」「館長はなんでいないのか」(私は週22.5時間の非常勤)などとすごみ、窓口業務を妨害しました。

頻繁に圧力をかけてきた一人は、北川議員が理事長を務める「教育再生地方議員百人と市民の会」の事務局をしている男性でした。

この「教育再生地方議員百人と市民の会」は、「日本会議」「新しい歴史教科書をつくる会」と密接なつながりを持つ組織です。教育基本法の改正を目標にしています。吹田市に事務局を置き、西村真悟、塚本三郎、亀井郁夫などの現・元国会議員、宇部市議や東京都議に加え、藤岡信勝、高橋史朗、などが参加しています。

この団体のリーダーである北川議員は、男女共同参画以前は、教科書採択問題や国旗国歌斉唱について議会で執拗に質問をし、節目節目で「産経新聞」が彼の発言を持ち上げています。

ちなみに北川議員は与党で、市長に非常に近い存在です。市長自身も、雑誌『軍事民論』(五味川純平編集)によれば大阪府議時代、勝共連合豊中支部長だったそうです。豊中市は進歩的な自治体というイメージがありましたが、それは2代前までの市長の時までだったといわれています。

次の攻撃は、講演会での妨害です。私の講演終了後の質問時間に、「一市民」と称する女性2人が、「あなたは結婚しているか」「子どもを育てたことがあるか」「子育てと介護は私には人生の喜びだ。どう思うか」「宇部市条例に賛成か」「自衛隊への女性進出をどう思うか」などと発言しました。私はすべてに回答しましたが、会終了後も事務室までついてきて「もっと質問がある」などと繰り返しました。別の来客があった私は、それを伝えて彼女に帰っていただきました。

ところが、この日のことが、チラシに次のように捻じ曲げられて書かれ、市役所前で撒かれました。

「すてっぷの三井マリ子さんは、男女共同参画社会についての市民からの質問に答えない! 逃げている!」

そのチラシには、ジェンダーフリーの実態は男性と女性の区別がつかなくなった社会だとか、フリーセックスを奨励して性秩序を破壊するものだ、といった宣伝が書かれていました。チラシは「男女共同参画社会を考える豊中市民の会」という団体名で作られていました

さて、豊中市は、バックラッシュ攻撃による混乱をさけようと、2003年3月に制定を予定していた懸案の男女共同参画推進条例案を上程することをいったん取り下げました。
 そのころ、窓口には、「館長に会いたい」「いつも館長は不在か」などという男性がやってきたり、トイレの色が男女で同じだ、とか、前々からすてっぷに不満だった、などと職員にからんだりすることもありました。「三井の過去を知ってるか」というような電話もありました。

2003年秋、いよいよ条例制定が間近になると、私への個人攻撃はさらに激しくなりました。とくに悪質だったのは、「すてっぷの館長は、講演会で『専業主婦は知能指数が低い人がすることで、専業主婦しかやる能力がないからだ』と言っている」という根も葉もない噂が広まったことです。

北川議員主催の会で、みんなの前で言ったということでした。市議会の副議長が、その噂を市の幹部に流しており、市の幹部が何人もそのうわさを聞いていました。

さらにひどいことに、私への根も葉もない悪質な誹謗中傷に、市の側はなんら対処せず放置していたことがわかりました。利用してのではとさえ考えられます。それは、市が私の首斬りを画策していたからです。

そして、このようなバックラッシュに関わる数々の事件と前後して、市からすてっぷの組織強化案が出されました。その中身は、「非常勤の館長を廃止し、事務局長と兼務の常勤館長とする」ものでした。市は、臨時に理事会を開き、その議案を出し、通してしまいました。私は、新しい常勤館長の採用選考試験を受けたいと申し入れ、試験に臨みました。しかし、不合格でした。

実は、市は03年秋頃から極秘に後任館長の人選を進め、候補者リストを作成し、一人ひとり打診をしては断られていました。そして、私が受けた採用試験らしきものの2ヶ月前には、すでに次期館長を決めていました。採用試験は茶番劇だったのです。それをはっきり知ったのは、採用試験が終わってからでした。こうして、市は、昨年3月、非常勤館長職から私を雇止めし、採用拒否をしました。

私は、首斬り後、10ヶ月経て、昨年暮、豊中市相手に損害賠償請求の民事訴訟を起こしました。合理的理由なく採用を拒否したことの違法性を追及し、非常勤の使い捨てをするな、という判例を勝ち取ろうという裁判です。

日本では非正規雇用は使い捨てし放題ですが、EUではもう許されないことになっているのです。この裁判は、労働問題専門の女性弁護士が注目してくださって、強力な弁護団をボランティアで結成してくださいました。提訴前に常任弁護士として7人の女性の弁護士が参加し、現在総勢38人です。日本の法律を変える意気込みで取り組んでいます。

手遅れになる前に

以上、バックラッシュの陰湿な攻撃の実態と、多くの女性が不安定で不平等な労働環境に置かれている実情を、ご理解いただけたと思います。

自分のごく身近にある平和を乱す勢力に対して闘わない限り、本当の平和を作りあげることはできません。憲法24条というかけがえのない法を守るために、私はがんばります。ご一緒にがんばりましょう。


【『ピースウィーク in くにたち』での講演草稿。2005年4月17日(日)国立公民館。主宰(平和を願う市民の会)】
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by bekokuma321 | 2001-06-19 15:49 | その他