ノルウェー地方選レポート3:女性参政権100周年から子ども参政権へ

今回(2011年)の地方選挙の結果、躍進したのは保守党と労働党で、後退したのは左派社会党と進歩党だった。

投票率は64.5%。2000年代に行われた地方選のなかでは最も高い投票率となった。女性の議員は4115人となり全議員の38%、女性市長は96人で全市長の22%を占めた。

2011年9月の投票日直後、オスロ大学の政治学者ハンネ=マッテ・ナールッド教授(Hanne Marthe Narud)に、結果を分析してもらった。

■ 世界を震撼させた7月の襲撃事件の影響は?
「それほど大きな影響は見えませんね。ただ、7月の事件の前、労働党の支持率はもっと低かった。政権を担っている党は地方選で票を伸ばすのは難しいのですが、労働党が伸びたのは、事件後、民主主義の大切さや選挙の重要性について議論が盛り上がったせいでしょう。投票所に足を運んだ若者が増えたのも、あの事件で政治的関心が高まったからです。その結果、投票率がやや上がりました」

■ ノルウェー女性が地方議会選挙の参政権を得て100年ですが、女性の進出は?
「今回は、女性議員数にあまり変動はなかったのですが、その増加傾向は変わりません。もちろん、ジェンダーはひきつづき課題のひとつです。ジェンダーの問題は、各政党の候補者リストを決めるときに重要なポイントになります。最近は、リストのトップに女性が来ることが是か非か、言いかえれば、市長ポストを女性がどの程度握れるかどうかが焦点です」

ノルウェーの女性の選挙権は、1910年の地方議会選挙から始まった。1913年には国会の参政権も獲得し、独立国としては世界で最も早く女性参政権を誕生させた国となった。ノルウェー人の誇りだ。

そこで、ノルウェー自治・地方開発省は、2007年の地方選挙後、「女性参政権100周年記念プロジェクト――地方政治における女性をショーウインドーに」という事業を企画した。2011年の地方選を射程にいれた4年間の事業であり、2000万クローネの公的支援を用意した。リーヴ・シグネ・ナーヴァルセーテ(Liv Signe Navarsete)自治・地方開発大臣自ら陣頭指揮をとった。政党の選挙候補者リストに女性を増やすこと、リストの1番にくる女性を増やすこと、を目論んだ全国各地の運動体を支援するというものだった。

2010年夏、自治・地方開発大臣は、このテーマに関心を持つ人たちを全国から劇作家イプセンの故郷シーエン(Skien)に集め、こうはっぱをかけた。

「女性が参政権を得てから100年もたつというのに、今、地方議会の女性議員はわずか37%です。37%に増やすために100年もの長い歳月がかかりました。全国430市のうちの401市ではいまだに、男性議員が多数を占めています。女性議員を増やすことに焦点をあてた国家的プロジェクトは、意味があるのです。」

女性参政権誕生の背景には、ギーナ・クローグ(Gina Krog 1847-1916)という女性運動家がいた。「女性は、男性と完全に同一の参政権を持たなければならない」という信念の持ち主だった。「女性の選挙権獲得協会」を創設し、全国を遊説して回り、生涯を女性参政権獲得にささげた。「女性が投票などしたら、家庭が崩壊する」と言う国会議員が多かった時代だ。

「女性参政権100周年記念プロジェクト」は、当然、ギーナ・クローグの業績にスポットをあてた。子どもオンブッドである心理学者ライダル・イェルマン(Reidar Hjermann)は、投票日直前、オスロの事務所でこう言った。

「女性と男性では経験が違う。女性は、男性には見えない政治課題がよく見えます。同じように、子どもは大人と経験が違います。学校教育、交通機関、スポーツや音楽、環境問題などへの関心は、大人顔負けです。でも、政治家は選挙権がない子どもの意見を聞いたり子どもとまじめに話し合おうとはしない。その子に選挙権があるなら、会って意見を聞くでしょうね」

子どもオンブッドは、子ども(18歳未満)に関するさまざまな法律が遵守されているかどうかを、子どもの立場に立って監視する。子ども・平等・社会省の管轄下にあるものの、政府や国会とは独立した機関で、子どもの権利擁護のためなら政府をも容赦なく批判する。

この数年間、オンブッドは、選挙権を18歳から16歳に下げようと運動をしてきた。しかし反対意見も多い。そんなある日、ギーナ・クローグの演説に励まされたという。

「女性に参政権なんて笑止千万だった時代でした。ギーナ・クローグは、当時の偏見をこう紹介しています。『女性に参政権は時期尚早だ。なぜなら女性はまだ成熟していない。女性は他人の意見に動かされやすい。結婚した女性は夫と同じ候補者を選ぶに決まっている』。ここの女性を子どもに変えてみてください。今、子ども参政権に疑問を抱く人たちの意見とまったく同じです」

自治・地方開発大臣は、16歳選挙権に懐疑的だった。オンブッドは子どもたちを連れて陳情に行った。子どもたちの熱心な意見を聞いた大臣は、「いくつかの市で試験的にやってみよう」と言った。こうして、2011年秋、全国から選ばれた20市で、16、17歳の子どもたちが選挙権を行使することになった。

投票日の前、ハーマル市(Hamar)の高校生に取材した。

スクールカウンシル(生徒議会)委員長のべネデクテは、労働党の市議会議員候補で青年部員だ。党員として125クローネ、党青年部員として10クローネの年会費を払う。選挙が近づいた先週から、午後6時から8時頃まで、たくさんの家庭を戸別訪問して政策を訴えて歩いている。「政治活動は楽しくてたまらない」という。でも16歳への引き下げ案には、態度未定だ。

イングリッドとオーレは「高校生民主主義エージェント」。子どもオンブッド傘下の全国組織で、16、17歳の生徒に投票の方法を教えるのが役目だ。8月は毎土曜日の3時間、人通りの多い場所にスタンドを設置し、ビラまきをしながら市民の質問に答えてきた。今週は毎日、昼休みをねらって学校のカフェテリアでビラをまく。16、17歳の世代には、「あなたには投票の権利があります。その権利を使わないと損ですよ」と説明する。

彼・彼女らの発言を聞きながら、私も思った。「16、17歳に参政権は時期尚早」という意見は100年前の反女性参政権論者と似ているかもしれない、と。


(出典:ノルウェー王国大使館 三井マリ子連載・ノルウェー地方選挙レポート2011 【3】 23/02/2012)
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by bekokuma321 | 2012-04-29 11:29 | ノルウェー