2011年 09月 02日
“取締役クオータ制”、ついにEUに
EU委員会男女平等委員のヴィヴィアン・レディングが、「上場企業が2015年までに女性役員の割合を30%、2020年までに40%に上げない場合、クオータ制法案を導入する」と、宣言したのだ。それが、日本でも大きく報道された。
EUの上場企業の女性役員比率は12%、CEOは3%だそうだから、加盟諸国の企業主のお尻に火がついた感じだ。
“取締役クオータ制”を世界に先駆けて導入したのは、ご存じノルウェーだ。
EUは、数年前から、ノルウェーの同法を検討してきた。2008年、EU議会は、わずか2票差で通せなかったものの、「男女平等推進決議案」を出した。
それには、「ノルウェー政府の取締役クオータ制を歓迎し、EU加盟国はノルウェーモデルに倣うこと」とあった。
今回のEUヴィヴィアン・レディング発言は、「ちゃんと女性を増やさないと法案導入するぞ」との“脅し”手法までノルウェーの真似をした。いいことはどんどん真似てほしい(日本も!)。
さて、EUが真似たノルウェーの政策とはどういうものだろうか。
ノルウェーは、会社法を改正して、「取締役会に一方の性が少なくとも40%はいなければならない」としたのである。2003年、世界初のことだった。愉快なことに、この革命的な法案を出したのは、保守党(日本の自民党にあたる)の男性、ガブリエルセン貿易通商大臣だった(写真上)。
とはいえ、ノルウェーでも、ここに至る道は平たんではなかった。
ノルウェーは、70年代から政党がクオータ制をとってきた。国会や地方議会選挙の候補者に女性を増やし、結果として女性議員増をなしとげた。最初に採用したのは、民主社会党(現・左派社会党に変わった党)の党首ベリット・オース(写真右)だった。
その後、80年代には、「男女平等法」(1978年)を改正して、公的な委員会や審議会などの構成員の40%を一方の性にするというクオータ制を規定した。一方、男性には「パパ・クオータ」を課して、家事育児に専念させる時間を増やした。こうして現在、国会も地方も約40%が女性議員、内閣の半分が女性大臣となtった。
そして、2000年代には、“男の牙城“だった経済界に手をつけた。それが世界初の「取締役クオータ制」だった。
この背景に、女性の権利と男女平等を進める「男女平等法」(1978年)の存在を忘れてはならない。ノルウェーの男女平等法は、宗教と家庭内を除く、社会のあらゆる分野に適用される。守らせるために、推進機関「オンブッド(オンブズマンのこと)」まで規定した。大臣と検察官を足して2で割ったような強い権限をもつ。日本の「男女共同参画社会基本法」を知る私には、とても同じ目的の法律とは思えない。
こうして、4年生大学卒業生の60%以上が女性となった。全卒業生のうち、法学部50%、MBA40%、医学部60%が女性だ。
ノルウェー国会で、取締役クオータ制が可決されたころ、ハルヴォシェン教育大臣(日本の文部科学大臣にあたる)は、「これだけ優秀な女性が数多く出ているのですから、経済界トップに女性が少ないことはおかしい」と、私に言った(写真左)。
見過ごせないのは、80年代から大学や研究教育機関で3種類のクオータ制がとられてきたことだ(ベリット・オース)。賛否両論あったが、大学独自に進めてきた。
①ラディカル・クオータ制(成績が同等でなくても、少ない性の人物を優遇して入学、採用、登用する)
②モデレート・クオータ制(成績が同等の場合、少ない性の人物を優遇して入学、採用、登用する)
③特別・クオータ制(入学、採用、登用の際、一方の性の人数を前もって指定席として決めておく)
こうした実行を後押ししてきたのも「男女平等法」だ。ノルウェーの男女平等法は、積極的特別策(暫定的特別措置ともいう。アファーマティブアクションのこと)を進める法律と言ってもいい。
下は、積極的特別策のひとつクオータ制を法的に認知している条項だ。FEM-NEWS仮訳。
「男女平等法」
1条(目的)
この法は、男女平等を推進し、かつ、特に女性の地位を向上させる目的を持つ
3条 (総則)
女性と男性との異なる取り扱いは、直接的にも間接的にも許されない。直接的に異なる取り扱いとは、性が異なることを理由として女性と男性とを差別する措置をいう。(略)。間接的に異なる取り扱いとは、一見、性に中立的に見えるが、一方の性がもう一方の性よりも不利になるように事実上作用する取扱いをいう。(略)。
3条a (一方の性を優遇する積極措置)
この法の目的に従って男女平等を促進する異なった措置をとることは、3条の規定に反しない。妊娠、出産、授乳に関して女性を保護する目的を有する方策に関する特別な権利や規則についても同じである。この法律の推進のために、教育分や子育てに関して男性を優遇する積極措置に関する条項などを含め、どのような異なった取扱いが認められるかについては、他の規約で決めることができる。
ノルウェーの場合、この「男女平等法」を進めるため、大学では独自に行動計画を策定し、二重に追い打ちをかけている。男女平等社会にしようという並々ならぬ覚悟を感じさせる。たとえばオスロ大学は、「2012年まで、女性の正規のアカデミック分野雇用を40%まで増やす。女性のパートタイムの準教授、助教授を20%に増やす」ことが目標だ。
■http://www.regjeringen.no/en/doc/Laws/Acts/The-Act-relating-to-Gender-Equality-the-.html?id=454568
■http://kifinfo.no/c42788/seksjon.html?tid=43022
■http://www.20-first.com/227-0-norways-40-quota.html
■http://www.boardagender.org/eu-observer-lack-of-women-in-top-jobs-to-cause-problems-for-eu-economy/
■http://www.gender.no/Open_dialogue/Gender_blog/3242
■http://www.uio.no/english/for-employees/employment/gender-equality/action-plan-gender-equality-2010-2012.pdf
■ 現地ルポ 「ノルウェー民間企業の取締役は4割が女性!!」の背景を見る世界現地ルポ 「ノルウェー民間企業の取締役は4割が女性!!」の背景を見る
参考文献
「経済界に女性重役ラッシュ」(『ノルウェーを変えた髭のノラーー男女平等社会はこうしてできた』(明石書店、2010)
「クオータ制は男女平等社会へのエンジン」(同著)
『男女平等オンブッド』(男女平等オンブッド編集委員会)
Photoes by Mariko Mitsui, FEM-NEWS
More
●Work, Welfare & Economy > Legislation > National Legislation http://www.gender.no/Topics/12/sub_topics?path=5/964
●Norway, the land for fathers
http://www.equalitylaw.co.uk/news/1414/66/Norway-the-land-for-fathers/
●Modern daddy: Norway's progressive policy on paternity leave
http://www.ilo.org/global/publications/magazines-and-journals/world-of-work-magazine/articles/WCMS_081359/lang--en/index.htm
●the Working Environment Act and the Holidays Act
http://www.arbeidstilsynet.no/binfil/download2.php?tid=97753
●the Working Environment Act
http://www.arbeidstilsynet.no/binfil/download2.php?tid=92156