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映画「カウトケイノの叛逆」

映画「カウトケイノの叛逆」_c0166264_17414837.jpgノルウェー・サーメ人の映画「カウトケイノの叛逆」を観た。

今から150年ほど前、スカンジナビア半島の北端に暮らしていたサーメ人が権力に抵抗し、処刑された実話を基にしている。

主人公は、サーメ女性エレン。時は19世紀半ば。何世紀もの間、厳しい自然とトナカイと共存しながら暮らしてきたカウトケイノの地にも時代の波が押し寄せてきた。酒場で酒を飲む習慣を身につけたサーメの男たちは、酒場にたむろする。つけで酒を飲み、不当な利子をつけられ借金で首が回らなくなる。長く寒い冬、果てしない力仕事、貧困、アルコール中毒、酒にからんだ暴力…。

エレンは、近隣の土地の教会で、酒の害毒について話す牧師の説教を聞く。牧師の話に感銘したエレンは、村人たちにその説教を説いて回る。

しだいに村人たちはエレンの話に共感を覚え、酒場に近寄らなくなる。酒場には閑古鳥が鳴く。酒場の主人は有力者たちと手を組んで画策し事態の収拾にかかる。事態の収拾とは? 酒の害を説いて回っているエレンに説教をやめさせることだ。

酒場の主人は、それまでカウトケイノにはなかった教会を設立し、自分たちの声を代弁させる牧師を連れてくる。

新人牧師は、今やどんどん参加者が増えているエレンの集まりの禁止にかかる。集まりに突如侵入する牧師。「出て行ってください」と言うエレンの母親。牧師は母親を殴る。暴力をふるった牧師に不満を述べたエレンの夫やその仲間たちは、逆に、牧師を侮辱したとして連行され、トロムソの刑務所に監禁される。

夫がいなくなり、千頭にのぼるトナカイの群れの管理・飼育が、エレンとその母親だけに残される。途方にくれるエレン。自力でやるしかない。囲いを破って出て行ってしまった何百頭ものトナカイを狙って、雪原の向こうから狼が牙をむき出して駆けてくる。大雪原で、エレンはたった一人、こん棒を片手に「オーッ」と叫びながら仁王立ちになって、狼たちに立ち向かう。

監禁されている男たちの真実を明らかにするため裁判をしてほしいという願いは実現する。しかし、村人たちの願いとは逆に男たちは実刑を言い渡される。その上、エレン自身も、牧師に面と向かって「悪魔だ」と悪態をついた罪で17年間の強制労働送りとなる。しかも、エレンの家のほとんどのトナカイが罰金と裁判費用の支払いのため殺戮されることが決まる。

トナカイはサーメ人にとって命そのもの。ついに村人たちの怒りは爆発。集まって、酒場に決闘に出かける。乱闘となり、酒場の主人たちは彼らに殺害される。関わったサーメ人全員が逮捕される。うち2人のサーメ男性は殺人罪で、大勢の村人の目の前で首を切られる。

ノルウェー政府とキリスト教教会が、この事件の不正を認め公に謝罪したのは、150年後、1997年のことだった――最後にスクリーンに写し出されたこの言葉に、作者の強い怒りが表れている。

映画を製作したニルス・ガウプ監督は、エレンの子孫にあたる。10年間の構想の末、着手。2008年に初公開。北欧で評判となった。しかしノルウェー政府、キリスト教、裁判所など巨大権力に対する抵抗がテーマであり、非難もあがったという。

ガウプ監督の作品はアカデミー賞にノミネイトされた著名な映画監督。映画の英語名はKautokeino Rebellion。ノルウェー語の原題はKautokeino-opproret。音楽はマリ・ボイネ。

果てしなく広がる真っ白な雪原を、何千頭ものトナカイの群れがダーッと嵐のように走るシーン、自然と動物のダイナミズム、美しく悲しく時に力強いテーマ音楽…。ノルウェー映画史上最も潤沢に資金を使った作品のひとつだという。ノルウェー政府はじめ、デンマークやスウェーデン政府からも資金が拠出された。重いテーマを娯楽映画にするのは簡単ではない。公的支援が不可欠だ。北海道のアイヌの人たちに対して、政府はどのような支援をしてきたのだろうか、と、わが日本の政策を考えてしまう。

さて、この9月、ノルウェーでは国政選挙の投票がある。ノルウェーには通常の国会とは別に、サーメ国会があり、サーメ文化の継承と発展に寄与している。ノルウェー全土の13選挙区から国会議員が選ばれる。選挙の方法は、非サーメ人の方法と同じ比例代表制。18歳から選挙権があり、各政党の候補者リストは男女交互に並ぶ。その結果、サーメ国会も4割近くが女性議員で占められ、2005年には過半数が女性議員となった。サーメ国会にかかる費用はノルウェー政府が負担している。

http://www.nfi.no/english/norwegianfilms/show.html?id=699
http://eng.kilden.forskningsradet.no/c52778/nyhet/vis.html?tid=52948
http://www.ssb.no/english/subjects/00/01/10/sametingsvalg_en/

photo http://www.nfi.no/english/norwegianfilms/show.html?id=699
by bekokuma321 | 2009-07-26 01:01 | ノルウェー