今年のソニア賞は、トロンハイム市のイーラ小学校が受賞した。

ソニア賞とはノルウェーのソニア王妃が授与する教育賞。ノルウェー全土の小中高から、平等と包括性(equality and inclusive)にすぐれた活動をしているとみなされた1校が選ばれる。

トロンハイム市立イーラ小学校は、1770年に創設された。1年生から7年生まで全校生徒425人。その20%がマイノリティ。生徒たちの母言語は25にのぼる。

11月29日の授与式にはソニア王妃が出席した。王妃は、式典だけでなく、イーラ小学校の授業にも参加した。ノルウェーのニュース動画や写真(ベーゲーVG、2016.11.30)は、王妃を迎える、生徒たちののびやかな姿を伝えている。

6年生の「料理と健康のクラス」に王妃が入室する。王妃のそばには案内役の生徒会会長がいる。その少し後ろに校長、さらにもっと後に市長(頭しか見えない)とソニア賞選考委員会代表が見える。クラスの先生は見えない。生徒が主人公であることは一目瞭然だ。

王妃から「私もこの学校に入れるかしら?」と聞かれて、生徒たちは「もちろん」。すると王妃は「大人でもいいの?」。すかさず、再び「もちろん!」。

「新入生受け入れクラス」という、生徒同士で教え合うグループの存在も、ユニークだ。移民の子どもたちが、学校生活にとけこめるようにするために設けられた。「新入生受け入れクラス」で教えるのは、ソマリアからの移民の小学生だ。彼女はノルウェーに来てわずか4年しかたっていないが、ノルウェー語にも学校生活にも慣れて、今ではノルウェー語を理解できない移民の新入生に教える側だという。隣にはシリアとベトナムから来た生徒が座っている。

さらに重要な点は、教員にも移民出身がいることだ。王妃が、ベールを被った女性教員2人とあいさつをしている写真もある。

ソニア賞選考委員会の文書によると、イーラ小学校のすばらしさは、マイノリティの生徒を進んで受け入れているだけでなく、マイノリティの生徒たちが「ここは安心だ」と思えるような具体策があり、長年にわたって学校ぐるみーー生徒、教員、職員、保護者ーーでとりくまれていることだ。

「イ―ラ、世界の中心」と名づけられた文化祭では、1週間、生徒中心に多彩な文化・芸術が咲き誇る。加えて、対話を重視する、学校独自の「いじめ対策・行動計画」も高く評価された。

強調したいのは、こうした活動の決定から実行のすべてに生徒会が深くかかわっていて、それこそが「民主主義の基本である」と評価されたことだ。

ちなみにノルウェーの生徒会組織は、生徒に影響を及ぼす環境に関して教員や保護者の組織とともに、主体的に関わる。高校生になると、生徒会は県議会に提案し議会で意見を述べる権利を持つ(教育法11条)。そもそも、学校教育の目標は、「民主主義、平等、科学的思考を促進するため」とされている(教育法1条)。

ソニア賞の賞金は25万クローネ(約340万円)と絵画。だけど、イーラ小学校の生み出す「平等や包括の精神」は、クローネをいくら積んでも測れないほどの値打ちがある、と私は思う。

Dronning Sonja om flyktninger: – Viktig å vise raushet
Dronning Sonjas skolepris til Ila skole
Want to apply
ノルウェー国王のスピーチ録画、277万回再生される
ダウン症の人には「何でもやれる能力がある」
映画『パパ、ママをぶたないで』が生まれた国ノルウェー

【追記】大事なことを書き忘れていた。ノルウェーの小学校には、始業前と放課後に学童保育が完備されている。ソニア賞選考委員会は、学童保育所の「平等や包括の精神」をも評価して、ベストと決めた。

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 ▲トロンハイムの夏祭りを楽しむ市民や観光客。

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 ▲トロンハイムの風景。大きな川が流れていて、カヌーをこいでいる人が見える。

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# by bekokuma321 | 2016-12-01 19:06 | ノルウェー | Trackback

c0166264_125889.jpg2015年11月30日、秋田で、政党交付金をめぐる裁判の最後の報告会をした。

ちょうど1年前の今日だ。

裁判長の強い要請を受け入れて、私は和解をした。足かけ3年、自宅のある長野から秋田に通った。その距離4万余キロ。地球一周だった。そんな裁判を支えた弁護団や友人たちが集ってくれた。

私が提訴したのは、国民の税金でつくられた「政党交付金」が、選挙に手慣れた人たちの手で、不当な使われ方をしている、と、わかったからだ。

裁判長は、私の言い分をほぼ認め、被告側の行為を「不適切行為」とした。被告は私に詫びたため、不本意だったが和解に応じた。

政党交付金は、その後、やれ、ワインだ、うちわだ、カレンダーだ、SMバーだ、キャバクラだ、と騒がれた大臣や議員が大きく報道された。

ワインは小渕優子経済産業大臣、うちわは松島みどり法務大臣、カレンダーは御法川のぶひで議員、SMバーは、小渕大臣が辞任した後に就任した宮沢洋一経済産業大臣。キャバクラは、東京都板橋区から出た太田順子さんの選対を務めた民主党区議会議員たち。

そうそう、舛添都知事事件もあった。彼は政党交付金を美術品や自宅内の事務所家賃に使っていた。先月は、民主党(現民進党)富山県連が、組織ぐるみで政党交付金を不正に使用し、その額「少なくとも計4525万3468円」と報道があった。最近では、政党交付金を含む政治資金を使って高級ホテルでグルメ三昧の国会議員がズラリと報道されている(注1)。

私の場合、ことの始めは、民主党支持率が最低を更新していた2012年秋。秋田3区の民主党国会議員が離党し、そのポストが空いた。2カ月にわたる要請を受けて、私は秋田移住を決意した。そして解散総選挙。落選は覚悟のうえだった私は、落選後、再挑戦する意思を表明した。

ところが選挙後5日目の夜、5人が自宅(兼事務所)にあがり込んで、「あなたがいると票が減る、出て行くように」と追い出し宣告。さらに「あなたやあなたの友人たちは選挙違反をした。家宅捜査だ、連座制だ」と脅した(後、事実無根と判明:注2)。収支報告を見せてほしいという私の要請には、だんまりを決め込んだ。

裁判でわかった(注3)のだが、被告側は、私の政治活動に使うべき「政党交付金」を十分に使わずに、「基金」として貯めこんでいた。

どうしてそんなことがやれたか。

それはこうだ。衆議院議員候補は政党支部長に就任する→支部長名義の口座をつくる→党本部から政党交付金が口座に送金される→口座の通帳やハンコを一手に握る議員秘書が勝手に出し入れする。

政党交付金は、全国民が1人250円を出し合った血税だ。「政党の健全な活動」のためと、1994年創設された。「民意をひどく歪めた政党の勢力分布をつくってしまう、非常に悪い制度」(石川真澄)である小選挙区制と抱き合わせで導入された。年間320億円、世界一高額だという。

20年経って、「結果として、政党の活力が奪われました」と言ったのは、細川内閣で、その制度設計に関わった成田憲彦さんだ(朝日 2015.10.17)。

政党交付金は小選挙区制とは相いれない。政党中心の比例代表制選挙ならわかる。それに「政党活動の自由」を盾に、何に使ってもいいとされているのだから、選挙にたけた人たちの手で、候補者の選挙マシーンに流されたり、「私腹肥やし」にされるだけだ。

女性や少数派の民意が反映されない小選挙区制、政党活動を停滞させる政党交付金制。これは、絶対、絶対、間違っている! 

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【注1】自民党有力国会議員の場合、収入にはパーティなどで集めた政治資金がはいっているため、全てが「政党交付金」からの支出とは言えない。
【注2】逆に、判明したのは、民主党秋田の幹部らが、ポスター張りをしていないのにしたことにして領収書偽造して、選挙費用を横領着服した事実だった。
【注3】衆院選・裁判をきっかけにできた、女性と選挙・政治を考えるサイトさみどりの会ホームページには裁判情報が掲載されている。
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# by bekokuma321 | 2016-11-30 02:03 | 秋田 | Trackback

トランプ効果

アメリカの大統領選は、トランプ候補の当選に終わった。実はクリントン候補が180万票ほど多く取った、にもかかわらず。

選挙制度のせいである。各州で1票でも多くとったほうに選挙人全員が割り当てられるため、トランプの選挙人は300人以上。過半数270人をはるかに越える。たとえば、ある州でトランプ50.1%、クリントン49.9%だったとすると、その州の全ての選挙人は、トランプに回って、クリントンには1人も行かない。

死に票がごっそり出る選挙制度だ。無慈悲にも、「勝者総取り方式 Winner take all」と呼ばれているらしい。

選挙制度が歪んでいる上に、アメリカでは、投票集計に何か問題があったのではないかという疑いが浮上している。ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州の3州で、票の数え直しの要求があり、実際、ある州では再集計が行われているという。

c0166264_20362446.jpg一方、トランプ候補の女性差別、人種差別、イスラム差別、同性愛差別に対して、反トランプ・デモが続けられている。11月8日だけで、全米30市、16大学で大きなデモがあった(Wikipedia)。アメリカ国外にも広がっている。

おもしろいのは、北欧ノルウェーだ。

大統領選の結果がわかった11月8日、ノルウェー労働党はただちにデモをした。スローガンは、こうだ。

「今朝のアメリカの選挙にがっかりしているあなた。来年の9月12日はがっかりしないように」

「投票日まで300日。新しい政府に変えよう」

トランプ当選のような悪夢をみたくなかったら、選挙で態度を示そう! なるほど「民主主義度、世界一の国」の国民は考えることが違う。

このデモに呼応するかのように、労働党を先頭にほぼすべての左派政党で党員数が伸びていると、報道されている。現在ノルウェーは保守党を軸とする右派政権であり、労働党は野党だが、今、選挙をしたら、左派92議席、右派72議席と、左派中道政権に戻る。トランプ効果だ。

ここで強調したいのは、ノルウェーには解散がないことだ。国政選挙は4年ごと。9月の月曜日と定められている。選挙のある年の前年暮れには政党が候補者を決めて、メディアで公開される。そう、ちょうど今頃、来秋の選挙の候補者が決まる

9月の選挙では、投票者は政党を選ぶ。だから、候補者個人が、顔や名前を売ったりする必要は全くない。これから9月まで300日。その間、じっくりと時間をかけて、政策を伝えては論争をして、党員を獲得する。これがノルウェーの選挙運動だ。もちろん、選挙期間はない。こういう選挙だから、育児休業中の女性も当選できる。

日本は、小選挙区制という死に票の多い選挙であるうえ、選挙期間が驚くほど短い。それに首相に解散権があるため、選挙日程はギリギリまでわからない。突然の解散・短期決戦となると、現職が有利なのは目に見えている。新人ーーとりわけ女性には新人が多いーーは、有名タレントか世襲でない限りほぼ絶望的だ。

日本の女性の国会議員数は世界で最低ランクだが、この制度が続く限り、女性議員を増やすことは、これまた絶望的だ。

制度を変えるのは容易ではない。でも、イギリスを除く多くのヨーロッパ諸国は、比例代表制に移行している。ノルウェーは、100年ほど前に小選挙区制を捨てて比例代表制にした。元祖小選挙区の国イギリスでも小選挙区制への不満がわき起こっているという。


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▲ノルウェー国会の前で遊ぶ小学生

豊かさとは
世界一民主的な国
イギリス6割が選挙制度改革に賛成
Emigrate now - to Ringerike(「ノルウェー自治体へ移民を」と、米大統領選挙後の移住希望者を勧誘する緊急サイト。アメリカ人とりわけノルウェー系アメリカ人に呼びかけている)
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# by bekokuma321 | 2016-11-26 21:47 | ノルウェー | Trackback

c0166264_1116543.jpg大学1年になる親戚の男の子が、「18歳になったので今年から選挙権があるんだけど、よくわからないから結局棄権してしまった」と言ったのが気になっていました。

そんな時、三井マリ子さんの「高校生が議員になれる国ノルウェーの選挙」に参加しました。

まず、高校生議員が生まれる背景を知りたかったのですが、何と小学生から授業の中で実際の政治に触れ、政党への政策アンケートを小学生自身が作成したり、高校では立候補者を学校に招いて選挙討論会も実施されるという。やはり高校生が議員に立候補するまでには積み重ねがあったのだと実感しました。

ノルウェー公職選挙法では、18歳から投票できるだけではなく、立候補もできるとのことですが、「18歳になったら、原則として誰もが立候補する覚悟をする」という言葉が印象的でした。

投票ができるようになった日本の18歳も、もっと選挙や政治を身近なものにしていくことが必要だと思いました。ただ、落選確実と思って立候補したら当選してしまったというノルウェーの女子高生、1期やって政治家は向かないと2度と立候補しなかったようですが、彼女は任期中、どんな仕事ぶりだったのかを知りたい気がしました。

もう一つ驚いたのは、ノルウェーなど北欧諸国では、基本的に地方議員はボランティアであるということです。ボランティアだから、様々な職業の方が議員を務め、女性議員が3分の2を占める議会も出てきているのだろうという気がしました。

日本ではお金がなければ選挙にも出られないし、政治とお金の事件は後を絶ちません。比例代表制という民意が反映する選挙制度で、候補者は選挙にお金をかける必要がまったくないから、高校生も立候補し、当選できるのでしょう。

そんなノルウェーの議会も100年前は男性がほとんどだったことが、当時の写真からわかりました。まだまだ課題は山積ですが、日本でももっと女性議員が増え、過半数を超えるような時代が来るのを期待したいものです。

近江 真理(元都立高校教員)

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小選挙区制の日本、比例代表制のノルウェー
選挙制度しだいでは高校生が議員になれる
ノルウェーの2013年国政選挙
スクール・エレクション

■ノルウェー王国大使館「ノルウェーの地方選挙レポート 2011」
第1回 「女のクーデター」再び -平等・反差別オンブッドは語る
第2回 選挙運動を担うソーシャル・パートナー
第3回 女性参政権100周年から子ども参政権へ
第4回 北部ノルウェーを支えるサーメの女性たち


【写真上:高橋三栄子撮影、下:三井マリ子作成PPTデータより】
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# by bekokuma321 | 2016-11-26 11:29 | ノルウェー | Trackback

ダウン症の人「毎日幸せ」9割超――今朝の朝日新聞の見出しだ。私まで幸せな気分になった。

知的発達の遅れや心疾患を伴うことの多いダウン症だが、「豊かな感性や知性を発揮して活躍する人も多い」という。記事(岡崎明子)を読みながら、2011年秋、ノルウェーで出会ったニュースがよみがえってきた。

ノルウェーでは地方議会選挙と同時に、キリスト教区議会議員の選挙も行われる。その教区議員に初当選したダウン症の女性が紹介されていた。

当時の報道によると、教区議会に当選した女性はハンナ・アースタ(Hanne Aarstad, 29歳)。オスロの南部にあるフレデリスタに1人で住んでいるワーキング・ウーマンだ(注1)。小・中学生向けキリスト教クラブの指導者をつとめている。

フレデリスタを含むキリスト教教区の議会の議員候補になってほしいと言われた彼女は、すぐ「いいですよ」と。「とてもわくわくするような、挑戦的な仕事だと思ったから」だという。

取材に応えた彼女の言葉をいくつか和訳してみた。

「ダウン症がくれたチャンスを生かすことは重要なことです」

「あまり自分がダウン症だと感じたことはないのです。多くの人は私をずっと他の人と同じように見てきたと思うし、私も自分の症状のことばかり考えてはいません。中学の頃は考えましたが、今は、あまり考えることではありません」

「私はごく普通のワーキング・ウーマンです」

「私たちには何でもやれる能力があります。することに少し時間がかかりはしますが」

「議員に当選して、今日は自分にケーキを買って自分にお祝いをします。教区議員の仕事については今はまだよくわかりません。でも、教会をよくするために何ができるか考えたいです」

「私に、議員候補になってほしいと声をかけてくれたことに感謝します。ソーシャル・インクル―ジョン(障がい者などが社会に溶け込むこと)には、必要なことです」

ドキリとさせられる珠玉の言葉の数々。ノルウェーの徹底した平等教育の賜物に違いない(注2)。


【注1】ハンナは、2003年ごろ、FASVO社でサンドイッチなどを作る仕事をしていた。FASVOはフレデリスタ市が出資して1993年に創設された会社。日本でいうハローワークと連携しながら、障害の具合に適応した就業形態をつくりあげて、障がい者を雇用している。訓練のほか、パン、ケーキ製造販売や宅配、カフェテリア経営など、いろいろ。

【注2】ノルウェーには、障害を持つ子だけを集めた特別の学校はない。他の生徒と同じように一般の学校に入学して学習する。大きな特徴はその生徒に補助教員がつくことだ。しかし心身障害の程度もさまざまであり、教科によって対応が難しかったり、教員不足だったり、問題がないとはいえず絶えず議論されているようだ。ハンナは、Glemmen videregående skole卒業と書いているが、これは一般の高校である。

Til topps med Downs syndrom
日本ダウン症協会
Norsk Nettverk For Down Syndrom
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          ▲ノルウェーのStave Church.(本文とは関係ありません)
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# by bekokuma321 | 2016-11-24 23:56 | ノルウェー | Trackback